77話 謎の儀式でした!?
「おお、なんだかわくわくする場所だな!」
メッテは城壁の前に並べられた的を見て声を上げた。
ここは訓練場だ。
エルフと思しき女性を助けた次の日、俺は村の北側に訓練場を設けた。
高い木の板で囲まれた空間に的を並べ、武器庫となる小屋も建ててある。
俺は喜ぶメッテに答える。
「ここなら、思う存分訓練できるだろう?」
「ああ。モープが突然飛び出して、矢が刺さりそうになることもない!」
メッテは嬉しそうに言う。
もともとこの訓練場はメッテが要望したものだ。
亜人が増えたこともあり、武器の訓練をするスペースが村になくなってきていた。
加えて、モープや亜人の子供は自由奔放なので、矢が当たってしまう恐れもあったのだ。
「そうだな。他の訓練……騎乗訓練をするような場所も決めたいな」
それだけじゃなく、火災を防ぐため調理場や鍛冶場をまとめたりと、区画分けも進めていきたい。
メッテは頷く。
「ああ……しかし、本当に驚いた。朝頼んだら、一時間もしない内にこれを作ってくれるんだから」
「まあ、特に難しい作業はないからな。これからも何かあったら作るよ。家具もだいたい数が揃ってきたところだし、すぐ対応できるはずだ」
「さすがは我が夫。頼りがいがある! 褒美だ……んっ」
メッテは俺の頬に唇で触れた。
……最近はことあるごとに、これだ。
恥ずかしいことこの上ないが、周囲に人がいないからまだましだ。
「それ、人前ではよしてくれよ……特に」
「ああ! 特に、姫の前ではやらん!」
堂々とメッテは言い放った。
イリアが一緒だったら、また口論に発展していただろう。
そのイリアは今、メルクと交代でエルフの面倒を見ているが。
俺が恥ずかしがる中、メッテは弓を取る。
「さっそくここで訓練してみるか! あの丸い的に矢を射ればいいのだろう?」
「ああ、そうだ。射撃用の丸い的の他に、槍や剣の訓練に必要な人型の的も作っているから、用途によって使い分けてくれ」
「ほうほう。これなら、思う存分暴れられそうだな!」
「いや、メッテが暴れたら一日と持たないよ……」
矢は矢じりを付けておらず、剣や槍も刃をつけてない。的もそれなりに頑丈にできている。
しかし、メッテや鬼人が本気を出せば簡単に壊れるのは確かだ。
「あくまで武器の使い方を教えるのが、ここの主な役目だ。これからも皆の訓練を頼むぞ」
「任せてくれ! ……うん、なんだか騒がしいな?」
訓練場の外からわあわあと声が上がった。
同時に、イリアの焦るような言葉が聞こえてきた。
「待ってください! ま、まずは服を着てから!」
「弓っ! 弓っ! 弓矢っ!」
遅れて響いたのは、聞きなれない声だった。
しかし……弓って?
弓がどうしたんだろう。
そんなことを思っていると、訓練場の門がばんと開く。
「弓っ!?」
門に立っていたのは、長い金髪の女性だった。
河で救出したエルフだ。
もう目覚めたようだ。
エルフは服も着ないで、まるで獲物を探す獣のように鋭い視線を周囲に送る。
ようやく目を留めた先にあったのは、メッテの弓だった。
「ゆ、弓ぃっ!」
エルフは一目散にメッテのほうに飛び出した。
「な、なんなんだ!? こいつは!?」
あのメッテがビビるように、身を引いている。
エルフはその隙を突くように、弓を奪取した。
そして両手で仰々しく弓を掲げると、感極まった顔で叫ぶ。
「弓ぃっ!!」
まるで神を崇めるかのようなエルフに、俺とメッテもぞっとしてしまう。
イリアとメルクがやってきたのは、そのすぐ後だった。




