214話 宴会場を決めました!?
俺たちは王都からフェンデルに帰還した。皆、飛行艇の操作も慣れたせいか、一日かからないぐらいで帰れた。
その帰還した翌朝、俺はソルムと共にフェンデルの西の街道で馬を歩かせていた。
後ろにはイリアやメルクたちも馬でついてきてくれている。アスハだけは飛行しているが。
皆、なかなか馬の扱いにも慣れてきたようだ。
ソルムは馬上から俺に話しかける。
「ヴァースブルグは川に囲まれた地。もちろん多少は人間の連合軍を受け入れるつもりですが……数十万の軍勢が宿営するには少し狭すぎますな」
「フェンデルの草原には余裕がある……が、亜人を警戒する者もいるだろう。亜人たちもまた、武装した人間は信用できない」
フェンデル同盟の存在自体を秘匿するのは難しい。
奴隷狩りや王国人からすでに、各国の王侯貴族も亜人の集まりについては耳にしていると考えたほうがいい。
だから隠すつもりはない。だが、こちらから積極的に接触するつもりもない。
ソルムは頷いて言う。
「それがよろしいでしょう。王国や我らヴァースブルグの人間はすでにフェンデルと交流がある。南方の人間は亜人を見る機会も多いですからね。しかし帝国をはじめとする北方の国々の人間は違う。必ず衝突が起きるでしょう」
「俺もそう考えている。だから、露骨な接触は避けるつもりだ」
フェンデル周辺の森をエントたちに言って、草木の壁を作ってもらう。もちろん人間にも飛行隊はいるから、上空を通れば見られてしまうが、それはもう仕方ない。
ソルムはこう答える。
「私も、ヴァースブルグの者にはなるべくフェンデルについて話さないよう伝えます。亜人のうわさを聞き付けた不届き者が、奴隷狩りになることもあり得ますからね」
「ありがとう。そうしてくれると助かる」
「お任せを。しかしそれを考えると、やはり少し離れた場所を宴会場にするとよさそうですね。どこか候補地は?」
俺はソルムに言う。
「打ってつけの場所がある。アスハの報告では、この街道を少し南にいくとなだらかな山が見えてくるはずだ。草木があまり生えてない岩山で、周囲も平坦な草原となっている」
「軍勢を麓に、王侯貴族たちは山上に……申し分ない宿営地になりそうですね」
「ああ。しかも、山腹のある場所では温泉が湧いているようでな」
「ほう。羽を休めるにはいい場所……」
ソルムの声に俺は│頷く(うなずく)。
「ああ、宴会場に相応しい。少し岩山をなだらかにして立派な館でも建てようと思っていてな」
「あまり居心地よくすると、長居するのではありませんか?」
「それが目的でもある。なるべく時間を稼ぐためのな」
イーリスにはなるべく長く宴会を開いてもらい、人間の連合軍と魔王軍が衝突するまでの時間を稼いでほしいのだ。
一番は、人間と魔王軍が一時停戦に合意してくれるといい。
今回は、人間側も魔王軍側も大軍を連れてきている。
互いに相手の戦力がかなり大規模と分かれば、人間と魔王軍の首脳部も被害の大きさを考慮し決戦を躊躇うかもしれない。
また、リザードマンのオルトが、本物の魔王に交渉の意思を伝えてくれるのを期待している。
あるいはこちらから魔王城に忍び込むのも……さすがに危険すぎるか。
しかし俺はハイドを使える。計画だけでも立てておいていいかもしれない。
四の五の言ってられない事態になる可能性もある。
魔王軍側と接触してみたり、王侯貴族を人質に人間たちを撤退させるなど、事前に他の案も考えておこう。
「ともかく、まずは山を下見するとしよう」
俺たちは馬を走らせ、南に見えてきた低い山へ向かうのだった。




