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182話 見てられませんでした!?

 昼食から一時間後、船は順調に東へ進んでいた。


 その間、俺たちの視線はずっと砂浜を並走する黒猫へ向けられていた。


 メッテが目を丸くしながら言う。


「まだ、付いてきているぞ、あの黒猫……」

「なかなか根性ある」


 メルクはそう褒めたたえた。


「食料を得るのに必死なんでしょうね……私たちもそうでしたから」


 悲しそうな目で黒猫を見るのはアスハだ。


 それにイリアが答えた。


「魚を、少し置いていってあげましょうか」

「そうだな……仲間もいるかもしれない。少し多めに──待て」


 俺がそう言いかけた時だった。


 砂浜にいる猫を追うように、内陸の茂みが揺れている。


 メルクが鼻を動かして呟く。


「血の匂い……茂みの向こう、にいる」


 その声に、アスハが空からその茂みを確認し戻ってくる。


「上空からは分かりません。背の高い者ではないかと」

「そうか……ともかく、一度猫を回収しよう」


 俺はそう言って舵を切って船を砂浜に向けた。


 黒猫もそれに気が付き、その場でちょこんと座る。


 揺れていた茂みは、そんな黒猫の近くで止まった。


「まずいかも。あっ」


 メルクが言いかけた瞬間、茂みから黒い影が猫に向かって飛び出してきた。


 影の正体は巨大な蛇……以前フェンデルの近くの廃鉱にもいたデビルスネークだ。


 俺がそう頭で理解した時には、一本の矢がそのデビルスネークに向かっていた。


 その矢は、デビルスネークの口から頭にかけて貫通する。


 ばたんと倒れる巨大な蛇に、黒猫は何が起きたと振り返る。にゃあっと大きな声を上げて、こちらへ走ってきた。まだデビルスネークが死んだと理解できてないようだ。


「さすが、イリア様!」


 メッテがクロスボウを下ろして言った。


 矢を放ったのはイリアだった。相変わらずの、いつ攻撃したんだろうという早撃ちだ……


「いえ……モニカさんならもっと上手く仕留められたでしょう。ともかく、他の魔物に血の匂いを嗅ぎつけられる前に」


 イリアの声に、アスハは頷き帆に風を送る。メッテもオールを力いっぱい漕いだ。


「よし、船を泊めるぞ」


 船を浜に乗り上げさせると、俺はすぐにデビルスネークの遺体を回収しにいった。


 フェンデルの近くの廃鉱で見た奴よりは小さい。体の中から見つかった魔石は回復魔法が上達する効果のあるものだが、あまり大きくない。


「案外、小さいですね」


 イリアの声に俺は頷く。


「ああ。でも小型とはいえ、ボアとかと比べれば別格の強さだ……こんなのがうようよいるんだろうな」


 まあ毒袋と皮は使えるし、肉も美味だ。これはありがたくいただこう。


 一方で黒猫のほうは、狼の姿のメルクにくっついてびくびくと震えていた。


 メルクはそんな黒猫をぽんぽんと撫でる。


「意外に子供だった」

「……子供だから仕方ないにゃ」

「にゃ?」


 メルクは突然聞こえてきた言葉に、思わずそう返した。


「にゃ? どうしたにゃ?」


 俺たちはその問いかけに思わず目を疑った。声は俺たちをきょろきょろと見る黒猫から発せられていたからだ。


「……しゃ、喋ったぁ!?」


 メッテの声がこだまするのだった。

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