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180話 ひたすら東へ行くことにしました!

「東に行かない?」


 メルクは川を下る船の上でそう言った。


 東部を冒険しようと決めてから三日後。

 俺たちはフェンデル村から船を出して、南へ川を下っていた。


 最初の目標は、カッパの住む白砂島だ。


 だからメルクが首を傾げるのも無理はない。


 俺はメルクに頷く。


「ああ。まずは海岸線に沿って東へ行こうと思う。ある程度したら、上陸するんだ。ドワーフの山は高いから、いい目印になるだろう」


 今回の冒険にあたって、天狗たちから事前に情報をまとめてもらっていた。

 なんならとアスハが簡単にユミルディアの東を見てきてくれている。


 なので、あらかたの地図は完成しているのだ。


 それによればずっと海を東に進むと、やがて北に向かって海岸線が伸びていく。そこからもっと北へ行けば、恐らく人間も知っている地域のはずだ。


 ただ、この大陸の東岸は海の魔物が多い。その代表が、白砂島でも戦ったシールドシェルだ。


 魔王軍には属さない者たちだが、人間を襲うことには変わりない。だからか大陸西部や北部と比べると、人も漁村も少なく、大きな港町も存在しなかった。


 逆を言えば人間が少ない分、亜人が住んでいる可能性も高いわけだ。


 とはいえ、天狗たちの報告だと日中に堂々と活動する亜人は見当たらないようだが。


「他の種族の方と会えると嬉しいのですが」


 イリアの声にメッテが頷く。


「我ら鬼人も、昔はもっと色々一族がいたようですからね」


 メッテの言う通り、今フェンデルにいない種族というだけでなく、同じ種族だが昔離れ離れになった一族がいる可能性もある。


 アスハがそれを聞いて答える。


「お昼はまず見かけませんが……夜は分かりませんね」

「メルクに任せる。メルクの鼻なら、すぐに見つかる」


 メルクは自信たっぷりな顔でそう言った。


 今回は、俺、イリア、メッテ、メルク、アスハ、そしてウィズの六名での冒険だ。


 まだ王都から帰って間もないため、ユミルとエナは両親と、モニカはフレッタと過ごしている。

 エクレシアは王都から持ち帰った植物をまずは植えたいようだ。


 あとは、定期的に天狗が連絡に来ることにはなっている。


 まあ、皆とは安全が確認された後に来ればいい。景色が良ければ別荘でも建てたりしといて、皆と今度遊びにいこう。


 そんなこんなで、第一の目的地で白砂島が見えてきた。


 河口をでて、すぐ沖合にある白砂島。

 その埠頭に俺たちは船を泊めた。


 家や倉庫などが密集した島の居住区は活気に満ち溢れていた。


 この島にもともと住んでいるカッパだけでなく、すでにフェンデルとは船の行き来があるため、ここでも鬼人や天狗たちの姿を見ることができた。


 ここでフェンデル村の近くで獲れたものを下ろし、逆に海で獲れたものを村へと運び出す。

 そういった物資のやり取りをしているのだ。


 そんな中、大きな魚を手にしたカッパのエナが俺に気が付きやってくる。


「あ、ヨシュア様! それに皆さん! これから出発ですか?」

「ああ。エナ。一応島の様子を確認しようと思って寄ったんだ。特に変わったことはないかな?」

「特にないですね。平和そのものです! 強いて言うなら今日は大漁ということでしょうか」


 エナは大きな魚を俺に見せて言った。


 涙滴型の大型魚……マグロと言ったかな。焼くと鳥のような食感になる魚で高級品だ。


 島の周辺を探索してくれている天狗からも、特に異常は報告されていない。

 魔王軍が西からやってくる様子もないようだ。


 何か異変があればこの島に滞在しようと思ったが、大丈夫そうだな。


「村にもあとで沢山運ぶつもりです! ヨシュア様たちも、これぜひ食べてください」


 エナは俺に魚を渡そうとする。


「いいのか?」

「はい! これは生でも食べられるんですよ! ぜひ、食べてみてください!」

「な、生か……ともかく、ありがとう。美味しくいただくよ」


 俺はエナから魚を受取るとそれを魔法工房で冷凍にしておく。


「私も本当は行けたらよかったんですが、妹や弟がなかなか放してくれなくて」

「久々に帰ってきたんだ。皆とゆっくりしてくれ。何かあればこちらも呼ぶから」

「はい。それではお気をつけて!」


 俺たちはエナに別れを告げると、白砂島を出て海岸線を東に船を進めるのだった。

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