188話 狐もいました!
「お前は……」
明るい体毛の狐……ヨモツの子供だ。たしか、名前はミリナ。ヨモツの子の中では一番年長だ。
メルクがセレスの背中で呟く。
「ミリナ、何故ここにいる?」
「べ、別に。ただ、こいつの背中で寝ていたら、いつの間にか」
そう答えるミリナに、メッテが問いかける。
「本当は逃げようとしたんじゃないのか? 魔王やらキュウビのところにいって、助けを呼ぼうと」
その言葉に、ミリナは額から汗を流す。
「そ、そんなことないし」
「分かりやすい奴だな……どうする、ヨシュア?」
メッテは俺に顔を向けて訊ねてきた。
ミリナ自身がどこかへと脱走するのは難しい。だが、キラーワームと接触して、外部への助けを求めることは考えられる。
とはいえ、村とユミルディアにはすでにキラーワームについて警戒するよう伝えてある。エントがいれば、土からの攻撃は怖くない。
キラーワームが他の魔物に伝えることもあるが……フェンデルの防備があれば、むしろ来るなら来いだ。こちらから敵を探す必要がなくなる。
敵をおびき寄せるのにも使える……ミリナの真意は計りかねるが、同行させても問題ない。
とはいえ、一応メルクの意見も聞いておくか。メルクが一番、狐人たちの面倒を見ている。
「メルク。どう思う?」
「問題ないと思う。ミリナは多分、魔王軍が好きじゃない」
その言葉に、ミリナは少し驚くような顔をする。
だが、すぐにうんうんと頷いた。
「そうそう。私、嫌いだもん。父ちゃんが、やめてせいせいした! だからさ、私にもその虫倒させてよ。そしたら、もっといいところ住まわせて」
メッテはそんなミリナをじいっと見つめる。
「……まあいい。セレス、こいつに怪しい動きがあったら教えてくれ。魔王軍の信号は分かるんだろう?」
「メッメー、任せるっす! ふふふ。ミリナちゃん、逃がさないっすよ!」
セレスは仕事を得たとばかりに張り切る。
まあ、メッテの言う通り、たしかにセレスがいればミリナがもしキラーワームに何か伝えても分かるだろう。
草を食べるのに集中してたら難しいかもしれないが……
ともかく俺たちはミリナも加え、ノワール村の周囲を探索することにした。
エクレシアが植物を動かし、メルクが鼻を動かす。
セレスとモープは草を食べながら。
ボアも少ないので、なんというか遠足気分だ。
そんな中、エクレシアが歩みを止める。
「ふむ……地中にいくつもの穴があるな。それが向かっていくのが……あちらだ」
エクレシアが指をさす方向は北だった。
そこには、ごつごつとした低い山の多い場所が広がっていた。




