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241話 決戦でした!

 大地が揺れ、目の前の紫鉄の鉄板がガタガタと揺れる。


 横を見れば、爆風で地面が抉れていくのが分かった。


 ヨモツが言う。


「──球形から動ける形に精霊を変形させている! 爆発自体はそんなに長くはないはずだ!」


 セレスが不安そうな表情で言う。


「で、でもやばくないっすか!?」

「案ずるな……メッテ、我らで!」

「ああ!!」


 メッテとベルドスは身を挺して壁を押さえてくれた。


 それを見た戦闘馬車に乗っていた小型のゴーレムたちもそれを手伝う。


 俺は少しでも補強になればと、マジックシールドを展開したり、壁の後方に新たに岩を積み上げていった。エクレシアも土を壁の後方に盛ってくれる。


 やがて爆風が落ち着いてきた。大精霊の攻撃が止んだようだ。

 

 壁に穴を開けて外を覗くと、再び多くの精霊と……その後方に刀のようなものを持つ巨大な青い人型がいた。人の十倍の大きさはあるだろうか。体に青い炎を纏って浮遊している。


 ヨモツはそれを見て、複雑そうな顔をしていた。


「……先ほどのような爆発はもう起こせない。しかし、強力な魔法は使える。あの刀から放たれる魔法は、岩の壁を一瞬で破壊する威力を持つ」

「弱点は?」


 メッテの声にヨモツは一旦目を瞑るが、すぐにこう答える。


「胴体に核がある。倒すには核を露出させて、核を攻撃する必要があるだろう……あの、纏っている青い炎を消せれば」


 深刻な面持ちのヨモツ。


 嘘ではないはずだ。魔力は胴の部分に集中している。


 しかしその魔力の球の中には……小さな人型のようなものも見られた。あそこにキュウビがいるのだろう。


「キュウビか……」


 とはいえ、俺たちは村を守らなければならない。すでに、周囲の精霊たちがこちらに迫ってきている。


「火か……火に対抗できるのは」


 水魔法だ。しかしここには水魔法を上手く扱える者はいない。


 セレスがすかさず答える。


「うちらモープが、エナちゃんや水魔法を使えるノワ族を超特急で呼んでくるっす! それまではなんとか耐えるっす!」


 メルクが俺に顔を向ける。


「近くに川がある。アスハに風を操ってもらい、キュウビに水をかけてもらう」

「そうしよう……皆、俺はこれから、キュウビとの間に石壁とマジックシールドを何枚も展開する。キュウビが魔法を撃ち始めたら、セレスたちモープは村へ」

「メッメー! 任せるっす!」

「イリア、メッテ、モニカは石壁を駆使して逃げ回りながら、弓でキュウビを攻撃してほしい。ベルドスは、三人に精霊が寄らないよう頼む。これは、あくまでもエナたちが来るまでの時間稼ぎだ」


 その言葉にイリアたちはうんと頷く。


「アスハは東の川を目指してくれ。今ロネアを召喚するから、彼女に護衛してもらう」


 俺は召喚石からロネアを召喚する。


「ロネア、アスハの護衛を」

「かしこまりました」

「エクレシアとユミル、ヨモツは、石壁を展開する俺の護衛を頼む……皆、頼んだぞ」


 俺の声に皆、おうと応える。


 そうして作戦が始まった。


 まず俺が紫鉄の壁から姿を現し、一挙に大量の石壁をキュウビとの間に展開していく。


 それに気づいたキュウビは、すぐに刀を振って青い炎球を放ってきた。


「メッメー! 今っす!」


 セレスたちモープは、一挙に北へと走り出す。


 イリアたちも行動を開始する。すぐに他の石壁の後方へ走り出した。


 アスハもロネアと共に川へと飛んだ。


 一斉に四方へと散った俺たちだが、キュウビはまず一番近くのイリアたちを攻撃することに決めたらしい。イリアが最も危険であると断じた可能性もある。


 キュウビは再び炎球を、味方の精霊も気にせずに連続で撃ち始めた。


 イリアたちが身を隠す石壁はやはり一瞬で壊れるが、すぐにイリアたちは別の石壁の後方に移動していった。


 一方で俺は、そんなイリアたちのための新たな石壁を展開していく。


 鳴り響く爆発音の中、俺たちにも精霊の大群が迫ってきた。


「近寄らせん!」


 エクレシアが植物の根で精霊を薙ぎ払う。


 ユミルもクロスボウで応戦してくれた。


 そんな中、後方からはずしんという音が響く。ゴーレムたちが石壁を展開する俺のために、岩を掘ってくれているのだ。すでに後方には、岩がどんどんと集められていた。


 俺はその岩を使い、さらに石材を作る。


「岩は多めに用意していたが助かる──皆のおかげで上手く防げているな」


 後ろを見たついでに遠く村のほうまで見たが、すでにモープたちの姿はなかった。


 精霊やキラーワームも後方にはもうほぼおらず、すぐにエナたちを引き連れてきてくれるはずだ。


「それまではなんとか耐える……」


 だがさすがにキュウビもいたちごっこと分かったのか、炎の攻撃をやめた。そして刀を振りかぶり、イリアたちに襲い掛かろうとする。


 イリアはそれから逃げようともせず、逆にキュウビに走って向かっていった。相手は自分の十倍も巨体だ。懐に入ったほうがむしろ敵の攻撃を避けやすいというわけか。


 炎魔法をもう撃たないなら、俺もイリアにマジックシールドを展開するのに集中できる。イリアもそれを期待しているはずだ。


 俺はすぐにイリアにマジックシールドを展開した。一回の攻撃なら、まずは防げるはずだ。壊れても、また新しく俺が展開すればいい。


 だが杞憂だったようだ。


「──遅い」


 イリアはキュウビの振り下げる刀を避けると、自らの刀でキュウビの操る大精霊の足を斬りつける。


「くっ!!」


 キュウビは即座に刀を振り回し、後ろに回ったイリアを倒そうとする。


 しかし素早く動くイリアにはとても当てられない。イリアは縦横無尽に動き回り、大精霊の手足に斬撃を加えていく。


 それを見ていたメッテが矢を番える。


「モニカ、私たちも!」

「はい!」


 メッテやモニカも矢を放ち、大精霊を射撃する。周囲の精霊はそれを止めようとするが、斧を振るうベルドスがそれを阻む。


 とはいえ、イリアたちの攻撃は大精霊には全く効いていないようだ。


 青い炎のせいで見えにくいということもあるが、魔力が減っているようには見えない。むしろ、魔力が集結しつつある。


「ヨモツ……」

「ああ。先ほど程ではないが、また爆発を使う可能性がある」


 紫鉄の板で防ぐにしても、皆に戻ってきてもらわなければならない。


 だがそんな中、東から霧のようなものが吹いてきた。アスハが風魔法で、川の水を吹かせているのだ。


 そのせいか、大精霊を覆う体の魔力は徐々に弱まっていった。


 キュウビもそれに気づいたのか、後退しながら炎魔法をイリアに放っていく。


 しかしイリアは逆に、キュウビを追った。


 今キュウビは焦っているはず。イリアは更に揺さぶりをかけようとしているのだ。


 やがて後方からセレスの声が響く。


「メッメー! ヨシュア様、連れてきたっす!!」

「お前たせしましたヨシュア様!」

「あとはうちらに任せるにゃ!」


 振り返ると、そこにはモープに乗ったカッパのエナと、ローナをはじめとする黒猫たちがいた。


「皆、一斉に撃つにゃ!」


 エナたちはモープから下りると、一斉に杖をキュウビに向ける。


 それに気づいたメッテが「イリア様!」と声をかけた。


 イリアは顔を向けると、大丈夫だと言わんばかりに首を縦に振る。


「頼む!」


 エナは俺の声に頷くと、杖を光らせ、水を発射した。


 ローナたちノア族も、一斉に水魔法を放つ。


 水の大蛇のようなものが十本以上、まっすぐとキュウビに向かっていく。


 イリアはそれを見て、横へと走り出した。


 やがてばらばらだった水流は一つにまとまり、龍のようにキュウビへ襲い掛かった。


 キュウビはすぐに前方へ吹雪のようなものを放つ。氷魔法で水を凍らせるつもりのようだ。


 しかし得手ではないのか、水魔法は防げず、まともに喰らってしまう。打ちつけられた水が蒸発するのが見えた。


「──くっ!」


 やがて蒸発が収まると、体を覆う炎は完全に消し去られた。


 すぐにメッテとモニカの矢が青白い大精霊の体に放たれる。ベルドスは自らの大斧を、大精霊へと投げ出した。


 まともに攻撃を喰らい、大精霊の胴体はガラスのように崩れる。すると、大精霊を操っていたキュウビが姿を現した。


「行け、イリア!!」


 俺や皆はイリアの名を呼んだ。


 イリアは宙高く舞うと、そのまま大精霊の胴体に刀を振り──後ろへと飛び去っていった。


「くそ──」


 キュウビを覆っていた精霊の体は、すっと霧散するのだった。

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