表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/253

192話 思いとどまらせました!?

 ヨモツが向かったのは、北の城門だった。


 常にヨモツには天狗の監視がいるので逃げることは容易ではない。それにもう、彼には魔法が使えない。


 俺たちもその後を追って城門を上がると、頂上に北をまっすぐ見つめて座るヨモツがいた。


「キュウビを待っているのか?」


 そう声をかけた。


「ふっ……やつは俺を助けにきたりはしない。そんなことをしている余裕はないんだ」

「なんのために?」

「言うと思うか」


 沈黙が流れる。


 武器で脅して喋るようなことではない。イリアにも分かっているのか、手を出さなかった。


「それについてはもう聞かない。だが、狐人については教えてもらえるな?」

「知ってどうする?」

「さっきの子狐の親たちが見つからない。おそらく、東に現れたキラーワームのせいだと思う」

「キラーワーム、だと?」


 ヨモツは俺の言葉に少し驚いた様子だった。


「お前が手引きしたんじゃないのか?」

「……さあな」


 その言葉には、イリアが刀を抜いた。


 ヨモツはしかし、全く動じない。殺すなら殺せといった感じだ。


 俺はヨモツにこう問う。


「さあ、か。お前のさっきの反応を見れば、狐人たちに恨みがあるというのは明白だ。やってもおかしくない」

「そうだな……柄にもなく、声をあげてしまった。あれは迂闊だった」


 ヨモツの声はどこか震えているようにも聞こえた。どこか怒りを堪えるような。


 しかしやがて、ヨモツはこう続けた。


「子供は関係ない、確かにそうなのだろう……なあ、一つ聞いてもいいか?」

「なんだ?」

「俺が死んだあと、俺の子たちはどうする?」

「ミリナたちがここにいたいというなら、誰も拒否しない。魔王に引き渡すこともないだろう」


 ヨモツの子供たちの身柄は、魔王との交渉材料にするつもりだった。

 しかし本人たちが魔王のもとに帰りたくないなら、話は別だ。俺たちは魔王には送り返さない。


「そうか……思いのほか、ミリナたちはここの生活に馴染めそうだ」


 どこか安堵するような顔でヨモツは言った。


 俺たちを見て、敵の子供だからと差別するような者でない事が分かったのだろう。


 自分は気に入らないが、子供たちにとってフェンデルは悪い場所ではないと考えているのだ。


「自分で面倒を見ないのか?」

「俺は親としてはずっと失格だ。だが、親としての責務は果たさなければいけない。ミリナたちが幸せに暮らせるように……それが、あいつの最期の言葉だった。あいつは、俺と違って……ずっとそれしか望まなかった」


 月を見上げて、ヨモツは独り言のように言った。


 ヨモツは狐人を憎んでいる。人や亜人への復讐も否定しない。しかし、その妻は何よりも家族の幸せを願っていた。


「ヨモツ。家族でもない俺が言うことでもないかもしれない。でも、ミリナたちはお前がいなくなって、幸せになれるのか?」

「いないほうが幸せに決まっている。俺はずっと、あいつらを振り回してきた。俺なんか、なんとも思っていないさ」

「いいや、それは違う。捕まった親を助けにくるぐらいだ……ミリナたちは、お前に近くにいてほしいんだ」


 あの時、王都の北でヨモツの子たちはヨモツを助けようとした。作戦が失敗し、救出は不可能と知っていても、飛び出してきたのだ。


 ヨモツは何も答えない。


「……そもそも、死んだら子供たちが幸せになったかなんて分からないじゃないか。お前やキュウビ、魔王がやろうとしていることは分からない。だが、このフェンデルがずっと安全だとは限らないんだぞ。人間だって、今後どうするか」


 フェンデルが絶対安全だと考えているなら、ヨモツは否定の言葉を発したはずだ。


 しかしヨモツは答えられなかった。


 それはつまり、これからの情勢を考えれば、フェンデルにも危機が訪れるかもしれないということだろう。


「……ともかく、死ぬな。ミリナたちにはお前が必要だ。ミリナはお前が魔王軍を去れてよかったとも言っていた」

「……ミリナが?」

「ああ。お前が子供に幸せになってほしいように、きっとミリナたちもお前に幸せになってほしいと思っているんだ。だから、変なことは考えるな」


 俺はそう言って、その場を去ることにした。


 変な気を起こしても、見張りが止めてくれる。問題はないだろう。


 だが去り際に、ヨモツが呟く。


「……狐人を助けにいくのか?」

「そのつもりだ」

「狐人たちは、どの部族もとても保守的だ。それとキラーワームがいるということは……油断しないことだな」


 暗にキラーワームを放ったのが自分ではないと示唆している。


 そして、あの周辺にいるのはキラーワームだけでないということか。恐らくは、親玉のようなのがいるのだろう。


「忠告感謝する。協力してくれてもいいんだぞ?」

「私は、魔王様にだけは弓を引かない。あの方は、私の恩人なのだ。あの方だけは……」


 色々な葛藤があるのだろう。無理強いするつもりはない。


 そんな中、一匹の巨大な羊……セレスが城壁に上がってきた。


「メッメー! 元魔王軍同士、今夜は語り明かすっす!」

「セレスさん……やめたほうが」


 イリアは少し苦い顔で言った。


 セレスと言うかモープは少々やかましい。一緒にいたら確かに疲れるかもしれない。


 でも、今夜は誰かが近くにいてくれるとありがたい。


「頼むよ、セレス。難しい話はしなくていい」

「メッメー。セレスも難しい話は嫌いっす。フェンデルのおすすめの場所を紹介するっす」


 そう言って、セレスはヨモツの隣に座り、一方的に何かを喋り続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ