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やる気が出る九月?1

 九月になった。

 だいぶん風が冷たくなり蝉から秋の虫に鳴き声が移り始めた。

 遠い空にアキアカネが飛んでいく。


「はあー。過ごしやすくなったものねー」

 相変わらず稲荷神のウカは社内でゴロゴロしていた。ちなみに朝の九時過ぎである。布団を敷いて大の字で秋の涼しさを満喫する。


 ……幸せ……


「ちょい、ちょい、ウカさん??」

 ふと台所の方からウカと同じ稲荷神のミタマが割烹着姿で顔を出した。


「ん?」

「いや、『ん?』じゃなくて……暇なら月見団子作るの手伝ってよー」

「えー、だってやってって頼んだじゃないの」

「いや、あのさ、頼んだら誰でもやってくれるわけじゃないんだけどね?」

 ミタマは布団にくるまるウカを呆れた目で見据えた。


「おい、ウカ! 団子を食いたいなら手伝え……世の中甘くはないぞ」

 ミタマの影からエプロン姿の稲荷神、リガノが不機嫌に顔を出した。


「甘いのがいいわ。あんこ入れてって言ったじゃないの」

 ウカは呑気にそんなことを言った。


「はあ……」

 リガノとミタマは同時にため息をつき、目を合わせた。


「やるぞ」

 お互いに頷き合うと真顔でしかも無言でウカに近づいた。


「え? え? ちょっ……」

 いつもと違う彼らの行動に戸惑い、怯えた表情のウカはふたりの顔を交互に見つめていた。


「成敗!」

 ミタマとリガノは同時にウカが寝ていた布団をひっくり返した。

 ウカが「あーれー」と転がりながら壁にぶつかる。

 それを最後まで見ることなく二人はテキパキと布団をきれいに片付けた。


「ちょっと! 何すんのよ!」

「布団があるからダメなんだよ! 怠けるし!」

「布団は夜寝る時以外は出してはいけない!」

 ふたりに同時に叱られてウカはしゅんと下を向いた。


「……わかったわよ……お団子手伝うわ。というかあんたら……そんなにやる気だったっけ?」

「たぶんウカちゃんがなんもしなさすぎて逆にやる気がわいたんじゃないかなあ……」

「……変な効果がついたわけね……」

 ウカはため息混じりにつぶやくと重い腰を上げた。


 本日はお月見である。


 月神様達はウカ達とはあまり関係はないがこういう行事は楽しんでいる。


「ウカちゃん、アンコ、お団子に詰めといて」

「はーい。そういえばあんたら、料理できるのね……。最近毎日食事も作らせてる気がするけど……」


「今は男も料理できなきゃあ、モテないんだよ」

 ミタマは軽く笑った。

 ウカの社に泊まり始めてから一ヶ月が経つ。その期間にミタマとリガノが毎日せっせと食事を作っていた。宿泊料にしてくれと嫌な顔をせずにウカの分も作ってくれる。

 ウカからすると助かっているし、なによりひとりの時よりも楽しい。


 団子に美味しそうなアンコを詰めながらふと思う。


 ……私ってそういえば何もやってないわよね……。

 ……皆こんなに頑張っているのに。


「ねー、私ってさ、何にもやってないわよね」


 ウカがつぶやくと

「そうだね」

「そうだな」

 とそれぞれ容赦のない言葉が飛んできた。


「とほほ……」

 半分涙目でウカはアンコを詰めていく。


 ……な、なんか私もおじいさんの情報を集めないと。

 あれからパッタリとミノさんの神社に彼は来ていないらしい。

 ……どうしたらいいかしら?

 ……おじいさんの家を特定して調査、困りごとを予想する感じが一番いいかもしれないわ。


「ウカ、アンコ詰めすぎだ……」

 ふとリガノに声をかけられて咄嗟に手元を見た。

「あ……」

 アンコがお団子の半分以上を占めていた。

「はあ……」

 仕方なく多い分のアンコを食べておいた。

「……よし。こんなとこかな!」

 ミタマができた月見団子を満足そうに見つめながら微笑んだ。


「お月様みたいでキレイ!」

「ふむ」

 ウカもリガノも高く積まれたお団子を見て大きく頷いた。


「後はススキとか栗とかがいるね。今日は晴れだし名月だよ!」

「あ、じゃあ私がススキとか栗とか用意するわ!」

 ウカはすかさず手を上げ、外に出る準備を始めた。


「え? ちょっ……」

 ミタマとリガノが慌てている内にウカは「いってきまーす」と出て行ってしまった。

「ちょっと! ウカちゃん??」

「そこはかとなく嫌な予感がするな」

 ミタマとリガノは割烹着やエプロンを素早く脱ぐとため息混じりにウカを追って社外に足を進めた。


 ウカには違う目的があった。

 それは内緒でおじいさんの情報を集めること。

 ……まあ、ずっと干物なわけいかないし……。

 どうやら涼しくなってやる気が出てきたようだ。

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