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99話 つけられていました!?

 息を潜め、木壁に身を隠す。

 

 頭を出して森の様子を窺いながら、俺は隣のソルムに言う。


「ソルム、まずは火計で数を削ろう。俺がやつらの足元に石炭と獣脂を放つ。そこに火矢を」

「かしこまりました。洞窟を好むゴブリンは火が弱点。ボアが暴走する可能性もありますが」


 ソルムの声にイリアが自信にあふれた顔で言う。


「こちらに迫ってきたボアは私にお任せを。壁は超えさせません」

「メルクも手伝う。負傷者がいたらすぐ治せる」


 メルクもそう答えるので、ソルムは「それは心強い」と返した。ソルムはイリアたちが戦うところは目にしてないはずだが、その強さを察しているのだろう。


 そんなことを考えていると、森のほうから獣の声と木々の葉が揺れるような音が聞こえた。


「あと、十歩で出てくるはず」


 メルクの言う通り、もうすぐ出てくるはずだ。


「そうか……だが、向こうもこちらの様子を探るのに、森の中で一旦止まるかもしれない。向こうの出方を待とう」

「御意」


 ソルムは弓兵に矢を番えさせ、射撃の準備をさせた。


 それから、高い笑い声が響く。


「ヒヒっ。人間の匂いすル。人間どもまだ寝てるみたいダ」

「やル! 俺、人間の女欲しイ!」


 その声を皮切りに、森の中から無数の叫び声が上がった。


 出てきたのは、やはりゴブリンだ。鉄の武具を身に着けているが、胸当てだけだったりと比較的軽装の者が目立つ。


 数が百名ほどと考えると、偵察隊だろうか?抜け駆けしてやってきた連中かもしれない。


 俺はゴブリンがすべて森から出てくるのを待つ。木は立派な資源だ。できれば森には火を付けたくない。


「よし……今だ」


 森から飛び出してくるゴブリンがいなくなったのを見計らい、俺は立ち上がった。


 それからすぐ、彼らの足元に魔法工房から獣脂を溶かしたもの、そして石炭を放つ。


「人間!? な、なんだこレ?」

「痛くなイ! 脅かしやがっテ!」


 ゴブリンはこちらの意図に気が付かず、突撃してくる。


「ソルム、今だ」


 俺の声にソルムは頷くと、立ち上がって剣を掲げた。


「放て!!」


 ソルムの振り下ろされる剣を見て、騎士たちは一斉に火矢を放った。


「ギゃっ!?」

「あつイっ!」


 火矢が地面に刺さると、瞬く間にゴブリンたちの足元に火が広がる。

 その火はゴブリンたちを包み込んでいった。


「おお、うまく決まった!」


 騎士たちはそれを見て声を上げる。


 上手くゴブリン全体を火に包むことが出来た。このままなら、半数は焼死するだろう……しかし、ゴブリンたちの中央で強い魔力の反応が現れる。


 魔力が周囲に拡散したと思うと、ゴブリンの頭上に雨が降る。火は消されてしまった。


「水魔法……ゴブリンメイジか」


 俺はゴブリンの中央に立つ、樹冠を被ったゴブリンを見て言った。ゴブリンの中でも魔法を使える者がいる。そいつをゴブリンメイジと人間は呼んでいた。


「いや、二十は倒れました! 先制攻撃としては十分! 皆、攻撃を開始せよ!」


 ソルムも他の騎士から弓を受取りゴブリンに放つ。騎士たちも同様に矢を放った。


 ゴブリンたちも槍や石を撃ち返してきた。


 俺はマジックシールドを騎士たちに展開し、援護する。特にゴブリンメイジの水魔法を防ぐのに集中して。


 メルクとアスハもそんな俺を見て、風魔法で敵の攻撃を防いでくれた。


 中には矢弾を掻い潜って近づくボアに騎乗したゴブリンもいるが、彼らはイリアの刀によって斬られる。


 そうこうしている内に、敵は順調に減ってきていた。


 ソルムはもちろんだが、ソルムについてきた騎士たちも皆腕がいい。俺たちがいなかったとしても、撃退できただろう。


 一方、ゴブリンメイジは次々と仲間がやられるのを見て焦っているようだった。

 そのまま近くのゴブリンに何かを伝えると、そのゴブリンは角笛を響かせた。


 すると一斉にゴブリンたちは、森へと走り出す。


 ソルムはそれを見て呟く。


「……諦めたか?」

「だけど、もっと大きなのが近づいてくる……ボアよりももっと大きい。しかも早い」


 メルクは何かが近づいてくるのに気が付いたらしい。

 それからすぐ、俺とソルムも異変を察知した。地面が震えているのだ。


「……地揺れ? いや、この足音は!」


 ソルムは弓から大剣に持ち替え、壁を乗り越えた。


 俺もそんなソルムに続く。


「ソルム。こいつはきっと」

「ええ。キマイラでしょうな」


 獅子の頭と胴体、背中にはヤギの頭、尾は蛇の魔物だ。

 大きさは象の倍はあり、魔王軍の中でも特に強力な魔物だ。人間が百人ぐらいなら簡単に蹂躙されてしまう。


 皮膚も厚く、矢では射抜けないだろう。だからソルムも大剣に持ち替えたのだ。


「イリア。ソルムと一緒に前衛を頼めるか? やつには矢は通用しない」

「目を撃っても駄目でしょうか?」

「目は弱点だ……でも、やれるか?」

「やってみます。ソルム様、弓をお借りできますか?」


 ソルムはイリアにこくりと頷いて、弓と矢を手渡す。


 イリアは矢を番え、森を睨んだ。


 何かが森から飛び出してくる──そう思った時には、イリアがすでに矢を放っていた。


 キメラは駿馬のような速さでこちらへ飛び出してくると、一挙に農地の中央へと迫る。


 あの速さではさすがに当たらない……俺だけでなく誰もが思ったはずだ。

 しかしイリアの矢は、キメラの目を射抜く。


 矢を受けたキメラは棹立ちとなり、悲鳴を上げた。


 その隙を逃さず、ソルムは身の丈ほどもある大剣を振り上げキメラに肉薄していた。


「はあっ!!」


 ソルムの振るった大剣は、キメラの後ろ脚を斬りつける。


 そのまま崩れるキメラに、ソルムは容赦なく大剣を二度、三度と振るった。

 まずは尾の蛇を切り離し、その後にヤギの頭を両断した。


 大剣の扱いに関しては、騎士団でソルムの右に出る者はいなかった。あのロイグすらも舌を巻いていたほどだ。


 最後にソルムはキメラの獅子の頭部分に大剣を振り下ろす。


 キメラは短い悲鳴を上げると、ぴくりとも動かなくなった。


「さすが団長だ!」


 騎士たちはソルムの戦いぶりに声を上げた。


 だが、


「もう一匹来る!!」


 メルクがそう叫ぶと、ソルムは再び森へ大剣を構えた。


 イリアもすでに矢を番えている。


 もう一匹来ても、結果は同じだろう。


 そんなことを思っていると、突如森から叫び声が上がった。


「うぉおおおおおおおお!!」


 その叫びの後に鈍い音が響くと、森からは吹き飛ばされるようにキメラが飛んできた。


 キメラは地面に打ち付けられると、そのまま動かなくなる。


 ソルムを始め、騎士たちは何が起きたのかと困惑しているようだ。


 だが俺やイリアには分かる。


 あの大きすぎる叫びは……


「メッテか……」


 アスハもなぜかここに来た。メッテも後を付けていたのだろう。危機だと思い、キメラをメイスで吹き飛ばしてくれたのだ。


 森の中にいるようだが、ソルムたちには見られても問題ない。出てきてもいいだろう。


 ともかく、俺はソルムに大丈夫だと小さく頷いた。


 するとソルムは大剣を掲げて言う。


「我々の勝利だ!」


 ソルムがそう叫ぶと、他の騎士たちはおおと勝どきを上げるのだった。

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