156話 亜人でした!?
「さあて、偉そうに顔なんて隠して。正体を見せろ!」
メッテがヨモツの仮面を取ろうとする。
しかしヨモツは急に体を萎ませ、縄から逃れた。
「あ! 逃げるな!」
すっと目にも留まらぬ速さでヨモツはこの場から逃げようとする。
だが、それをすぐにメルクが狼の姿で抑え込んだ。
「同じ四本足なら負けない……だけどびっくり」
メルクだけでなく皆、今のヨモツの姿に驚くような顔をする。
メルクの下には、やせ細った犬……というよりは、山に住む狐に近い生き物がいた。
メッテは口を開く。
「魔物、じゃない……?」
「俺は、魔王様に仕えるヨモツ……ただそれだけの存在だ」
ヨモツは苛立つような顔で言った。
しかし、メルクが何かを思い出すように言う。
「老人たちが話していた……北の方でメルクたちと似た種族が住んでいるって」
「私たちと同じ言葉を喋り、人の形になったり獣の姿にもなれる……ということは、亜人か」
メッテがそう言うと、ヨモツが声を上げた。
「俺は亜人ではない!! 俺は……俺は……」
ヨモツは言葉に詰まる。
亜人なのに魔王の配下。そして、人間の死体を簡単に道具にする……何か根深いものがあると俺は察した。
しかし、このヨモツをどうするか。
このまま殺すか……はたまた、生かすか。
殺せば、このようなことはもうできなくなるだろう。
一方で生かす価値もあるとは思う。
白砂島で会ったリザードマンのオルトに、俺は魔王との交渉を頼んだ。ヨモツが魔王の配下であるのは間違いない。となれば、ヨモツは生かしておいてその身柄を交渉材料とするのがいいかもしれない。
もちろん、王国人を大量に殺したわけだから、イーリスの許しなしというわけにはいかないだろう。
人間社会からすれば、このヨモツがとても危険なのは間違いないし。
俺が視線を向けると、イーリスは察したのかこう言う。
「こいつは、ヨシュアたちの捕虜よ。私たちは、この騒動を収められればそれで十分。あなたたちにはここまでしてもらったし、好きにして」
「ありがとう、イーリス。いずれにせよ、野放しにはしない」
俺が言うと、イリアが訊ねてくる。
「どうされるおつもりですか?」
「捕縛しよう。飲ませると魔法を封じるポーションがある。それと、睡眠用のポーションを飲ませる」
俺はフェンデルで集めておいた薬草を使い、二つのポーションを作った。
謀略で使われることもある二種類のポーションだが、騎士団ではよく魔物の捕虜に飲ませるために作っていた。
睡眠のほうは一度飲ませれば、一日は効果が持続する。
もう一方の魔法封じは少々残酷だが、飲ませればそれからずっと魔力を上手く集められなくなってしまう。とはいえ、ヨモツは危険極まりない。捕虜にするのも危険なわけだから、確実に飲ませておこう。
俺はポーションを飲ませようと、ヨモツに近付く。
しかし、ヨモツは頑なに口を閉じた。
「他者の死体を使っておいて、往生際が悪い」
「メルクさん、それじゃあこの方を殺してしまうような言い方じゃないですか……ここは、私にお任せを」
イリアはそう言うと、ヨモツの前に立つ。
「あ、ヨシュア様。あちらの神殿」
「うん?」
俺は神殿を振り向いた。
「何かあったか、イリア?」
「いいえ。気のせいでした」
そういうイリアの前では、がたがたと体を震わせ、大きく口を開くヨモツが。
「ヨモツさん。ヨシュア様に逆らおうなんて、考えないでくださいね」
イリアはにっこりとした顔で言った。
「さすがイリア。ヨシュア、ポーション渡す」
「お、おう」
メルクは俺からポーションを受取り、それをヨモツに飲ませた。
「くそっ……何故、殺さぬ? ……俺を、どうするつもりだ?」
体を震わせながらも声を振り絞るヨモツに俺はこう答える。
「お前を魔王に引き渡すつもりだ」
「俺を、魔王様に……? や、やめろ! それだけはやめてくれ! いっそのこと、殺してくれ!!」
捕まったところを見せるのが恥ずかしいのだろうか? または別の理由か。
だが、俺たちにヨモツの気持ちに寄り添う義務はない。
フェンデル同盟として、ヨモツの身柄を利用させてもらうだけだ。
次第に、ヨモツは瞼を開けられなくなってくる。
睡眠のポーションが効いてきたのだ。
「キュウビ……すまない」
そう言い残して、ヨモツは目を閉じた。
「さて、とりあえず首謀者は降したな。こいつは私が持っていこう」
メッテはそう言って、手足を縛り、縄を噛ませたヨモツを背負う。
そんな中、イーリスが呆然と立ち尽くしていた。
「うん、どうした、イーリス?」
「え? あ……何だったんだろう。とても、怖いものが見えた気がして。神話のお」
イーリスが言いかけると、すかさずメルクが口を挟む。
「気のせい。気のせいということにしとく」
「え? う、うん」
困惑しながらも、イーリスは頷いた。
……一体何が見えたんだろう?
そんな中、俺はヨモツの落とした仮面を手にした。
キュウビも同じ物を付けていた。単にキュウビもヨモツと同じ種族でお揃いなだけだろうか。
「魔力が感じられる……何か、魔法が刻まれているのか」
膨大な魔力が宿っているから、魔王が作ったのかもしれない。
俺は仮面を魔法工房にいれ、仮面をよく探ることにした。
「なんだ……この魔力は……いや、これは魔石か?」
仮面の額には、魔石と思しき宝石のようなものが嵌められていた。
しかし、何の魔法に恩恵のある魔石だろうか。黒ならば闇魔法だが、この色は知らないぞ。
あとで、ロネアに聞いてみるか……今はともかく。
「よし。とりあえずは元を絶った! あとは王宮まで向かい、残りのスケルトンを陽動部隊と挟み撃ちにするぞ!」
それから俺たちは、王宮へと向かいスケルトンを蹴散らしていくのだった。




