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やる気が出る九月?2

「さあてと、まずは……」

ウカはてきとうに歩きつつ、おじいさんの行動を考える。


……おじいさんはうちの神社の他にミノさんのとこにも行っている。

うちとミノさんの神社はそんなに離れていない。

つまり、この辺の人。

……てか……範囲が広すぎる……。


ここら辺は田舎でもなく都会でもない。ミノさんの神社方面はどちらかといえば都会だ。駅が近くてショッピングセンターや商店街、学校などがある。


少し離れると田んぼや畑が残る住宅街に出る。その辺がウカの神社だ。


しばらく唸っているとウカの横をアキアカネがすぃーっと通りすぎていった。


「……ダメ元で赤トンボについてこう……」

頭を使ったことがあまりないウカは運任せでアキアカネを追った。

アキアカネは空き地を通りすぎて近くにある林に入っていった。


「うそ……林!?」

ウカはため息をつきながら必死に林の中へ入った。

なぜこんなに必死にアキアカネを追っているのか自分でもわからない。

ふと、横を見るとススキが生えていた。


「あ、ついでに」

ウカはちゃっかりススキを二、三本いただき、持ってきていたカゴバッグに入れる。

アキアカネを見失わないように素早く済ませると奥地に進むアキアカネを追った。


「どんどん山の中にはいっちゃうんですけどー……」

不安になってきたウカは小さい声でアキアカネに話しかける。

しかし、アキアカネは答えることはなかった。

しばらく歩くと少し開けた草原に出た。

ここでもススキが沢山自生している。

アキアカネは他にいたアキアカネと混ざり飛んでいってしまった。


「……はあー、私、何してたのかしら……馬鹿馬鹿しい……」

ウカがため息混じりに言葉を紡ぐと帰ろうと踵を返した。


しかし……


「あれ……ここ、どこ??」

夢中でアキアカネを追っていたため場所がわからなくなってしまっていた。


「しまったわ……どうしましょう……」

急に不安になり辺りを見回し始めたウカは呆然と佇んだ。

とりあえず、山を降りようと元来た林に戻ろうとした刹那、何かに思い切り頬を叩かれた。ウカは勢いよく跳ねてススキの中に落ちた。


「い、痛い……な、何?」

殴られた左頬を押さえながら襲ってきた相手を探す。

「俺の神社によくも入ってきたな……なまけもんの稲荷がっ……」

男の声が聞こえた。


「だ、だれ……」

「ほんとは殴ってやろーかと思ったがパーにしといてやったぜ。天御柱(あまのみはしら)様との約束があるからなー」

ウカの前に赤い髪の少年寄りな青年が現れた。

目付きは鋭く、鬼のお面をしている。


「はっ……」

ウカは雰囲気と天御柱神(あまのみらしらのかみ)という単語で厄神であることにすぐに気がついた。


「ここは俺の神社だ。高天原北のしもべが何の用だよ?返答によっちゃあ……消すぞ……」

赤い髪の少年は狂気的な笑みを浮かべるとポキポキと指を鳴らした。


「まま、待って!ごめんなさい!すぐに出ていきますから!」

ウカは怯えながらあやまった。

よく見ると遠くに手入れされた小さい社があった。

鳥居がこじんまりと建っている。


「じゃあさっさと出ていけ!お前んとこで祈りにきたじーさんが叶わないから俺んとこに来たんだ。厄まみれだったぞ。厄神にわざわざ祈りにくるなんざ、手当たり次第回ったんだな。そこにいるアホ稲荷のせいでな。お前の顔なんざ見たくねぇんだよ!このクズ!」

「……そ、そんな……」

厄神に怒鳴られウカは涙を浮かべた。


「早く出てけよ!ぶん殴りたくてしょうがねーのを抑えてんだからよ!」

「そ、そんな……殴るなんて暴行はっ……」

逃げようかと思ったが腰が抜けてしまい、ウカは逃げられなかった。


「天御柱様には女を殴るなとか制約をつけられたが蹴るならいいのかな?」

「ちょっと待って!それもダメだと思う!」

ウカは狂気的な笑みを浮かべる厄神に必死に叫ぶ。


「ウカちゃん!」

「ウカ!」

絶体絶命な時にミタマとリガノの声が聞こえた。


「……うえーん……」

ウカは声のした方を向いて姿を確認した時に子供のように泣きじゃくった。


「まったく……俺達がウカの神力を追えなかったらどうするつもりだったんだ」

リガノは呆れた声でウカに言った。


「ここ、山が意味深に残されてると思ったら厄神のたたり神がいたかー。人間に恐怖心で信仰させている神……。まあ、とりあえず……女の子に暴力は許せねーな」

ミタマはいままでにない静かな怒りを見せていた。


「なんだと思ったらダメ稲荷か。そこの女は契約通り殴ってねーよ。ぶっ叩いたがな。ひひひ……」

「ひどいやつだな」

狂気に笑う厄神にリガノもイラついた顔を向けた。


「お前、風渦神(かぜうずのかみ)だろ。アマテラス様と同等の輝照姫大神(こうしょうきおおみかみ)サキ様をたいそう苦しめたそうだな。で、天御柱神(あまのみはしらのかみ)様に厳重注意を受けた。お前もクズ厄神だ」

ミタマの挑発に少年、風渦神は「上等だぜ」と怒りをあらわにした。


「俺達、けっこう喧嘩は強いぞ」

「……そうだね。意外にね……」

武者震いをしているリガノとミタマの迫力にウカは圧されたがこのままでは解決しないので決死の覚悟で睨み合っている男達の間に入った。


「ちょっと……やめようよー……」

「ウカちゃん、邪魔だよ」

「怪我するぞ。ウカ」

なぜか仲間のミタマとリガノからも厳しく睨まれてわけわからなくなってきたウカはとりあえず、泣いた。


「うえーん……こわいよー……」


「うるせーんだよ!邪魔だ!!」

「ひっ……」

風渦神は気分が高まったのかウカを再びひっぱたいた。

乾いた音が響き、ウカがまたも地面に飛ばされる。

そこでミタマとリガノの理性は完全に怒りで吹っ飛んだ。


「上等だよ!!二回も女の子の顔を殴るなんて最低だな……このクソヤロウ……」

「またもウカを許さん……」

風渦神と稲荷神達は取っ組み合いの喧嘩を始めた。


「ちょっ……やめなさいよ!だ、誰か……誰か止めて!」

「おーい……」

ふと間の抜けた声がした。

振り向くとミノさんとイナが怯えつつ立っていた。

「やめろよー……」

ミノさんの声は消え入りそうで全く聞こえない。

「み、ミノさん、もっとおっきな声で……」

イナも消え入りそうな声でミノさんに指示を飛ばしていた。

「頼むよー……やめろー……怖いー……」

覇気の欠片もないミノさんは遠くから小さい声で喧嘩しているミタマ達に注意をする。

「……やっぱり……私が止めるしかないか……」

ミノさん達を見てダメだと悟ったウカはもう一度、男達の中に入ろうとした。

「お、おい!それは……だ、ダメだ!ち、畜生!俺が止めるぜ!もうー!!女が男の乱闘を止めようとすんじゃねーよ!!あぶねーぞ!」

ミノさんは涙目になりながら渦中に割り込んだ。

「や、やめろぉー……」

とても情けない声を出してオドオドと両者を止めようとする。


しかし、止まるどころか攻撃がミノさんにいってしまった。


「うぐああ……うえーん……痛い……」

「げっ……」

ミノさんにパンチをしてしまったミタマは慌てて手をひいた。

「うっ……」

ミノさんに重たい蹴りを入れてしまったリガノも慌てて足をひいた。


「邪魔だ!この怠け野郎!そこの女みてーにビービー泣きやがってよ!!」

風渦神はウカを睨み付けるとミノさんを拳で思い切り殴った。ウカの時よりも本気だ。


「いてーよ!!この野郎!」

しかし、ミノさんは倒れなかった。彼は意外に丈夫である。


「ウカを泣かしといてこの女だと!!」

「女を泣かせるなんて最低なんだよ!このクズ!」

「この暴力野郎が!!」

さらに火がついてしまったミタマとリガノは半分キレたミノさんと共に風渦神を攻撃し始めた。


「かかってこいよ!オラ!全員まとめて消してやるよ!」


「え?えー!!な、なんでこんなことに……なんにも解決しないじゃないの!!」

「う、ウカちゃん、ウカちゃん……に、逃げよう!ひとまず」

イナが素早く近くに寄り、腰の抜けたウカを引っ張り、慌てて林の中へと入っていった。

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