144話 川から向かうことにしました!
「よし、こんなものでいいだろう」
俺は島に建てた砦を見上げて言った。
石の防壁に囲まれた、高い石の塔。塔の周辺には、いくつかの小屋がある。
資源の保管だけでなく、救助した人間も多少は過ごせるだろう。
あとは王都へ行くための帆船も作ってある。
帆柱は二本で、五十名ほどが乗れる大きさ。船体は紫鉄で覆っているので頑丈だし火が点かない。
「相変わらず……いや、今回は特に手際がいいな」
メッテが驚くような顔で呟くとメルクも頷く。
「準備してた?」
「そう、だな。材料はもともと魔法工房で準備してたんだ」
とはいえ、俺も少し驚いている。
今までは、建築予定地の近くに資材を運んでもらい、少しずつ魔法工房で加工を行っていた。
だが、今回は幅が三十ベートルもある石壁の素材を、一度に魔法工房で加工できた。
それだけ俺の魔法工房は大きくなっている。どれだけ入るのだろうか……
手際が良いのは、単純に騎士団にいる頃、こういった設営が俺の担当で慣れていたからだ。
そんな中、再び偵察に出ていたアスハが戻ってくる。
「申し訳ございません、ヨシュア様。やはり、中で籠っている者たちとの連絡は無理でした。スケルトンの中には弓を扱う者もいて。お役に立てず申し訳ありません」
「ありがとう、アスハ。情報はもう十分だ。こうして砦もできたことだし、今日のところは休もう」
俺の声に、アスハはこくりと頷いた。
その後は皆で夕食を摂り、明日に備え早めに眠りに就くことにした。皆、久々に建物で寝れるということもあって、ぐっすりと寝れた。
翌日のまだ朝焼けの時間、俺は砦の中央に建つ塔の頂上にイリアたちを呼んで会議を開いた。
ここからなら、王都市街の中のほうまで見渡せる。目的の神殿もなんとか屋根が見える場所だ。
「皆、おはよう。これから俺たちは王都に突入するわけだが、まずは作戦会議を開きたい」
そう言って俺は、頂上に置かれたテーブルにアスハのくれた地図を広げた。
「まず王都への侵入方法だが、この島から船を出して川から王都の河港地区に上陸しようと思う」
「なるほど、川からですか。防壁には、スケルトンがたくさんいるようでしたしね」
イリアの言う通り、城壁の上には埋め尽くすようにスケルトンがいる。
その中には弓持ちもいるだろう。
地上から進み、城門を目指すのはあまりに危険だ。
しかし何故、城壁の上にまでスケルトンがいるのだろうか?
彼らは生者を殺しにいくのではなく、そこで待機しているという。何者かの意思を感じる。墓地からアンデッドを生み出している者の仕業だろうか。
「……そうだな。しかし、王都の川に入るまでに、いくつか川沿いに塔がある。ここにスケルトンがいないとも限らない」
「それは、私たちエルフにお任せを。弓で、射抜いてみせます。ヨシュア様からいただいたこの矢で」
モニカはそう言うと、通常よりも太い矢を手にする。
これは俺が作った矢で、刺突よりも衝撃を与えることを目的としている。
対スケルトン戦のために作ったものだ。
「ああ、頼むよ。モニカとエルフ七名は一緒に船に乗ってくれ。残り八名はこの砦で待機してほしい」
モニカと数名のエルフはこくりと頷いた。
「さて、次にエナたちだが、主に船と島の周辺を見張ってほしい」
「お任せください。ようやく、恩をお返しできます」
エナを含め、カッパは十名いる。五名ずつ、船と島に配置し、水辺と水中を見守ってもらう。
「水中を進むスケルトンがいないとも限らない。任せたよ。そしてエクレシア。エントたち全員と島を守ってくれるか」
「ああ。誰も上陸させない。この島の植物の量なら大丈夫だ」
エクレシアはそう答えた。
エントはその本体である木の体が大きいため、ここにこれたのは三名だけだ。
しかしこの小さな島を守るには三名で十分。
「心強い。あとの鬼人、人狼、天狗、ドワーフはそれぞれ半数ずつ、島と船に分かれて配置をお願いしたい」
俺の声に皆うんと頷いた。
しかしセレスが不満そうに声を上げる。
「メッメー! うちらは戦力にならないっすか!」
「そんなことはない。むしろセレスとモープには、全員船に乗ってほしい。一つ、試したいことがあってな」
「あ、危ないことじゃないっすよね?」
怯えるセレスに「さっきは威勢良かったのに」とメルクが呟く。
「大丈夫だ。そんなことはしないよ。ただ、セレスはもともと魔王軍だろ? だから相手が魔王軍だとしたら」
「なるほど……魔王軍には喋れない者と意思疎通するための信号があるっす。それを使えば敵対しないで済むかもしれないっすね」
「ああ。一度河港地区で試して上手くいけば、セレスたちの群の中に隠れて神殿まで近づきたい」
モープは全部で十五体いる。少々少ないが、モープの体は大きいので、容易に俺たちを隠すことが出来る。
あとはデーモンのロネアも召喚したい。スケルトンたちを止める術を聞いたところ、そういった魔法はないようだが、話はできるかもしれないとのことだった。
「これは責任重大っすね……任せるっす!」
「ああ、よろしく頼むよ。それじゃあ、島へ向かおうか」
俺たちは船に乗り込むと、王都の河港を目指し川を上った。




