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旭日の西漸 第5部 魔法と科学篇  作者: 僕突全卯
第5章 戦いの後
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国選弁護人と戦後賠償

3月15日 東京都千代田区 日本武道館


 「ラスカント」の墜落から26日後、日本政府はエルメランドとの戦いで命を落とした犠牲者を弔う為、戦没者追悼式典を開催していた。来賓席には各界の著名人や重役たちが臨席しており、一般的には全国から訪れた戦没者の遺族が駆けつけていた。


『天皇皇后両陛下の御臨席を仰ぎ、『テラルス=エルメランド戦争』戦没者追悼式を此処に挙行致します。此度の悲劇によって11,981名の日本国民がその尊い命を奪われ、世界全体においては3000万にも上る人命が、不条理な破壊と殺戮の犠牲となりました。戦火の記憶は新しく、未だ傷は癒えることはありませんが、犠牲となった方々の御霊と御遺族の方々には改めて哀悼の意を捧げます。

我が国、そしてこの世界が再び平和を取り戻すことが出来たのは、彼の凶悪な敵に立ち向かい、かけがえの無い命を捧げられた皆様の犠牲によって得られたものに他なりません。皆様には敬意と感謝の念を申し上げます・・・』


 日本国首相の伊那波孝徳は、ホールの中央に設けられた慰霊碑の前に立って式辞を読み上げる。その傍らでは天皇・皇后両陛下が御臨席していた。喪服に身を包む参列者たちは、そのほとんどが殉職した自衛官の遺族であり、皆、悲痛な表情を浮かべている。


『戦没者として名を上げられた方の中には、未だ故郷への帰還を成していない方もいらっしゃいます。我々は行方不明となった方々全てがこの国へ戻って頂ける様に全力を尽くしてまいります。この様な悲劇は二度と起こることを許されない。よって我々は90年以上前より受け継ぐ平和主義の精神の改めて心に刻み、この世界の真の平和の実現に寄与し、貢献していくことを誓います。終わりに、今一度、戦没者の御霊に安らぎを、御遺族の皆様方にはご多幸があることを願い、式辞と致します・・・』


 式辞を読み終えた伊那波は、両陛下及び聴衆に向かってそれぞれ一礼すると、壇上から降りていく。


『霊魂に哀悼の意を表し、1分間の黙祷を捧げます。ご起立ください』


 その後、場内にアナウンスが響き渡る。参列者たちは次々と席を立った。


『黙祷』


 その一声を合図にして、彼らは一斉に目を閉じる。参列者たちの瞼の裏には、世界を護る為に死んで逝った者たちとの思い出が浮かんでいた。


(良い奴はみんな死ぬ・・・か)


 その中には島崎一尉とその家族の姿もあった。彼は円盤の中で散って逝った部下たちに思いを馳せる。その後、追悼式典は天皇陛下の御言葉、そして衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官、戦没者遺族代表による追悼の辞が述べられた後に、天皇・皇后両陛下の御退場を経て、参列者による献花へと移る。首相の伊那波や来賓たちが献花を終えた後、一般参列者が献花台の前に長蛇の列を作っていた。


(我々は余りにも多くの犠牲の上に立ってしまった。深い傷を負った世界がこの先、復興出来るかどうかは、まだ誰にも分からない。でも今は、勝利と生存を祝って命一杯笑ってやろうと思うんだ)


 ほどなくして島崎一尉と彼の家族に献花の順番が回ってくる。彼の妻と息子が献花を捧げる傍らで、島崎は死んでいった仲間たちに向かって微笑みかけたのである。


〜〜〜〜〜


3月18日 日本国 東京都葛飾区 東京拘置所


 「テラルス=エルメランド戦争」戦没者追悼式から3日後、準現行犯逮捕されたエルメランドの亡霊たちは、変わらず留置場と取調室との往来を続けていたが、ついに昨日、検察によって起訴され、晴れて被告人となった彼らの身柄は拘置所に移されていた。勾留されてからおよそ1ヶ月、連日の取り調べに疲弊したミャウダーら四幹部は憔悴しきっており、彼らと共に捕らえられた6名の雑兵たちは、取り調べの度に助命の嘆願を繰り返している。

 その中で唯一、ルヴァンだけは何時もと変わらない様子で日々を過ごしていた。この日も日本国について書かれた書籍を読みふけっている。そんな彼女の下へ拘置所の職員が現れ、面会希望者が居ることを伝えた。


「・・・面会? 聴取じゃないのか?」


「・・・会えば分かる。とにかく出ろ」


 その職員は鉄格子で出来た扉を開けると、ルヴァンに部屋から出る様に指示する。彼に促されるまま勾留部屋を出たルヴァンは、面会室へと案内された。




 面会室には立ち会い警察官の姿は無く、会話用の小さな穴が空いた透明なアクリル板の向こう側には、スーツを着た真面目そうな印象の男が座っていた。ルヴァンは見慣れないその男に首を傾げつつも、彼と向かい合う様にしてパイプ椅子に座る。


「どうも・・・日本国政府より、正しくは『刑事訴訟法』第36条及び第289条に基づき、国際法廷の裁判長として内定している最高裁判所長官、笹淵詠明の職権によって、貴方の『国選弁護人』としての任を承りました、弁護士の篠原佑介と申します」


 篠原と名乗るその男は自らの素性について説明すると、懐から1枚の名刺を差し出す。彼は日本政府がルヴァンの弁護を行わせる為に用意した「国選弁護人」であったのだ。


「・・・弁護人? 何のつもりだ」


「・・・」


 弁護人そのものの存在を不審がるルヴァンの態度に、篠原は呆れ顔を浮かべていた。


「『日本国憲法』第37条第3項・・・『刑事被告人はいかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する』、如何なる罪で刑事告訴されようとも、被告人は裁判において弁護される権利を有します。そして今回の案件は『必要的弁護事件』・・・法定刑が死刑や無期に相当する案件ですので、被告人に弁護人が付かなければ裁判をスタート出来ません。貴方の星はこの日本よりも遙かに進んだ世界だと聞いていたのに、被疑者の権利を守る『国選弁護人制度』も無かったのですか?」


 彼女ら密伝衆に対する裁判は、被害を受けた各国から判事と検事が派遣される“国際法廷”という形で行われることになっている。だが裁判のルールについては、裁判が実際に行われる日本国内の規則を適応し、罪状については地球の「国際刑事裁判所ローマ規程」に定められる犯罪、すなわち“集団殺害犯罪”、“人道に対する犯罪”、“戦争犯罪”、“侵略犯罪”について追及されることになっていた。

 よって彼女らの身柄は「刑事訴訟法」に則った手続きで拘置所まで運ばれており、「検察」と「警察」は初公判に向けて捜査を継続している。但し、各国より判事と検察が集まる国際法廷が何時出来上がるのかが未だ不明瞭である為、起訴だけは行ったものの、第1回公判の日程すらもまだ未定という事態に陥っていた。


「貴方がこの世界にとってどういう立場にあろうが、私の仕事はあらゆる手段を駆使して貴方に無罪をもたらすことです。この先数ヶ月、あるいは年単位で裁判は続く。長い付き合いになるとは思いますが、宜しくお願いしますね・・・」


「・・・!?」


 篠原はそう言うと、ルヴァンに向かって微笑みかける。ルヴァンは憎き敵の親玉である筈の自分に、真摯な態度で接する目の前の日本人をとても不気味に感じていた。今までの勾留生活の中で一度も不敵な表情を崩すことが無かったポーカーフェイスは、一転して戦慄した表情を浮かべる。


〜〜〜〜〜


3日23日 エザニア亜大陸 スレフェン連合王国 アンチェス市 沖合


 スレフェン連合王国と密伝衆との戦いにおいて、唯一外征していなかった“第2護衛隊群”を母体とする艦隊が、遠き西の国であるスレフェン連合王国へ派遣されていた。第3護衛隊群と共にレーバメノ連邦へ出撃していた「あしがら」を除く護衛艦7隻に、“第1多目的輸送隊”に属する強襲揚陸艦の「しまばら」と「おが」、そして“第1遊撃隊”に属する空母「あまぎ」、さらには補給艦の「ましゅう」と「おうみ」、輸送艦「くにさき」、ドック型揚陸艦「ハーパーズ・フェリー」が随伴している。そして、本来ならば撃沈された「みょうこう」の後継艦となる筈だった「さつま型ミサイル護衛艦」3番艦の「いわみ」が、「あしがら」の代理としてこの艦隊に加わっていた。

 日本は「ラスカント」との戦闘によって、6隻の護衛艦と1隻のミサイル駆逐艦、そして空母「あかぎ」の撃沈という被害を出し、加えて「むつ」と「レナ・H・サトクリフ・ハイビー」は航行可能ながらも大破、さらに「マイケル・マーフィー」と「あしがら」は航行不能に陥り、結局「あしがら」は本来の退役を待たずして廃艦となってしまった。


『間も無くエザニア亜大陸のアンチェス市を視界に捉える。総員、戦闘準備!』


 旗艦「あまぎ」から各艦へ無線連絡が通達される。敵地とも言うべき地が視界に捉えられたことで、隊員たちの間に緊張が走った。遠き西の国へ派遣された彼らに与えられた任務は、スレフェン連合王国に戦争責任を認めさせ、賠償を請求すること、そして交渉が決裂した場合には、武力を以て目的地であるアンチェス市を制圧することである。

 王国第2の都市である「アンチェス市」を目指すのは、首都であるローディムが同地の地下に埋まっていた「ラスカント」の浮上によって文字通り壊滅した為だ。ローディムという街があった筈の場所は、まるで巨大な隕石でも落下した跡の様に大きな窪みになっており、海水が流入して新しい“湾”になっていた。故に臨時政府に相当する機関が置かれている可能性が1番高い王国第2の都市を目指しているのだ。


「・・・また、此処へ来ることになるとはな」


 艦隊の旗艦である「あまぎ」には、外務副大臣の纏健輔と外務官僚の大河内忍が使節団として乗艦していた。2人ともおよそ5ヶ月ほど前、「9月11日事件」が起こった後に一回、スレフェンへ派遣されていたのである。「あまぎ」の艦橋からアンチェス市を眺めていた纏と大河内は、得も言われぬ思いに囚われる。

 連合王国海軍を構成していた3つの艦隊と航空戦力である竜騎の多くは、自衛隊の攻撃によって壊滅している為、アンチェス市の沖合には非力な巡視船が巡回しているだけであり、軍事的に脅威と言えるものは存在していなかった。無人偵察機である「艦載機型TACOM改」を飛行させて市街地周辺の上空も監視していたが、竜騎兵の姿も無かった。


「小型船を降ろせ! 使節団の上陸に先んじて会談の要求を彼らに伝える!」


 艦隊司令を勤める第2護衛隊群司令の由井昌幸海将補/少将が指示を出す。その後、強襲揚陸艦「おが」の艦尾門扉が開かれ、そこから数名の自衛官を乗せた1艘の小型船が飛び出し、アンチェス市へと向かって行った。


・・・


スレフェン連合王国 アンチェス市 中心街 市長の屋敷


 巨大艦の大艦隊の接近を受けて、アンチェス市は大騒ぎになっていた。そのことは港の周辺を巡回していた沿岸警備隊から、都市の中心街に位置する市長の屋敷へ伝えられる。


「・・・沖に巨大艦隊だと!? 国籍は!?」


『白地に旭光を四方に散らす紅い丸が描かれた旗・・・恐らく『ニホン国』の艦隊だと思われます!』


「・・・何!?」


 市長のメロット=カサバッハはたちまち狼狽する。イスラフェア帝国とアラバンヌ帝国に同時侵攻した王国の第1・第2艦隊を瞬く間に殲滅し、さらには首都ローディムに侵攻して、残す第3艦隊をも壊滅させた恐怖の軍勢が、およそ2ヶ月振りに現れたのだ。


「あいつらは・・・ローディムを滅ぼした“円盤”にやられなかったのか!? 一体どうなっているんだ!?」


 世界魔法逓信社の支部を国内に持たないスレフェンは、国際情報が国内で出回ることがほとんどなく、「ラスカント」が世界にもたらした被害も、日本軍の功績も、巨大円盤の行方も分かっていなかったのだ。


「・・・各国に派遣していた密偵との連絡手段も、首都の崩壊によってほとんど絶たれてしまったからな、一体あの円盤は・・・ニホン軍ならばその行方を知っている筈」


 市長の執務室には、ローディムの大崩壊から命からがら逃げ果せていた王太子のエドワスタ=テュダーノヴの姿があった。彼は共に逃げ出した家族とわずかな部下たちと、このアンチェス市に身を寄せていたのである。

 エドワスタは首都を崩壊させた巨大円盤に、密伝衆の者たちが関わっていることを薄々感づいていた。王室直下の研究機関である「密伝衆」が王国を裏切り、ローディムを壊滅させた・・・本来ならばそんなことは考えられないが、彼は密伝衆の者たちを何処か信用出来なかったのだ。


『アンチェス沿岸警備隊司令部より追加報告! 艦隊より派遣されたと思われる小型の高速船が港に着港し、ニホン人を名乗る集団が上陸を要求して来ました!』


 市長の執務室に繋げられた信念貝を介して、沿岸警備隊の司令部から更なる報告が届けられる。これによって沖に現れた艦隊が日本国から派遣されたものであることが確定となった。


「使者を介した接触か・・・相手は何と?」


『臨検した結果・・・彼らは会談の場を要求して来ました』


 市長のメロットの問いかけに司令部の兵士が答えた。その言葉を聞いていたエドワスタは、意を決した顔で立ち上がる。


「私が出よう、元より・・・父上から外交を一任されていた身だからな。使者に会談に応じると伝えよ!」


「・・・!」


 エドワスタは日本との対談に臨むことを決める。彼の言葉はアンチェスの沿岸警備隊、そして使者として派遣された自衛官を介して艦隊司令部へ伝達された。その後、もう1艘の小型船が艦隊から派遣され、日本国使節団の命を受けた纏と大河内の2人がアンチェス市への上陸を果たしたのである。




アンチェス市 中心街 市長の屋敷 応接間


 王国第2の都市・アンチェス市へ上陸した纏と大河内は、市長の屋敷の一角にある応接間に通されていた。壁際には来る者を楽しませる為の美術品が並べられており、その中にはスレフェンの文化には似つかわしくない、地球でいうところの“東洋風”の陶器があった。おそらくは大ソウ帝国の品なのだろう。


「・・・!」


 応接間の扉が開く音がする。2人は立ち上がって入室者を迎えた。そこに立っていたのは、彼ら2人にとって良く見覚えのある男だった。


「・・・エドワスタ=テュダーノヴ王太子!」


「・・・貴方は!」


 纏はその男の名を呼んだ。エドワスタの方も驚きの表情を浮かべている。日本とスレフェン、両国間で初めて行われた会談で相まみえた男たちが、およそ5ヶ月の時を超えて再び顔を合わせたのだ。

 エドワスタに続いてアンチェス市長のメロットが入って来る。その後、両者は自己紹介を交わした後、向かい合う様にして席に着いた。最初に口を開いたのは纏である。


「・・・我々がこの都市を訪れたのは、首都が崩壊したこの国の“政府代行機関”が設立されている可能性が1番高い街だと考えたからです。まさか貴方にまた会えるとは思っていませんでしたよ。よくあの惨禍から生き延びていたものです」


 スレフェンの現状については一切の情報が無かった為、最悪の場合は首都と政府の滅亡によって群雄割拠の状態に陥っている可能性も危惧していたが、王の後継者が此処に居るのならば話は早い。


「我々が此処へ訪れた訳については薄々感づいているでしょう。野生龍による日本本土への攻撃、そしてロッドピース市における日本人虐殺・・・その他、我が国に対する敵対行為について、日本政府は貴国に対して謝罪と賠償を要求します!」


「・・・!」


 纏は堂々とした声色と口調で、エドワスタに対して謝罪と賠償を要求した。そして彼は同時に1枚の書類をエドワスタに差し出す。それには以下の様なことが書かれていた。


・スレフェン連合王国は野生龍による日本本土攻撃、ロッドピース市での民間日本人虐殺、その他のあらゆる日本国への敵対行為によって、多大な犠牲者を出した戦争責任を認め、日本国に対して賠償金2500万ルフェンス(ルフェンス金貨を金含有量で換算、およそ10兆円)を支払う。年利は無し。支払期間は要交渉。

・スレフェン連合王国は同国南東に位置するリットー半島とその所属島嶼を日本国へ割譲する。

・スレフェン連合王国は此度の戦争を引き起こし、あらゆる悲劇を招いた責任を深く反省し、日本国及び日本国民に対して今後一切の敵対行為を行わない。

・スレフェン連合王国は戦争犯罪人を全て処罰し、此度の戦争を招いたあらゆる勢力を永久に排除しなければならない。

・スレフェン連合王国は軍を解散し、今後は国防に必要な最低限の武力を保有することのみ許される。

・以上の目的が達成されるまで、スレフェン連合王国政府は日本国の監督下に置かれる。

・スレフェン連合王国は鎖国を解除し、日本国と通商条約を締結する。その内容については今後の協議にて定める。


「・・・っ!」


 エドワスタは悲痛な表情を浮かべる。だが敗者であり、すでに力も残っていない彼らに、艦隊を率いて現れた日本の要求を突っぱねる度胸は無かった。


「・・・い、以前も申し上げましたが、この龍の事件と我が国とは何の関係も・・・」


 エドワスタはせめて賠償額を下げる口実を得ようと、9月11日事件と自国との関係を否定しようとした。この事件と小型円盤の九十九里浜襲来については「密伝衆」が独断で行ったことであり、ミャウダーが事後報告を行うまでは彼らも知らなかったのだ。


「いえ・・・ロッドピースの事件の時、連合王国第1艦隊司令であるギルバート=クロウ氏が、我が国の副領事の前で堂々と告白しています。あの事件を起こしたのはスレフェンだと・・・」


 だが、纏は間髪入れずに反論する。イスラフェア帝国のロッドピース市にスレフェン軍が上陸した時、その指揮を執った連合王国第1艦隊司令のギルバート=クロウ将官が、1カ所に集めた日本人に向かって“龍の事件は自分たちの仕業だ”と言い放っていたのだ。


(・・・余計なことを!)


 エドワスタは眉間にしわを寄せる。だが彼は言い訳を続けた。


「あれは『密伝衆』が独断でやったこと・・・我が国の意思ではありません!」


「それならすでに知っています。捕らえた本人たちから直接聴取しましたからね。ですがその『密伝衆』はこの時、貴国に属する魔法研究機関ではないですか! それなのに何も責任が無いと申すのはいささか無理がありませんか?」


「・・・”捕らえた”!?」


 エドワスタは纏が発した言葉に驚く。崩壊した首都、そして地下から飛び立った謎の巨大円盤と共に自分たちの前から姿を消した「密伝衆」が、何故日本国内に囚われているのか理解出来なかったのだ。


「『世界魔法逓信社』の支部が無い貴国は知らないでしょうね・・・2ヶ月の間に世界で起きた惨劇を!」


 纏はそう言うと、世界魔法逓信社が発行した新聞記事と「ラスカント」の写真、そして日本国内で勾留中である密伝衆のメンバーたちの顔写真をテーブルの上に出した。

 エドワスタはすぐにそれらを手に取り、新聞記事の内容を読み進める。それには、ローディムの地中から復活した巨大円盤が、“月から飛来した異星人の残党”を名乗り、世界の主要都市を次々と破壊し、大規模な殺戮と蹂躙を繰り広げた様が刻々と書かれており、そして円盤の刃が日本本土をも襲ったことが書かれていた。そして何より彼を驚愕させたことは、人智を超えた力を持つ巨大円盤に対して、日本国が勝利を収めたという一文であった。


「我々は多大な犠牲を払って勝利を手に入れた。そして我が国の近海に墜落した円盤に潜んでいた11名の身柄を拘束しました。その顔写真に見覚えがありますね・・・?」


「・・・はい」


 エドワスタは弱々しい声で頷いた。1人だけ見覚えの無い女が混じっているものの、それらの写真に映っていたのは、他でもない密伝衆の研究員たちであったからだ。彼らは事此処に至って、密伝衆と名乗っていた彼らの正体と真の目的を知ることとなったのである。


「・・・騙され、首都そのものを破壊された貴方方も、密伝衆・・・『エルメランド』の被害者であると言える。ですが、我々はそれを理由にして、貴国に情けを掛けることは断じて無いと言っておきます。さらなる言い訳をするならば、今一度・・・良く考えることですね」


「・・・!」


 纏の言葉は遠回しに、これ以上の言い訳は聞く余地も無いと告げるものだった。エドワスタとメロットは蛇に睨まれた蛙の様に縮こまる。


「各地の有力者と・・・相談する時間を貰えませんか?」


 エドワスタはせめてもの情けとして、正式な返答を行うまでの時間的猶予を求めた。


「・・・いいでしょう。ですが、あまり長くは待てませんよ?」


 纏は必要以上の先延ばしを認めないという釘を刺しながら、時間の猶予を与えることを認める。その後、連絡要員として数名の自衛官をアンチェス市に残した艦隊は、アラバンヌ帝国のサグロア基地にて待機することとなった。

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