143話 偵察済みでした!?
「なんと、大きい街なんでしょう……」
イリアは見張り櫓から、北を見渡して声を上げた。
北に見えたのは、立派な大都市だった。
視界を横切るように、塔のような高さの城壁が東西に延びている。その中には、数万の建物が寄り添うに建っていた。荘厳な宮殿や神殿が各所に見え、まさに王都というに相応しい威容を示している。
メッテも頷くが、その顔は暗い。
「だが、ここも例にもれずというか……」
「煙がもくもく。悲鳴もずっと聞こえる」
珍しくメルクは気分の悪そうな顔で呟いた。
人狼のメルクには、王都で響く声が聞こえてくるようだ。
モニカは弓を握って言う。
「すぐにでも救援にかけつけたいですが……」
「考えなしに突っ込んでも、やられるだけだ。私たちエントは、あの石ばかりの街ではとても戦力にはならないだろうし」
エクレシアの言う通り、ただ王都に突入するには危険だ。エントやカッパはあの街では自分たちの強みをいかせない。
市街には、すでに万単位のアンデッドがいると考えたほうがいい。
ただでさえ狭く入り込んだ市街地。たちまち包囲され、尽きぬ敵にいつかはこちらも力尽きてしまうのは想像に難くない。
「……まずは、拠点を構築しよう。そして神殿まで最短経路で攻める。ひとまずは……アスハ、あの川の中の島を見てきてもらっていいか?」
王都の中央には、南北を縦断するように川が流れていた。
その川を南に辿っていくと、王都から少し離れた場所に小さな島が見える。
フェンデル騎士団約百人が十分に滞在できる広さだ。
だが、アスハは意外な言葉を発した。
「すでに偵察済みです。あの島には人はおらず、小さな祭壇のような場所と、小屋とボートがいくつか見える程度です」
「そ、そうだったか」
メルクがアスハに「仕事が早い」と褒める。
アスハは常に天狗数名と共に、俺たちの進路の先や周囲を偵察してくれていた。
すでに王都とその周辺も偵察済みなのだろう。
アスハは少し恥ずかしそうに頬を染めると、俺に紙を手渡した。
「よ、よろしければご覧ください……あの王都の簡単な地図です」
「アスハ……ありがとう」
紙には、王都の街路を中心に、目ぼしい建物が丁寧に記載されていた。特にアンデッドの多い場所や、人間と思われる者たちが籠っている場所なども記されている。目的の大神殿の場所も分かりやすく描かれていた。
「すごいな、これは……俺も王都には行ったことはあるが、大通り以外は全く知らない。これはとても役に立つぞ」
戦争において情報程重要なものはない。アスハは今現在の地図と状況を俺たちにもたらしてくれた。
「お、お役に立ててうれしいです」
アスハは嬉しそうに答えた。
メッテが呟く。
「さっそく戦功第一がアスハと天狗たちに決まりそうだな。私たちも負けずに頑張るぞ!」
その声に、皆はおうと答える。
それから俺たちは川へ向かい、ボートを造り、王都の南への島に上陸するした。




