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93話 会議を開きました!

長らく更新できず、申し訳ございませんでした。

追放モノとしては1章で完結しているので、今後は主に領地モノとして更新していければと思います。よろしければ今後も読んでいただけると幸いです。

 新しい朝が来た。


 今日は、この村にない物を手に入れようと、人の街に向かうことになっていた。


 ……その前に会議で皆の欲しい物を聞くのと、役割分担をしないとな。


 俺は上半身を起こし、今日も両隣で寝る者たちに目を移す。


 右には長い白銀の髪を伸ばした女の子──イリアが今日も俺の手を握りながら寝ていた。一見人間にしか見えない彼女だが、鬼人の族長だ。


 左にはぐうぐうと寝息を立てながら大の字で寝る、長い黒髪の女の子が。いつもはポニーテールにしている彼女は鬼人一の戦士メッテだ。

 俺の脚に自分の脚を乗せている。


 二人とも恥ずかしさで目を背けたくなるというか、ドキッとしてしまうほどの美女だ。


 目を逸らすと、俺の腹近くで寝るモフモフとした小さな狼──人狼のメルクが目を覚ます。


「おはよー、ヨシュア」

「おはよう、メルク」


 俺が言うと、隣の二人も目を覚ます。


 イリアは俺の手を握りながら言う。


「ヨシュア様、おはようございます」

「おはよう、ヨシュア……よし、ちゃんといるな」


 メッテはそう言って、俺の腕を掴んできた。


「大丈夫だって、本当に買い物に行くだけだから」


 そう答えるが、メッテは俺の手を離す気配がない。


 もともとシュバルツ騎士団をクビになった俺だが、この村に来て生産魔法で道具を作る内に、すっかり皆と打ち解けてしまった。

 今日は人間の街へ行くつもりなのだが、皆、俺が戻らないか心配なのだろう。


 大きなあくびをするメルクは、瞼を擦りながら周囲をきょろきょろと見る。


「アスハとエクレシアがいない」

「二人はきっと外じゃないかな。さっそく会議に向かうか」


 俺はそう言って、イリアたちと家を出た。


 外に出ると、すでに多くの亜人たちが仕事を始めていた。


 鬼人、人狼、天狗、エント、ミノタウロス……ここフェンデル村は、多様な亜人が集まって暮らしている。少し遠くには、エルフとドワーフも住んでおり、彼らとはフェンデル同盟という形で協力関係を結んでいる。


 また、スライムとゴーレム、モープという羊の魔物も、一緒にこの村に住んでいる。


 亜人たちは皆、今日も俺が生産魔法で作った道具を手にし、今日もそれぞれの仕事に向かうようだ。


 俺たちは村の中央に設けられた円卓を囲んで座る。


 そんな中、俺の相棒スライムのウィズと、巨大なもこもこ……モープたちがやってきた。


 モープの中でも一際大きな個体、リーダーのセレスが俺に挨拶する。


「メッメー! おはようっす、ヨシュア様!」

「セレス、おはよう。干し草以外にも、今日は色々買ってくるよ。なんか、いい作物買ってきて、草の代わりになるような物を育てられるようにするからさ」


 モープたちは草を根こそぎ食べてしまうため、しばらくは別の食料を食べてもらおうということになっていた。

 今日は街に、主に干し草買いにいこうと考えていた。


「楽しみにしてるっす! でも、草はもう心配いらないっす! エクレシアさんに言ったら、育ちやすい草があって、それなら毎日食べられるようにしてくれるって。今も、朝食の草を育ててもらってたっす!」

「ああ。だから、干し草はもう大丈夫だ」

 

 モープの後ろから現れて言うのは、緑髪を伸ばしたおっとりとした表情の美女だ。

 彼女はエクレシア。エントという樹形の亜人の長だが、このように人の姿にもなれる。


 エントは植物の成長を早めることができる。俺が干し草を買うと聞いて、エクレシアは草を育ててくれたのだろう。


 セレスとエクレシアが円卓を囲むと、メッテが言う。


「なら、人の街まで無理して行くこともないな」


 確かに主な目的であったモープたちの食料問題は解決されたので、人の街まで行く必要はない。


 しかしイリアが首を横に振る。


「ヨシュア様は他にも作物の種など、買うつもりだったのです。一度、人間の街に行きましょう」


 その言葉にメッテもエクレシアも心配そうな顔をする。


「大丈夫だって。それに、イリアの言う通り、作物の種とか欲しい物がある。それに、人間や魔王軍の情報を掴んでおきたい」


 俺たちは以前、南方から進行してきた魔王軍と北からやってきたシュバルツ騎士団を退けた。

 

 しかし、彼らが勢力を盛り返している可能性がある。

 特に魔王軍は、南方の人間の都市を落としてここまでやってきたのだ。人類世界と魔王領の狭間にあるこのフェンデル州からすれば、両勢力の最近の情勢がどうなっているか把握しておく必要がある。


「そうだな……ヨシュアも、久々に同族を見たいだろうし」

「メッテ。人間は何度か来ている」


 メルクの声に、メッテは「そう言われれば」と答えた。


 メルクの言う通り、騎士団や奴隷商など、俺はここに来ても人間を目にしていた。


 するとエクレシアが呟く。


「ヨシュア……そうだったな。ヨシュアと奴らも人間だったんだ」

「あまり、ヨシュアは人間っぽくない」


 メルクもそんなことを言った。


 イリアは俺を気遣ってか、あわてて答える。


「駄目ですよ。彼らが悪いだけで、ヨシュア様と同じように優しい方がいらっしゃるはずです!」

「そ、そうですね! ヨシュア、すまない」


 メッテとエクレシアは俺に頭を下げる。


 俺が人間に思えないか……確かに俺は、変わった人間なのかもしれない。


「いやいや、気にしないでくれ……でもまあ、本当に人間には油断ならない奴が多い。買う物を決めたら、少人数で行こう。そこで、何か欲しい物はあるか?」


 俺が言うと、メルクがすかさず口を開く。


「本が欲しい。特に魔法を勉強できる本」

「おお、そういえばメルクは魔法を学びたかったんだな」


 メルクは俺の作った魔法の杖で主に回復魔法を使っていた。だが、俺は生産魔法以外詳しくないため、あまりメルクに魔法を教えられていない。


「分かった。魔法の本は必ず買おう。他にもいくらか技術書が欲しいな。皆は他にあるか?」


 そう訊ねると、後ろから声が聞こえる。


「遅れてすみません、皆さん!」


 大急ぎでやってくるのはエルフのモニカと、ミノタウロスの長ベルドスだった。


「おお、二人とも。今、皆に人の街で欲しい物を聞いていたんだ」

「人の街に行かれるのですか。ですが、私たちは特に欲しい物は」


 円卓を囲むモニカの声に、ベルドスも口を開く。


「オレたちも特にない。欲しい物は十分もらっているからな」

「そうか。なら、あとは俺が選ばせてもらおう……と、ユミルとアスハも来たようだな」


 ドワーフの長の娘ユミルと、天狗の長アスハがやってくる。


「ごめん、ごめん、遅れちゃった! いい物が掘れてさ!」


 黒髪のユミルは、そう言って円卓の上に麻袋を置いた。


 中身は……


「白金か!」

「うん! 金でも銀でもないから、きっといいものだろうって父さんが!」

「ああ、高値で売れる。街で売ってきてもいいかな」

「もちろん! 次はもっといっぱいもってくるよ」


 ドワーフたちは鍛冶と採掘に長けているため、本当に助かっている。

 自分たちでも道具を作れるようになったみたいだし、発展も早い。


 次に隣に座るアスハが口を開いた。


「ヨシュア様。今日は北方に行かれると聞いて、少し偵察してきました。ですが、特に問題はないようです」

「そうだったか。いや、ありがとう。安心して人間の街に行けるよ」

 

 そう答えると、イリアが言う。


「これで皆さん、揃ったようですね。それでは会議を始めましょう」


 今日は、フェンデル同盟も大きくなってきたことだし、種族間である程度役割分担をするという話になっていた。


 とはいえ、確認のようなものだ。


 エルフたちはしばらく自給自足ができるようになるまで、特に役割は設けない。

 ドワーフたちも変わらず、採掘と鍛冶。

 鬼人と人狼、ミノタウロスは狩りや採集、漁、伐採など、手広く担当する。

 エントは農業という感じだ。


 魔物になるが、ゴーレムは採石、スライムは諸々の運搬が担当だ。


「モープたちだけ役割ない?」


 メルクがそんなことを呟くと、セレスが答える。


「うちらも畑の雑草や、石畳の植物を食う役目があるっす! こう見えて、偵察もやってるっす!」

「まあ、皆が必ずその役割をしようってわけじゃないから。一番は、皆好きなことをやるといい」


 その種族の全員が必ず種族の役割の仕事をしなければいけないというわけではない。あくまで得意そうなこと、というだけだ。例えば、別に鬼人が採掘をしてもいい。


 その後は細々とした集積場所や、輸送の時間と人員などを決め、会議は終わるのだった。

次回、街へ行きます!

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