135話 色々隠す魔法を習得しました!?
学校が出来て数日。
作る物も落ち着いてきたので、俺は暇を見つけてはロネアに闇魔法を教わっていた。
「よし、完璧に習得できたぞ。なかなかこのハイドって魔法は便利だな。足音や匂いも消せるってことか」
「は、はい」
俺の言葉に、ロネアは首を縦に振った。
「うん? なんかおかしいか?」
「い、いえ。ですが、ヨシュア様ならご存じかと思いましたので」
「なんか勘違いしているかもしれないがロネア。俺は髪が黒いけど、デーモンでもなんでもないんだ」
「もちろん存じております。私どもと比べるのはおこがましい」
「そんな大げさな……」
召喚した魔物は、召喚士に絶対の忠誠を誓う……とされている。
この喋り方もその影響なのかな?
でも、セレスの名を刻んだ召喚石から呼ばれたわけで、俺に忠誠を誓うというのも変な話だ。
だがそれよりも、ロネアには一つ確認しておかなければいけないことがある。
「ロネア……つかぬことを聞くが、俺たちは魔物や魔族を率いる魔王と戦うことになるかもしれない。彼らの中には、お前たちと同種族のデーモンもいるだろう。それでも、戦えるか?」
「私は召喚なさった方の命でしか動けません。その魔王と戦うのが命令であれば、消えるまで戦うまで」
「そうか……ありがとう。その時が来たら、力を貸してくれ」
俺はそう答えたが、近くでじっとロネアを見てるイリアは少しも表情を緩めなかった。
信用しきれない何かをロネアに感じているのだろう。
「……そうだ。イリア、よかったらハイドを使った俺を見つけてくれるか?」
「なるほど。魔法の練習というわけですね」
「ああ。一応、動き回らせてもらう。もう少しで正午だから……それまでに俺を探してくれるか?」
「かしこまりました。では、後ろを向いて、十を数えますね」
「ああ、頼む。ロネアは、イリアと一緒に行動してくれるか?」
「はっ」
そうして、俺は自分の周囲にハイドを展開する。
姿も音も匂いさえも消す闇魔法。
魔力の込め方で、どれぐらいそれらの気配を消せるかが決まるようだ。
俺はありったけの魔力を込めて、ハイドを展開してみた。
さて、これで俺の姿は消えたはずだ。
でも、俺自身はイリアが見えている。
俺は立っている場所から、少し横に移動することにした。
「九、十……それでは、探しますね」
イリアは数え終わると、先程と同じ方向に振り返った。
それから、きょろきょろと周囲を見る──と思ったが、違った。
イリアの視線は、地面に向けられている。草が生い茂る草原だ。
──まさか。
俺はすぐに、その場から走った。
「逃がしませんよ!」
イリアも草が折れるのを見てか、俺のほうを追ってくる。
土につく足跡や草が踏まれるのまでは隠せない。
さすがにイリアの観察眼は優れている。
「……しかし、なんというかちょっと怖いな」
イリアに追われるなんて、まずないことだ。別に捕まってもいいが、なんというかイリアからは鬼気迫るものを感じる。
だが、俺は石畳の上に到着した。
ここなら、植物はないし、土に足跡がつくこともない。
さすがのイリアもこれは……おっと。
俺は道行く亜人を避けた。
「道の上は、通行人に気を付けないとな……皆、俺のこと見えてないんだし」
ここはフェンデル村の東の城門を出たあたりだから、川にも近く交通量が多い。ユミルディアからはドワーフたちの馬車もやってくるし。
この際だから、村の中に入っちゃうか。広場なら、広いからさらに分かりにくくなるはずだ。
俺は人混みを掻い潜って、城壁の内側へと向かった。
だが、イリアはそれに気が付いたのか、予測したのか知らないが、城壁へと向かってくる。
そして人混みの間を俺が通ると予想してか、人々の間を目にも留まらぬ速さで通り抜けていった。
「ま、まずい! この速さじゃ! うおっ!?」
俺は高速で移動するイリアから、とっさに身を引いた。
「こ、怖い……うん?」
俺は、近くを通りかかるメルクとアスハに気が付く。
メルクはイリアに気が付き、声をかける。
「イリア、変な動きして何してる?」
「メルクさんには関係ないことです……私がヨシュア様に抱き着くんですから」
「分かった。前にロネアに教えてもらった魔法をヨシュアが使っている。面白そう。メルクもやる」
そのメルクの声に、アスハも「私も」と呟いた。
「おいおい、いきなり三人かよ……なら、こっちも本気で逃げさせてもらうぞ」
俺はついに走り出した。
アスハとメルクもイリアに負けないほどの速さを持つ。とても、ゆっくりはしてられない。
そればかりか、アスハが突如周囲に緩やかな風を送り出した。
「風がぶつかる場所を探すつもりか……だが、この人の多さの前には──え!?」
アスハは翼を広げると、まっすぐ俺に飛んでくる。
「ま、まじかよ!」
俺はすぐにまた走り出した。
だが、アスハの風はやまず、ずっと俺を追ってくる。
イリアとメルクもそれを察知したのか、俺のほうに走ってきた。
「仕方ない……ちょっと卑怯かもしれないが、三人相手だから許してくれよ」
俺は風魔法を後ろに放つ。
そうしてアスハの送る風を乱した。
すると、さすがのアスハも追えなくなったようだ。イリアとメルクも足を止めてしまう。
「よし! もう少しで正午。俺の勝ちだ!」
このまま移動し続けていればもはや負けない。
やっぱり、このハイド……相当強力だな。
「……うん? うおっ!?」
突如、地面すれすれの場所を、ツタが飛び立った。そのままツタは、縄跳びのように行ったり来たりを繰り返す。
「エクレシアさん、ありがとうございます! これなら、ヨシュア様も走れません!」
イリアはそう言って、こちらにやってきた。
その後ろには首を傾げているエクレシアが。
このツタは、エクレシアのものか。
「まずい……これじゃ、永遠に縄跳び状態だ」
しかも、アスハが変わらず風魔法を使ってくる。
それにも対処しなければいけないので、空中に浮かんで屋根上に行くということができない。
見る見るうちに、イリアは俺の目前に迫ってきていた。
「ま、待て、俺の負け──うっ!」
俺はそのままイリアに抱き着かれてしまった。
「ヨシュア様、捕まえました! ふふ!」
イリアは俺に頬を摺り寄せてくる。
メルクとアスハも、すぐに俺に飛びついてきた。
俺はたまらず、ハイドを解いた。
「お、俺の負けだ……離してくれ」
「見つけたご褒美に、少しはお許しください」
「そう。ヨシュア途中ズルしたから、少しは我慢する」
「風魔法を使いましたからね。悪いヨシュアさんはおしおきです」
イリアたちはそう言って、俺を抱きしめる。
「はあ……皆には敵わないな。この魔法を使えば、俺の昔の仲間で見つけられる奴は絶対にいないはずだ……」
そんなことを呟いていると、ロネアが驚いた顔で俺を見た。
「よ、ヨシュア様……ヨシュア様は、魔力も隠蔽できるのですね」
「え? 魔力を?」
「は、はい。ヨシュア様がハイドを使った瞬間、ヨシュア様の魔力が消えたのです」
「特に何かを意識したわけじゃないけど……そうなの?」
ロネアは額から汗を流して、こくりと頷いた。
「となると、魔力探知が使えるやつにも有効ってことか」
でも、メルクやアスハが使った時は魔力までは隠せなかった。教えたロネアもそうだ。
「私たちデーモンロードでも、魔力は隠せません」
「うーん……無意識になんか組み合わせてるのかな」
「その可能性もあるかと」
ロネアの声に俺は頷く。
「なら、色々試してみるよ。そうすれば皆も魔力を消すハイドを使えるかもしれない。まあ、魔力を消せなくても、十分この魔法は強力だ。メルクたちもしっかり鍛えてくれ」
「うん。アスハとニンジャ部隊を作った。この魔法でフェンデルを影から守る」
「それは頼もしい。もし何か必要なら、俺に作らせてくれよ」
メルクは他にもロネアに闇魔法を教えてもらうと言っている。
俺は皆に言う。
「まあ、とにかく皆でご飯にするか。動き回ったせいか、久々に腹が減ったよ」
その声にイリアが頷く。
「そうしましょう。ロネアさんもぜひ一緒に」
「いいのですか?」
「もちろんです。この村の食事は美味しいですから」
イリアなりに、ロネアを受け入れようとはしてくれているみたいだな……
ロネアは、ありがとうございますと丁寧にお辞儀した。
「よし、それじゃあ、皆で食堂にいくぞ」
その後、俺たちはお昼ご飯を一緒に食べた。
こうして俺は、ハイドを習得するのだった。




