秋はのんびり1
冷たい風が吹き、落ち葉が舞う。
山の中腹にあるウカの神社は落ち葉だらけだった。空は快晴。うろこ雲がかなりの速さで通りすぎていく。
「あー……さっぶ……」
ウカは箒で大量の落ち葉を掃きながら震える。ちなみにまだ冬は来ていない。
「ウカちゃーん、終わった?」
ウカと同じ稲荷神のミタマがヘラヘラした顔で社から顔を出した。
「おわらなーい!」
「参拝客が足を滑らせないように落ち葉は掃いておいた方がいいよー」
ミタマは呑気に言うが彼は現在ウカの神社に居候中だ。彼の神社は大丈夫なのか?
「ミタマ君のとこは掃除しなくて大丈夫なわけ?」
「大丈夫!大丈夫!うちはじゃんけんで負けたリガノ君が……」
ミタマが不気味に笑う中、息を上げた青年稲荷リガノが戻ってきた。
「ぜー……ぜー……お前は鬼だな」
「ごくろう!」
「うわ……ひどっ……性格わる!」
ウカはどんよりした顔でミタマを睨んだ。
「……そ、そこまで言わなくても……。なんかグサーっといったな……今」
ミタマはしゅんと落ち込んで目を伏せた。
「ウカ、これはいいんだ。じゃんけんで負けたからな……」
真面目な青年稲荷はため息をつきつつ頷く。
「じゃあさ、うちのもじゃんけんで決めよーよ!負けた神が落ち葉の掃除、それから賽銭箱磨いて部屋の掃除、それとー……」
「ウカちゃんのが鬼!!」
ミタマがリガノに向き叫んだ。
「あら?それはダメなの?」
「……自分が負けたら自分でやるんだよ。それならいい」
きょとんとしているウカにミタマはイタズラに笑う。
「よーし!じゃあ気合い入れちゃうね!」
ウカはただのじゃんけんに本気を出した。三人は勢いよく利き手を繰り出す。
「じゃんけん……ポン!」
ミタマがパー、リガノもパー、そしてウカはグーだった。
「うわーん!!」
ウカはわかりやすく落ち込んだ。
「……ウカ……なぜ自分が苦手なじゃんけんで勝負をしようと思った……」
リガノが呆れ、ミタマは……
「ウカちゃんは集中すればするほどグーしか出さないよねー」
と笑いを必死で堪えていた。
「……はあ……」
ウカはなんだかせつなくなりながら何も変わらずに箒を動かし始めた。
「……でさ、リガノ、賽銭箱どうだった?」
ミタマは表情をもとに戻しリガノに尋ねる。
「……少しだけ動かされた形跡があったな。昨夜、じいさんらしき者が神社に来たんだろう?」
「そう。『いただきます』とテレパシーで声が届いた。ウカちゃんちにいるから姿の確認はできなかったけど……うちは誰も参拝に来てないからもちろん痛手はないけどね」
ついこの間発覚した賽銭泥棒の行方と真実を彼らは追っていた。
「……とりあえず間違いないのは賽銭泥棒だったということさ」
リガノは眉を寄せた。再び冷たい風が吹き、落ち葉が舞う。それからウカの「もー!」と怒る声が聞こえ、そろそろウカを手伝ってあげようかと思い始めた頃、突然に少女の声が響いた。
「大変ー!!」
「ん?」
ミタマとリガノ、ウカは鳥居を潜ってきた幼い少女稲荷に目を向けた。
「イナ!遅かったわね」
「大変!大変!箱からおじいさんがバーンでおじいさんのお金が走り去って瞬間移動でおじいさんがシュッと!!」
イナはそれどころじゃないと変なジェスチャーをし始めた。
「ちょっ……ほんとにまったくわからないから落ち着いて説明して!」
ウカの言葉にとりあえず息を吐いた稲荷のイナは目を忙しなく動かしながら説明を始めた。
「う、うん。……よし。例のおじいさん、うちに来た!!」
イナは興奮ぎみに叫んだ。
「イナちゃんのとこにも来たんだ。僕のとこにも来たんだよ」
ミタマが戸惑いながらつぶやくとイナは「それだけじゃない!」と続けた。
「おじいさんがね、同居している龍神の神社のお賽銭を持っていこうとしたの!でも警報が鳴ったからおじいさんは慌てて去っていったんだ。でね、次の日におじいさんがまた来てさ、賽銭箱にお金いれて当たり前みたいにお願いしてったの!」
イナの言葉を聞いた一同は唸る。リガノが代表して声を上げた。
「……奇妙だな……。盗みに来ているのに次の日に賽銭入れて願いを叶えにきたか。……なんてお願いだったのだ?」
「それがね……ほんと、他愛もなくて……平和に暮らせますようにって願いで社務所で御朱印もらっていたよ……?私の神社には来なかったんだけど」
イナは動揺しながらウカ達を仰ぐ。
「……わからないわね……。……まさか……」
ウカの言葉に一同の視線がウカに向く。
「別の人……」
「……別の……。あ!双子!!」
ミタマは閃いて叫んだ。
「双子か……しかし、両方とも足を痛めているのか?」
「まあ、偶然でもその可能性があるね。ウカちゃんちにだいぶん前に来たのはどっちなんだろ?」
ミタマがウカを見るがウカはあの時に回線をクリーンにしておくのを忘れ、おじいさんの言葉はなにもわからなかった。だから見られても困った。
「……盗まれるものなかったしわかんない……トホホ」
「だよね……よしよし」
なんだか傷に塩を塗ってしまったミタマははにかみながらウカの頭を撫でた。




