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138話 子供を助けました!?

「この近くだ。夕日のような色の大きい実がなっているぞ」


 エクレシアは俺の先を、浮遊するように進んでいく。


 俺はこの日、エクレシアと共に村の森のさらに北へ来ていた。


 隣を歩くエクレシアが少し心配そうな顔で俺に訊ねる。


「そういえば。あの夜……大丈夫だったか?」

「へ? あの夜?」

「あ、いやその、船の上のことだ」

「船の上……ああ、一週間前の話か」


 俺はあの日、イリアの提案で釣り船を造り、そこで過ごした。

 イリアと魚を食べたあと風呂に入って出たら、皆もやってきて……なんだか記憶があいまいだが、楽しく過ごせた。


「楽しい休日だったな……また、皆で海でもいこう」

「あ、ああ。だが、皆、ちょっとヨシュアをあまりに……」


 頬を染めるエクレシア。


「どうした? 調子でも悪いのか?」

「い、いや、なんでもない。それよりも、見えてきたぞ」


 エクレシアは前方を指さした。


 その方向には、夕日色の果実──オレンジが実った木が群生していた。


「おお、あったあった。ベリーも良いけど、こっちのほうが甘味が強いからな。村の近くで育てたかったんだよ」

「なら、このうちの何本かを私とエントで村の近くへ運ぼう」

「ああ、頼む。オレンジはどんどん成ってくれるからな」


 エントは森を熟知している。


 だから植物の知識が豊富だ。俺が果物の特徴を片っ端から伝え、近くの森にあったのがこのオレンジとリンゴだ。


 エントの行動範囲も広がっているから、これからさらに新しい果物も見つかるかもしれない。


「ともかく、これで果樹園が作れるぞ」


 エルフの近くのベリーもいくらか木をこちらに運んでもらっている。


 木を一から育てるのは大変だが、エントがいればすでに成長した木を移動できる。

 だから、このオレンジを収穫しても、また一年以内に収穫できるわけだ。


 俺はいくつかオレンジをもぎ取って、エクレシアと共に村に帰ることにした。


「オレンジはそのままでも食べれるが、ジュースにしたりジャムにできる。他の料理にも活かせるはずだ」

「ほう。それは楽しみだ」

「ああ。なにしろ甘いから子供も喜ぶだろう」


 そんなことを言いながら森を歩いていると、一人の少女が木の間から急に現れる。彼女はエントだ。


 エクレシアもそうだが、エントはこうして精霊のような姿で現れることが出来る。


「エクレシア様! 西のほうから人間と思しき者たちが、森に入ってきました」


 エクレシアは俺に顔を向けると、こう訊ねた。


「どんな格好の者たちだ?」

「皆、小さかったです。ドワーフさんたちみたいな大きさでした」


 ドワーフは東に住んでいる。エントの森の西には行かないよう同盟に参加する亜人たちには伝えているし、そこまで行くことは考えにくい。


 だとすると、人間の子供で間違いない。


 エントは焦った様子で続ける。

 

「皆、弱っているようで……追い返すのもどうかなと思いまして、果物などを転がして、様子を見ています」

「ありがとう。俺が見に行く」

「私も行こう。案内してくれ」


 エクレシアの声に、エントははいと答え、西に走っていく。


 不安そうな顔でエクレシアは呟く。


「ふむ……前ヨシュアが言っていた、南の都市の人間たちだろうか」

「その可能性が高いな。子供だけで逃げてきたのかもしれない。あるいはヴァースブルグの子供が道に迷っただけかもしれないが」

「いずれにせよ急いだほうがいいな……ヨシュア。掴まれ」

「……え? おおっ!」


 木から蔦が垂れてくると、それは俺の腕を掴み空中へ吊り上げる。そのまま、前方へと運んで行ってくれた。


 隣で飛ぶように進むエクレシアが呟く。


「ヨシュア、痛くないか?」

「いいや、大丈夫だ。これはいいな」

「よかった。メルクたちがこうするといいんじゃないかって言ってな」

「子供は本当に喜びそうだな」

「ああ。おかげで、最近は森が賑やかだ」


 そんなことをエクレシアが呟くと、前方を飛ぶエントが呟いた。


「この先です!」

「わかった、降ろしてくれ」


 あっという間に目的地に着いた俺は、前方の人影のほうに歩いた。


 近づいていくと、そこにはぐったりと横になる子供たちがいた。


 俺はわざと音を立て、駆け寄る。


「大丈夫か!?」

「……お、お兄さんは、大丈夫?」


 子供の一人がそんなことを訊ねてきた。

 まだ十歳にも満たない少女だ。顔は真っ赤で息が荒い。


 他の子供たちもそれぐらいの年齢で、全員で八人ほどのようだ。


 皆、本当に疲れ切った顔をしている。やはり南から逃げてきたのかもしれない。


「大丈夫だ。待ってろ、皆。今回復魔法をかける」


 俺は横になった子供たちに回復魔法をかけた。


 とりあえずは皆、傷はすっかり癒えたようだ。だが疲れのせいか安心したのか、そのままスヤスヤと寝てしまう。


 エクレシアとエントは落ち葉で作った布団を持ってきて、その上に子供たちを寝かせた。


「ありがとう、二人とも。とりあえずは、皆無事のようだが……」

「村まで運ぶか?」

「いや、動かして容態を悪化させたくない。

ここでしばらく回復を待とう。俺が小屋を作る」

「分かった。私も、他のエントたちに果物を集めさせる」


 こうして俺たちは、人間の子供の看病を始めた。

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