145話 見つかりました!?
「皆こっちに気が付かない。なかなかこの魔法は使える」
メルクは河港のスケルトンたちを見て言った。ハイドを展開しながら。
俺たちは川を進み、王都の中へ侵入した。
途中、ハイドを使いながら進んだおかげか騒ぎにならずに済んだ。
自身にかけるだけでなく、ハイドは壁のように展開することもできる。それで船の両舷を隠したのだ。
メルクとアスハも加わっているからだろうか、船に気を留めるスケルトンは全くいなかった。
モニカは少し不満そうな顔をする。
「まあ、静かにいけるなら別にいいですけどね」
「活躍の機会はまたある。そんなに焦るな」
メッテはぽんとモニカの肩を叩いた。
俺は甲板からボートを川に下ろしながらモニカに言う。
「むしろ、これからが大事だ。俺はセレスとロネアと一緒に、ボートで河港の近くまで行ってくる。もし敵が襲ってくるようだったら支援を頼むぞ」
「もちろん」
モニカは弓を握って頷いた。
メッテも任せておけとクロスボウを掲げた。
しかしイリアだけは心配そうな顔だ。
「大丈夫だ、イリア。上陸するときは一緒だ」
「はい……お気をつけて」
イリアは小さな声で応えた。
本当に心配性だな……
しかしイリアはスケルトンと言うよりは、ロネアを警戒しているのかもしれない。
ロネアは召喚されたデーモン。魔王軍と会ってどういう動きをするのか心配しているのだろう。
ロネアはセレスと共に、ボートへ乗り込む。
「メッメー! ヨシュア様、行くっすか!?」
「ああ! じゃあ、行ってくる」
俺もボートへ乗り込み、オールを漕いだ。
河口に近付き、セレスとロネアを見た時のスケルトンの反応を見るわけだ。
ただし、俺は魔物ではない。だから自身の姿をハイドで隠す。
「あそこに固まっているな」
川に面した露店が立ち並ぶ通り。
そこには不気味に静止するスケルトンがいた。
「セレス、頼むぞ。ちゃんとマジックシールドは展開しとくから」
「メッメー! 任せるっす!」
「ロネアも。何かあれば、セレスを守ってくれ」
「お任せを」
俺は二人の声を聞いた後、完全にハイドで気配を消す。
そうして、ボートをスケルトンの近くで泊めた。
「メッメー! ごきげんようっす!」
セレスはボートの上から、武器を手にしたスケルトンに声をかけ始める。
するとスケルトンたちは、一斉にセレスに顔を向けた。
「め、めめ!?」
最初は襲ってくるかと思ったが、スケルトンはそれ以上動く気配はない。
「メッメー……驚かさないで欲しいっす。道を尋ねたいだけっすから。神殿まではどういけばいいか分かるっすか? いやあ、この街大きくて道に迷っちゃったんす」
その声にスケルトンは手にした剣を北に向けた。
「おお、そっちっすね!! ありがとっす!! 行ってみるっす!」
俺はそのままボートを船のほうに漕いでいく。
ハイドを一部解き、セレスに言う。
「よくやってくれたぞセレス。スケルトンたちはお前たちを襲わないようだ」
「メッメー! それなら、作戦通りウチラの出番っすね!!」
俺はうんと頷くと、上陸の準備をするため船に戻る。
それから、帆船を河港の桟橋につけさせた。
上陸するのは、セレスとモープが十五名、イリア、メッテ、メルク、ロネア、そして俺だ。アスハには、空の高い場所から敵の動きを探ってもらう。
モニカとユミル、エナには、他の亜人たちと一種に帆船を守ってもらうことにする。
「皆、頼むぞ。俺たちが上陸したら、渡し板は上げておいてくれ」
二人が頷くと、俺たちは桟橋へと降りた。
モニカたちは船と桟橋の間にある渡し板を取り外す。
そうして俺たちはモープの群の中に隠れながら、王都を進むことにした。
モフモフとしたモープの群が王都を進む……普通なら異質な光景だ。
しかし、通りのスケルトンたちは、誰もこちらを襲ってこなかった。
「意外に少ないですね……」
周囲の市街を見ながらイリアは呟いた。
ここは王都の大通り。馬車が三台も四台も横並びで走れるような広さがある。
しかし、その広さのわりには、ここにいるスケルトンは多く見積もって数十体ほど。
皆、城壁など重要な場所に配備されているのだろうか。
もちろん、アスハの地図を参考に最短且つ敵の少ないルートを選んである。そのおかげもあるだろう。
それに敵が少ないのは好都合だ。
「おお! なんだか服がいっぱい置かれているな!」
「これが人間の街。全然人いないけど」
メッテとメルクは大通り沿いの店を見てちょっとした観光気分だ。
イリアは「油断してはいけません」とそんな二人を叱った。
だが、そんなイリアも先程から仕立て屋の飾り棚をちらちらと見ている。
「メッメー。人間の街ってこうなってるっすね。魔王城に負けないぐらい華やかっす」
「魔王城にも街があるのか?」
考えてみれば当たり前の質問をセレスにしてしまった。
彼らも喋り、食事をするのだから当たり前だ。
「そっすね! でもまあ、魔王城は魔族と一部の魔物しか自由に歩けないっす。ウチラみたいなモープは許されないっすけど、ロネアさんとかなら歩けるかもっすね」
ロネアはその声に無言で顔を向ける。
初めて知ったような顔だな……となると、やはり魔王軍とは直接関係ないのだろうか。
そんなことを思いながら進んでいると、急にガタガタという音が響く。
「なんっすか!? あ!?」
モープは大通りの前から走ってくる馬車に気が付く。
だがただの馬車ではない。
牽いているのは白骨の馬……スケルトンホースだ。
スケルトンの御者が操る、檻の護送車だった。
檻の中には、人間の小さな子供が囚われていた。
「あれは……ヨシュア様」
子供たちは助けてと檻から手を出している。
服は泥だらけ。
恐らくはどこかに潜伏していたが捕まってしまったのだろう。
馬車は俺たちの後ろにある十字路を曲がるようだ。
このままいかせれば、彼らはどうなるか……
以前、フェンデルにシュバルツ騎士団のヴィリアンが来た。
やつは俺を連れ戻そうとしたが、ベイロンに捕まり、魔王軍のトロールの奴隷として売られた。
あの子供たちも奴隷になってしまうのだろうか?
……とても、このまま行かせるわけにはいかない。
しかしそれは作戦の失敗を意味する。
護送車の周囲には、スケルトンホースに乗った護衛が十騎もいるのだ。
イリアたちを危険に晒すわけには……えっ?
皆、俺に視線を向けている。
このままでいいわけがない……皆もそう思っている。
「ヨシュア様。何も迷うことはありません」
俺は、イリアの言葉にコクリと頷いた。
「助けよう」
俺が言った瞬間、刀を抜いたイリアが檻に走り、鉄柱を斬り捨てる。
「メッテ、周囲のスケルトンを蹴散らしてくれ!」
「おうよ!」
すぐにメッテの威勢のいい声が響く。
「うぉおおおおおおおお!!」
メッテの棍棒は、イリアに近寄るスケルトンの騎兵を粉砕した。
「はやくこっちに来る。あの羊のところまで走る!」
メルクの声に、檻から子供たちが走ってくる。
だが、その間に四方からスケルトンが迫ってきていた。
中には弓持ちもいて、こちらを狙い始める。
「セレス! 子供たちを乗せて、先に船へ! 俺たちはここで追手を防ぐ!」
「メッメー! 皆、走るっす!」
モープたちは子供を背に乗せると、船に向かって全速力で走った。
「アスハ! モープたちに迫る矢を吹き飛ばしてくれ!!」
「わかりました!」
その叫びに、アスハの起こした風がモープの周囲に起こる。これなら子供たちはもう大丈夫だ。
「皆、俺たちも退くぞ!」
「はい!」
俺たちもセレスたちを追って船へと走る。
だが行く手を阻むようにスケルトンの大群が現れた。
「お前たちに負けるか!!」
メッテは少しも怖気づくことなく、棍棒を振るいそのスケルトンを蹴散らす。
「死んだ方の骨に乱暴はしたくないですが……お許しを」
イリアもまた、刀でスケルトンを次々と薙ぎ払っていった。
俺とメルクはそんな二人を、スケルトンの矢から防御魔法で防いでいく。
ロネアをまた、闇魔法でスケルトンを倒していく。
とてもスケルトンたちは俺には近寄れない。
「骨のくせに全く骨がない!! これならいくらでも倒せる! どうだヨシュア! このまま私たちだけで神殿を目指すというのは!」
そう叫ぶメッテ。イリアもだが、余裕の表情だ。
たしかに、できなくはないかもしれない……だが、敵の数はこんなものじゃないはずだ。
アスハが戻ってくる。
「ヨシュア様! 王都中のスケルトンがこちらにめがけてやってきます! 数千……いや数万かもしれません!」
いくらイリアたちが強くても、数万も相手にはさすがにできない。
「ここは一度船に退くぞ!」
俺たちは船へと撤退するのだった。




