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7 花咲き娘と救世主

残り数話で完結となると思います。

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

「アルトさん?」



私を引っ張ってずんずんと進んでいくアルトさんに声をかけるも、返事はない。




「おーい、アルトさんてば!どこに向かってるんですか」




「帰る」




「食堂に?」




「そう」




そう言うアルトさんは少し怒ってるみたいでいつもより言葉もぶっきらぼうだ。




「なんでそんなに怒ってるんですか」




私の質問にアルトさんは答えない。


また無視かコノヤロウ。




「アルトさーん」




しつこく声をかけ続けていると、アルトさんがピタリと突然歩みを止めた。あまりに突然止まったせいで彼の背中に私の鼻が押しつぶされる。ひぎゃ。




「·····アリーサちゃんがあんな奴らと一緒に学園にいたのかと思うと、あんな環境で過ごしていたのかと思うと、なんかすごいムカつく」






らしくなく、少し子供っぽい言い方をするアルトさんを揶揄おうとしてその顔にいつも浮かべている微笑みがないことに気づく。




「·····私は大丈夫ですよ?」




「俺が大丈夫じゃない」




私は本当に平気なのに。


ああいう態度を取られるのは私自身のせいでもあるし、それに今はアルトさんがいる。




それでもずっと険しい顔をしているアルトさんの手を私はぎゅっ、と握った。




「アルトさん、私は本当に大丈夫です。もちろんムカつきもしましたけどアルトさんが私を受け入れてくれたから、もうそれだけで幸せです」




「·····受け入れるも何も、アリーサちゃんは何も悪いことをしていないだろ」




「·····しましたよ」




確かに暴力はふるっていないけど、それでも言葉で彼女を傷つけた。身勝手な理由で私は彼女を虐めた。


その事実は変わらない。




「アリーサちゃんみたいな子ができる虐めのラインなんて口で言うくらいでしょ。あの子が言っていたように突き落としたり、教科書を切り裂いたりなんてしてない。違う?」




「·····それはそうですけど、でも」




「うん。確かに言葉だけでも立派な虐めになる時だってある。でも、あの子に至っては違うよ。そんな繊細な神経してない」




「·····なんで分かるんですか」




あまりにもアルトさんが否定してくるので少し私もムキになってそう言えばアルトさんはニコリと笑みを浮かべた。




「あの子、色々裏でやってたらしくてこの学園に入ったのも不正入学なんだ。家の動きも最近怪しいし、城の方でも問題人物として監視対象に入ってるよ。あの子は自分がどう動けば思い通りにいくのか知ってる。邪魔者の排除の仕方も」




そんなこと、私はちっとも聞いていない。




と思ったのが顔に出ていたのか私がまだ何も言ってないにもかかわらずアルトさんは「これはまだ一部の人しか知らない情報だからね」と付け足した。




「だからといって虐めを肯定する気もないけど、アリーサちゃんがあの子のためにずっと悩んでいるのかと思うとちょっと嫌だし」




とても良い笑顔を浮かべてそういうアルトさんに私はなんと返すのが正解なのか。


つくづく読めない人だ。




「·····それに、俺の方が知られたら嫌われることばかりだよ」






ポツリと小さな囁きが聞こえてきた。


アルトさんと目が合う。


その顔に浮かぶ笑みは先程と同じはずなのに、どこか悲しそうに見える。




「俺は立場上、汚れ仕事もやるんだ。ミストさんが知ったらきっと悲しむから悟られないようにしてるけど、表に出せない事だって一つや二つじゃない。だから本当は俺の方が·····」




悲しい微笑みで、言葉を紡ぐアルトさんに私が真っ先に思ったことは、励ましの言葉でも否定の言葉でもなくて。




似合わないなあ、とただそう思った。






似合わない。


後悔しているようなその口ぶりも、悲しそうなその美しい微笑みも、いつもより小さなその声も。




全部、アルトさんには似合わない。




掴んだ手を離さないよう、温もりを逃がしてしまわないよう私はもう一度、その手をぎゅっと握る。






「アルトさん、私は貴方が思っているほど貴方のことをカッコ良いとは思ってませんよ」




「·····は?」




ぽかんとした顔のアルトさんに私はしてやったり、と頬を緩ませる。




「私は知ってます。アルトさんが本当はとっても性格がひねくれてることも、腹黒なことも、私のちょっとしたミスを本当に楽しそうに笑うことも、嫌いな人はとことん嫌いなことも、集まってくる女性が消えれば良いとか思っちゃってることも」




「·····並べれば並べるほど俺、割と最低だね」




微妙な顔をするアルトさんに私は「今気づいたんですか?」と追い打ちをかけて見る。




「でも」




続く言葉にアルトさんが首を傾げる。




「私はアルトさんが優しいことも知ってます。街の人達のことを本当に大切に思ってることも、なるべく人を傷つけまいとしていることも、辛いこと全てを自分一人で背負いこもうとすることも。全部知ってて、知ってる上で私はアルトさんが好きなんです」








伝わるかな。


この面倒臭い腹黒騎士に。




私が貴方からどれだけのことを教わったか。


貴方がどれほど私の支えになっているのか。




私にとっては誰がなんと言おうと、貴方が救世主なんだってこと。






しばらくの間、アルトさんは何も言わなかった。




でも、唐突にその手で目を覆うと小さく呟いた。






「·····アリーサちゃん、本当に趣味悪いよ」




お前がそれを言うか。






「お互い様です」






そう返せば、アルトさんは今まで見た事もないような、えらく幼い笑みを見せた。






















·····と、それで終わればよかったのだけれど。




アルトさんの笑みに私も釣られて微笑んだその時。


頭がムズムズした。




え、ちょ、ちょっと待って。このタイミング?このタイミングで咲く?








いつもいつもタイミングが悪すぎる自分の能力にどうしたものかと焦っていると察したらしいアルトさんが私の頭の上を見る。




「もしかして、咲くの?」






「た、多分!」


ポンッ!!!






言うが早いか、咲くが早いか。




ほぼ同じタイミングで頭上から音がした。


が、今回は一度だけではない。


ポンポンポンポンと頭の上で何度も音がする。




まって。なにそれ聞いてないです。え、まだ出てる?花まだ咲いてる?






「·····あの時と同じだ」




呆然とした様子のアルトさんが零した言葉が聞こえる。


え、あの時ってまさか·····。






視界に澄み渡った空のように綺麗な青色の花が映った。


その花たちは生き生きと咲き誇りながらも宙を舞っている。




空間いっぱいにキラキラと光を帯びた花が舞い上がる。




なるほど確かに前にアルトさんが言っていたようにこの光景はあまりに神秘的でみとれてしまうのも分かる。




·····自分の頭から咲いた花じゃなければな!!!






















あとから知った話ではあの花はブルースターという名前の花らしい。


小ぶりでも存在感のある綺麗な花だ。




花が咲いたあとのことだが、別に前のように冬にも限らず国中の花が咲くことは無かった。


が、しばらくやたら学園の周りの草木花が生き生きとしていたらしい。私自身もやたら肌の調子がよかったり、怪我がすぐ治ったりした。




·····まあ、それと花が咲いたことは関係ないかもしれないしここは触れないでおく。




決して現実逃避とかではないから。


うん。本当に。







ブルースター

花言葉『幸福な愛』



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