57話 山の上を整備しました!
「まずは一旦、下りてと言いたいところだが……」
さすがにこのまま何もしないで山を去るのは、危険だ。
竜は倒しても、他に魔王軍の部隊が周辺にいる可能性もある。
しかも、ごつごつとした岩場で寝るのは、天狗たちも辛いだろう。
本格的な整備は後にするにしても、応急処置は必要だ。
「せっかくゴーレムを連れてきたんだ。山をいじって、住みやすいように整えよう。アスハ、早速だが手を加えてもいいか?」
俺はアスハが頷くのを見てから、ゴーレムたちに頂上と横穴の岩肌を均すように命じた。
「横穴はもう少し掘ってもいいだろう。いざとなったら籠れるように広くしたり、食料を蓄えられる場所をつくるんだ」
ゴーレムたちは俺に言われた通り、天狗たちの隠れていた横穴を掘り進めていく。
階段状にして、山の中側のほうに空間をつくるのだ。
一方で俺は、竜の骨を使って天狗たちの防具と盾をつくることにした。
軽くて頑丈な竜の骨は、空を飛ぶ天狗たちの身を守るのにうってつけだ。
素早さを損なうことなく、飛行できる。
形は鬼人たち同様、ラメラーアーマーにしよう。
骨を小さな札のようにまずは切り分け、それを束ねたものを鎧の形に整えていく。
とりあえずは鎧を五十着、盾を五十個ほどつくる。
天狗たちは、俺の作った防具に首を傾げる。
「これを着るのですか?」
アスハが呟くと、イリアが鎧を一着手にした。
「私がつけ方を教えましょう。メッテは、盾の使い方を皆さんに」
「承知しました!」
イリアとメッテは俺が作業する間、鎧の装着の仕方や、盾の使い方を天狗に教えてくれた。
武器のほうは、ちょっと工夫が必要だ。
というのも、今回はエントの葉と岩を大量に持ってきたために、鉄や木材を少量しか持ってきてない。
まあ、岩を入れてもまだ余裕があったので、もっと持ってきても良かったかもしれないが……
ともかく、今ある材料で作るしかない。
あるだけの木材を使い、槍を二十本作ることにした。
穂先は竜の爪を削り、刃にしたもの。
鋭さは普通の鉄とそう変わらないだろうが、硬く頑丈なので信頼性は高い。
また、軽いので投げ槍にもなるだろう。
使い捨てにするには少々惜しいが……
早速、俺の作った槍を興味深そうに見る者が現れた。
アスハだ。
「これは何ですか?」
「ああ、槍って言うんだが、初めてか?」
「はい。基本的に私たちは道具を使わないので」
「くちばしで狩りはできるもんな……これは、敵や獲物に刺して弱らせるんだ」
「なるほど……」
「持ってみな。でも、くれぐれも周りには気をつけてくれよ」
「はい」
アスハは早速竜骨の槍を手にした。
すると、それをとんがった岩のほうへと投げつけた。
だいたい、三十べートルは離れているだろうか。
腕力はさすがのようだ。
まるで矢のように素早く、遠く岩のほうへ飛んでいく。
でも、さすがに初めてなら外すだろう──え?
しかし、槍は見事にとんがった岩の中心へ突き刺さる。
「な……当てた……」
しかも岩に深く突き刺さっている。
竜骨の刃を使っていることを考えても、とんでもない力だ。
「当てた。すごい」
ぱちぱちとメルクはアスハに拍手を浴びせた。
「ありがとうございます……」
アスハは特に嬉しそうな様子もなく、無表情で言った。
……どことなくメルクとアスハは似てるな。
でも、メルクのほうは割と思ったことをすぐ口にするので、内気な雰囲気のアスハとはちょっと違うかも。
アスハはぽつりと呟く。
「すごいのはあの槍です。それを作ったヨシュア様はすごい。とにかくすごい人です。私、とても気に入りました」
いや、この子も割とはっきり物を言えそうだ……
俺はこの後、ゴーレムに被せていたモープの毛を使っていくらか布団を作った。
また天狗たちに狼煙を教え、街道に大量の人間か魔物が通ったら教えるようにも伝える。
そうして俺たちは、一旦村へと帰るのだった。




