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35 花咲き娘、悪役令嬢っぷりに悩まされる


声のした方向に向けば、そこにはフリフリとドレスを揺らしながらこちらに向かってくるジュリーナ姫がいた。


·····うわ、こっち来てる。



ドン引きしている私には目もくれずにジュリーナ姫は私たちの元まで来るとアルトさんの腕をグイッと引き寄せた。

「もう。突然早足でどこかへ行ってしまうからびっくりしたわ。アルトったらお茶目さん」

ふふふ、と笑うジュリーナ姫の目にはハートが飛び交っている。

一見、バカップルに見えるけどアルトさんの目がしっかりと死んでいる為、自分で頼んでおいてなんだけど哀れでならない。


「·····あら、この方たちは?」


なんとも言えない表情でその様子を見ていると、姫様は今初めて私たちに気づいたというようにこちらを向く。


「·····私の知り合いですよ」

「ふーん。アルトの知り合い、ね。·····あら?貴方も男前ね。名前は?」

ジュリーナ姫の問いかけに話しかけられた会長はいつもは見せない爽やかな笑みを浮かべた。嘘くささ濃縮還元100パーセントだ。


「ルートと申します、以後お見知りおきを」


会長は恐らく姫様のことを知っているだろうが、姫様の方は会長のことを知らなかったらしい。

ジュリーナ姫は「覚えておくわ」と言うとその後、またアルトさんの腕にくっつく。

そして次に私に目を向けた。


「この女も知り合いなの?」

「·····ええ」

「ふ〜ん」


そう言うと、姫様は私を上から下まで品定めをするようにジロジロと見る。

そして、フンッと鼻で笑われた。


「随分みすぼらしい服を着てるのね。後ろの御二方も」


確かに街に下りても目立たない服を用意してもらったけど、別にみすぼらしくはないと思う。

私はジュリーナ姫の相変わらずの悪役令嬢っぷりになんていえば良いのかわからずに微笑んで誤魔化す。


「·····ジュリーナ様、そろそろ行きましょうか。他の護衛を置いてきてしまいましたし。次はこの街一番の商店へ案内致します」


微妙に気まずい空気が流れる中、アルトさんにしては珍しく強引に話の中に入ってきた。

姫様はアルトさんに話しかけられると、上機嫌で頷いた。

もう私たちのことは眼中に無いようでほっと溜息をつく。


「いいわね、エスコートしてちょうだい」

「承知致しました、ですがその前に。もし貴女様が宜しければのお話ですが、そこにいるルートもご同伴にあずかってもよろしゅうございましょうか?」

「は?」


アルトさんの突然の提案にさすがの会長も目を丸くする。

私も驚いた。何故、ここで会長の名前が出てくるのか。


「あら、そんなについてきたいのなら別に許可してもいいわよ。貴方、かなり男前だし。アルトとのデートは明日に持ち越しね」


そして思いの外、姫様も乗り気なようだ。


「いや、私は·····」

「ルートといったかしら?特別に私の同伴を許可してあげる。有難く思いなさい。まさか、断らないわよね?こんな機会滅多にないわよ?」



なにか言おうとした会長に姫様が言葉を被せる。

会長の眉間に深いしわが刻まれる。

きっと内心、こんな小娘ごときに屈辱だ位のことは思ってるんだろうな。

かと言って生徒会長はこの人が一国の姫だって知ってるわけだから下手に断る訳にも行かないし。


案の定、会長は不機嫌そうにしながらも「光栄です」と返事をした。

アルトさんが姫様から見えないところでニヤリと笑ったのが見えた。大方、自分以外に犠牲者を増やせたことが嬉しいのだろう。

·····悪い顔してるなぁ。


悪魔の笑みを見てしまい、密かに震え上がっている私に会長がすれ違いざま、「また今度話そう」と囁いた。

私はもう話すことなんてないのにな、と思うもののそれを伝える前に会長は姫様の方へ行ってしまった。

「下のものは下のもの同士仲良くしてるが良いわ。それではごきげんよう」


ジュリーナ姫が完全に私の方を向いて勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


どこかで聞いたことのあるセリフだと考えてから私はひらめく。

·····あ。そういえば私がリリアを虐めてた時にこんなようなセリフ言ったかもしれない。

す、すごい。本当に悪役令嬢を素でやってのけてる。


慄く私に姫様は気分を良くしたようでもう一度ふんっと鼻で笑うと、背を向け歩き出す。

·····何故か分からないけど、どうやら目をつけられてしまったっぽい。



まあ、二日の辛抱だ。



抱きつくようにしてアルトさんにくっつく姫様にモヤモヤしたものを感じながらも、私はアルトさんの背にエールを送った。


·····あれ?そういえばなんでアルトさん、わざわざこっちに来たんだろ。随分焦ってたみたいだけど、会長を巻き込むためかな?


離れてゆく背中に密かに今度聞いてみようと決めた。





「なんかごめんね。私に巻き込まれてミカオさんとランサさんまでイチャモンつけられちゃって」


嵐のように来て嵐のように過ぎ去って行ったジュリーナ姫が見えなくなってから、私は後ろでずっと控えていてくれたミカオさんとランサさんに謝罪をする。


「いえ、俺たちは別になんと言われようといいんです。·····というかそれよりも、隣にいたあの男性ってまさか、アルト・エルセン様でしょうか?」

ランサさんが少し身を乗り出して聞いてきたので私は戸惑いながらも頷く。


「う、うん。そう。確か騎士団の副団長やってるって」

「や、やっぱり!本人っすか!!!」

説明を付け足すと、ミカオさんまで興奮したように聞いてくる。

「えっと、アルトさんがどうかしたの?」

「どうかしたもこうもないっすよ!あの方は騎士団の中でも生ける伝説と言われてるんす!見事な剣捌きに、人間離れした身体能力!それにチームをまとめるカリスマ性も兼ね備えてる最強のお人っす!」

「俺たちの憧れの騎士って言うのはエルセン様のことなんです!俺たち、数年前に村で騎士の人達が訓練してるの見てそれからずっとエルセン様を目標としてきたのですが、まさかこんな所で会えるなんて·····」

ミカオさんとランサさんが物凄い早口で情報をボロボロこぼしていく。

怒涛の情報量に私の頭がキャパオーバーしそうだ。


えっと、一先ずアルトさんが私が思っていた以上にすごい人だってことはわかった。

「アリーサ様、お知り合いだったんすね!」

「ええ、まあ、ちょっとした縁で·····」

「でも、隣にいた女性は恋人でしょうか?随分距離が近い様子でしたけど」


そう言うと、ランサさんは顔を曇らせる。

確かに憧れの人がああいう感じの人と付き合ってたら少し嫌かもしれない。


ここはアルトさんの名誉のためにも否定しておこう。

「どうかな。なんか見てる様子だと接待っぽかったと思うけど。アルトさん、恋人いないって言ってたし彼女ではないと思うよ」

「そ、そうですよね。あの方はあまりエルセン様のタイプっぽくありませんもんね」

「そうだよ、ランサ!エルセン様はもっと清楚でおしとやかな方と付き合うはずだって」

ジュリーナ姫が聞いていたら殺されそうなことを話しながらも二人は嬉しそうに笑い合っている。

·····どれだけ姫様のことが嫌いなんだ。まあ、あの姿を見たら無理もないかもしれないけど。




思ったよりもクセが強い、トラブルメーカーっぽいジュリーナ姫のことを思って私は大きな溜息をついた。












次回は他目線だと思います、多分。


お読み下さりありがとうございました!

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