八月は暑い!2
うだる暑さの中、四柱は稲荷神にかすっている穀物神ミノさんの神社までやってきた。
酷暑のようで誰も歩いていない。
ミノさんの神社は商店街の先にある大きなスーパーの裏手にあった。大通りの裏側なのでもともと閑散としている。
山がそこだけ残っており長い階段の上に鳥居があった。
「ぜぇ……はあ……ぜぇ……」
ここまで歩いてきて息の上がった面々は最後の階段を半分死んでいる顔で見上げた。
「嘘でしょ……マジもう無理なんだけど……」
「やっぱこんなクソ暑い日に来るのが間違いだったね! 人歩いてないし」
ウカの言葉にイナが自慢げに胸を張って答えた。
「イナちゃん……」
ミタマは暑さで溶けたドロドロな顔でため息ついた。
「もう、ここまで来ちゃったから気合いで行くわよ! ミノさんちに着いたらお茶飲ませてもらいましょ!」
なんだか目的が変わっているウカが皆を奮い立たせた。
「よし!」
暑さのせいでおかしくなっていたウカ達はミノさんの神社にお茶を飲みに行くという謎の目的のために階段を上る。
息が上がり、汗でドロドロになった時、ようやく階段を上りきれた。
「やったー!! やりきったぞ!! 上りきったぞー!!」
イナがすかさず拳を天高く上げた。
「いえーい!!」
異常な雰囲気が渦巻く中、この神社の祭神である狐耳の男神、ミノさんは賽銭箱から怯えた顔を覗かせてこちらをうかがっていた。
きれいな水色の瞳に濃い金色の短い髪、狐の耳に赤いちゃんちゃんこの若い男である。
「あ、あの……おたくらは……どちらさんで??」
ミノさんは恐る恐るウカ達に声をかけてきた。
「あ……」
ウカ達はミノさんの声に気がつき振り向いた。
「あー、あたしはウカよ!」
「イナチャン!!」
「ミタマっす」
「リガノだ……」
ウカ達はそれぞれ挨拶をした。
「あー! おたくらあれだな! 最下層の!!」
「最下層言うな!!」
「す、すまん……」
ウカに鋭く怒られミノさんは小さくなってあやまった。
「で……おたくらは何しに?」
「何ってお茶を飲ませてもらいに来たのよ」
「はあ??」
ウカの発言にミノさんは思わず苦笑いをした。
ミノさんの目は「何言ってるの? こいつら……」と言っている。
「お茶を飲みにわざわざこのクソ暑い中を……」
ミノさんがそこまで言った時、我に返り正常に戻ったミタマが叫んだ。
「ウカちゃん! 違うでしょ!」
「あ……」
ウカは固まった。
「ああー!! 監視するはずだったのにー!!」
「監視ってなんだよ!?」
ウカの言葉にミノさんは再び怯えの色を見せた。
「ああ、ミノさんってば引き締まったいい体してるんだね……」
ぼそりとつぶやいたウカにミノさんはさらに怯え始めた。
ちなみにどうでもいいがミノさんは鍛えてもいないのに細マッチョである。
「ま、まあなんでもいいんだが……お茶飲むか?」
「飲むー!!」
ミノさんにウカ達はそれぞれ必死に声を上げた。
ミノさんは一同を社内部の霊的空間に案内するとちゃぶ台を出してから冷たい麦茶を持ってきた。
ミノさんの社内部は畳のワンルームだ。少し男くさい匂いがした。
「おやつなんかないの? 水菓子とか! 氷菓子とか!」
余裕が出てきたイナが余計なことまでミノさんにねだる。
「ねーよ……」
「ちぇ……」
「なんだかすまぬ……」
リガノがイナのおねだりに対しミノさんにあやまった。
「まあ、なんだかわからんが……なんで俺を監視するとか言ってるわけ?」
ミノさんは呆れながらちゃぶ台のわきに座った。
「そう! それよ。あんたんとこに人間のおじいさん来なかった?」
ウカは麦茶を豪快に飲むとミノさんに詰め寄った。
「うぇ? 人間のじーさん? 来たが……それがなんだ?」
「やっぱり来てたね。ウカちゃん」
ミタマにウカは小さく頷いた。
「そのおじいさん、なんて言っていた?」
「うーん……大変申し上げにくいんだが……」
「なによ」
ミノさんが浮かない表情だったのでウカは言葉の先を急かした。
「テレパシー回線をクリーンにし忘れててだいぶんノイズが……」
「なんだってぇ!?」
ウカが鋭く睨んだのでミノさんはさらに小さい声で同じ言葉を発した。
「あの……回線をですね……クリーンにし忘れて……」
「あーんーたーねー!! あたし達が何のためにこんな汗たらしてっ!!」
ウカがちゃぶ台をバシンと思い切り叩いた。ミノさんの肩がはねる。
「ウカちゃん、落ち着いてー……ウカちゃんもひとのこと言えないでしょ!」
「うっ……」
ミタマの言葉にウカは一瞬詰まった。
「……一体なんだっていうんだよ……」
ミノさんは戸惑い声をあげた。
「いや、なんでもないわ……。もう、とりあえず帰るから……」
「そ、そうだね……帰ろうか」
ウカは麦茶ごちそうさまと言うと立ち上がった。ミタマもリガノもミノさんにひとつお礼を言うとウカに続き、はにかみながら社外へ出ていった。
「作戦会議だー!」
最後にイナがなぜか楽しそうに跳び跳ねて行った。
「な、なんだったんだよ……一体……」
ミノさんはひとり呆然と開け放たれた社の扉を見つめていた。
「うーん……」
社外に出たミタマは倒れそうな日差しの中、思う。
……おじいさんは運がない……
……きっと願いがいつまでも叶わないからミノさんとこにいったんだろうし……。
「このまんまだと上司の高天原北に叱られそうだぞ……」
「ミタマ君!暑いから早く帰ろ!」
急かすウカにため息をつきながらミタマは歩き始めた。




