176話 遠征から帰りました!
フェンデルへの帰路、俺たちフェンデル騎士団はヴァースブルグを最後の宿泊地としていた。
俺たちは一泊した後、再び出発の準備を整える。
まだ未明。今からここを出れば、今日中にはフェンデルに帰れるだろう。
見送りにきたソルムが言う。
「ヨシュア殿、本当にありがとうございます」
ソルムの治めるヴァースブルグにとっても王国の行く末は死活問題だった。
すぐ北の王国が魔王軍の手に落ちれば、ヴァースブルグは孤立してしまう。増援も物資も何も見込めなくなってしまうからだ。
とはいえ、今回の遠征はソルムたちのため以上に、俺自身が望んだことだ。
「昨日も言ったが、気にしないでくれ。アイリス……いや、イーリスと協定を結べたし、王都の人々からの好印象も得ることができた。俺たちにとっても実りのある遠征だったよ」
「それは良かったです。アイリスも元気そうで安心しました……しかしまさか王族で、今は王になってしまうとは」
「俺もびっくりだ。だがそれ以上に、俺にとってもソルムにとっても心強い話だと思う」
「そうですね。旧知の仲ですから、色々話にも乗ってくれるでしょう。本当にありがたい」
ソルムは安堵するような顔で言った。
「それにしても、このヴァースブルグの暮らしも安定してきたようで良かったよ」
俺の言葉にソルムはええと頷く。
「ヨシュア殿が家や道具を作ってくれたおかげです。フェンデルからは、毎日魚が送られてきますし。あとは畑の収穫の時期になれば、食料も安定してくるでしょう。旧知の者たちも、ちらほら駆けつけてくれると答えてくれた者がおりました」
「そうか。いずれにせよ、また困ったことがあったら言ってくれ。隣人同士、これからも協力しよう」
「ええ。こちらこそよろしくお願いいたします」
「じゃあな」
俺はソルムに別れを告げると、仲間たちと共にフェンデルを目指す。
馬車で街道を進んでいると、隣に座るメルクが周囲を見渡す。
「ここまで来たらもう帰ってきたようなもの」
「見慣れた景色ですね……もう少しでフェンデルが」
アスハも故郷が待ち遠しいと言った顔だ。
メッテが呟く。
「なかなかの冒険だったな。巨大な人の街、蟻と見紛うような人の多さ……世界は広いな」
「王都は本当に大きな街だからな。でも、帝都はあれの十倍以上も大きい」
「あれの……十倍」
俺の言葉に、メッテは首を傾げる。想像もつかないようだが、俺も説明が難しい広さだ。
「メッメー! 帝都は魔王城よりも大きな城が建っているって聞いたっす。いつかは行ってみたいっすね! ウチラもこいつらの他に似たやつらと会えるかもしれないっす!」
セレスは両脇にいる羊を見て言った。
その後ろには、羊が百頭ほども群をなしている。羊だけでなく、馬やロバ、ヤギ、鶏などの家畜も一緒だ。
ユミルがそれを見て言う。
「しっかし、いっぱい集まったのう」
「買っただけでなく、王都の人が譲ってくれたのもいますしね」
イリアはそう呟いた。
俺たちは帰るにあたり、王都で色々と買い物をしたり、民衆からスケルトン討伐のお礼にたくさんの物をもらっていた。その中でもっとも多かったのが、やはり家畜だ。
豚については食肉不足ということもあり、手に入れることができなかった。同じ理由で、食肉に適さないロバ以外は百頭ぐらいしかいない。
まあそれでも、家畜の少ないフェンデルにとってはありがたい話だ。
これからは酪農や養鶏なども大々的に行えるだろう。
ユミルはこう続ける。
「色々と道具や建物の設計図も買えたのじゃ! 皆に見せるのが楽しみじゃのう」
設計図だけでなく、書物なども大量に購入してある。学校での教育も捗るだろう。
エクレシアも頷いて言う。
「色々な植物の種子や苗を手に入れることができた。フェンデルで育てるのが楽しみだよ」
「私も、川で見たことのない魚を目にすることができました。それに、面白いものも」
エナに俺は訊ねる。
「面白いもの?」
「はい。水を吸っても重くならない衣服で……こちらです!」
エナはポケットから際どい下着……ではなく、遊泳用の水着を見せた。
モニカがそれを見て言う。
「それ、下着ですか? 似たようなものは私たちも」
そういえば、モニカやイリアたちはそういった下着の店に入っていた。
だが、エナはまだ子供ということで、そこには行かなかった。
俺はあわてて話を逸らす。
「そ、それは、水着だろう。俺も作れるから、今度いっぱい作るよ」
「私たちも、海であれをつけて泳ぎたいです! 前は、あまりゆっくりできませんでしたから」
イリアの声に、俺は目も向けず「ああ」と答えた。
といった感じでともかく皆、この遠征に大満足のようだった。
やがて、フェンデルへの隠された入り口が近くなってくる。
ただ森が広がっているだけなのだが、入り口と分かったのは、出迎えがいたからだ。
モニカがそれに気が付き、声を上げる。
「フレッタ、モー!」
モニカの妹フレッタと、モーがいた。その後ろにはモーの親であるベルドスと、他の亜人たちもいる。
俺は馬車をベルドスの近くに停め、後続の車列にはフェンデルへ進むよう告げた。
モニカがフレッタとモーを抱き寄せる中、ベルドスが俺に声をかける。
「ヨシュア。良く帰ってきてくれた」
「ああ、誰一人欠けることなく無事に帰ってこれた。フェンデルは?」
「変わりない。皆、待ちわびているぞ」
「そうか。聞かせたい話はいっぱいあるが、今はフェンデルに帰ろう」
「ああ」
俺たちは再び馬車を進めた。
そうしてしばらくすると、やがて開けた場所が見えてくる。
それを目にしたメルクが感慨深そうに呟く。
「帰ってきた」
「ええ……私たちの故郷です」
イリアもこくりと頷く。
目の前には、出発した時と変わらない豊かなフェンデル村の姿があった。
俺たちはようやくフェンデルに帰還したのだった。
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次回、3章最終話です!




