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150話 野心家でした!?

「外苑と庭園に家を作った。寝具も用意したから少しは落ち着いてくれたようだ」


 宮殿に戻るなり、俺はイーリスに声をかける。


 王の間というには少し物寂しい空間は、今はイーリスが作戦会議の場所として使っている。


「ヨシュア、ありがとう。他の子たちには、川から魚も獲ってもらったとか」


 イリアたちには川で魚を獲ってもらい、それをこの王宮の人たちに供給してもらった。

 皆、久々に食べる魚に喜んでいるようで、王がいなくなったことの不安を多少は紛らわせたみたいだ。


「とはいえ、攻略に時間はかけられないわね。私も明日は一緒に行かせて」


 その申し出にヨシュアは悩む。


 イーリスの剣の腕はロイグにも劣らない。相当な戦力なのは間違いないのだ。


 だが、イーリスは王女。その身に何かあれば、ここの今後にも関わる。


「いや、イーリス……君は王女なんだ。王女はやはり」

「王女だからこそよ」


 その言葉からは義務感以上に、ある意思が窺えた。


「……自分も先陣を切り、神殿を攻略する。ここの民衆は、イーリスこそが王に相応しいと考える……」


 俺の声にイーリスはうんと頷く。


「兄が逃げた今、もし兄が帰ってきても、誰も民衆は耳を傾けない。国が混乱する……だったら私が王になる」

「思ったよりも野心家だったんだな。やけに素直に見送るとは思ったが」

「兄の治世には不満があったの。私腹を肥やすことばかり考え、飢える民衆も無視……南の魔王軍のことも他人事だったわ。だから私は騎士団に入った……まあ、結果は同じだったけどね」


 結局はロイグたちも魔王軍との戦いはどうでもよくなってしまった。

 最後には亜人狩りに手を染めるまでに墜ちてしまった。


「イーリス……俺としても、君がこの国の王になってもらえると色々と相談が出来そうだ」

「今は……ヨシュアは亜人たちのリーダーなんだよね?」

「盟主という、助言するような立場だ。リーダーとはちょっと違うかもしれないが……亜人や魔物たちと一緒にいい暮らしをしようと頑張っている」

「普通の人間が聞けば、亜人と魔物が手を組んで力を付けているなんて、脅威に思うかもね。でも、ヨシュアがトップなら全然怖くないや」


 イーリスはくすっと笑う。

 馬鹿にしているというよりは俺の人格を評価してくれてのことだろう。


「でも、私が王になったら、まずは国の再建をしないと」

「その時は、フェンデル同盟と貿易しよう。河川を使えば、やり取りも早いはずだ。フェンデルは海にも部族がいるんだ」

「なら、明日は私だけじゃなくてあなたたちの活躍も見てもらわないとね」

「ああ。だがそれ以上に失敗はできない」


 こくりとイーリスは頷いた。


「必要なら、私たちも兵を出す」

「では、陽動を頼めるか? 城壁の上からでもいいから、スケルトンを攻撃してほしいんだ」

「スケルトンを惹きつけるのね」

「そうだ。できるかぎり、神殿周辺からスケルトンを減らしたい。必要だったら俺がいくらか兵器を作る。できるかぎり、大規模な攻勢を演じてほしい」

「分かったわ。いずれは食料も尽きる。皆には、これが最後の踏ん張りどころだって伝えてくる」

「よろしく頼む……イーリスは演説が上手いって有名だったからな。皆、耳を傾けてくれるはずだ」


 俺の言葉にイーリスは恥ずかしそうな顔をした。


「そ、そんなこと褒められても嬉しくないし……そんなことより、ずいぶんと綺麗な子ばっかりじゃない! なんなの、あの子たちは!」

「イリアと申します」

「へ?」


 イーリスが振り返ると、そこにはイリアがニコニコと立っていた。


 イーリスはもちろん、周囲の騎士や兵もいつ現れたと驚愕している。


 恐る恐る、イーリスは口を開く。


「あ、あ、どうも。さっきは自己紹介まだだったわね。イーリスよ」

「よろしくお願いします。ところで、イーリスさんはヨシュア様と戦友だった、ということでよろしいのでしょうか?」

「そ、そうだけど」

「それは安心いたしました。ヨシュア様を悪く思う方もいらっしゃるので」

「ロイグたちのことね。聞いたわ。私はヨシュアが好きだから──ひっ? あ、あれ?」


 一瞬、イリアから何かぞっとするようなものを俺もイーリスも感じた。

 だが、そこには笑顔のイリアしかいなかった。


「私もヨシュア様が大好きなのです」


 ホッと息を吐くイーリスは、ヨシュアをニヤリと見つめる。


「そうなんだ……ヨシュア、こんな可愛い子に好きって言われるなんて、羨ましい。でもイリアちゃん。ヨシュアって真面目すぎない?」

「その真面目なところが、ヨシュア様の魅力です。よろしければ、ヨシュア様の昔話を聞かせていただけませんか? 実は、風呂を沸かしたところでして」

「本当? 明日のこともあるし、入らせてもらおっかな」


 イリアはソルムとも俺の昔話をしていたという。

 イリアに昔のことを知られるのは恥ずかしい。


 俺はイリアにわざとらしく目配せした。

 重要なことは話すんじゃないぞと言わんばかりに。


 イリアはこくりと笑顔で頷くと、イーリスと共に王宮を出ていくのだった。

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