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23 花咲き娘、本を受け取る


「その能力が現れたのはいつからなの?」

王弟殿下からの問いかけに私はどう答えるべきか迷う。

·····多分、私がローズ家の長女だったって知ってるよね。何度か顔合わせしたことあるし。

そう結論づけて、「勘当される少し前程から」と答えれば、王弟殿下は「ああ」と納得したように頷いた。

その様子を見るに、やはり私の事情等は全て筒抜けなのだろう。

ローズ家に私の話が伝わっているのかが微妙なところだが·····。



「それは大変だったね」


そんなことを考えていると、労わるように、王弟殿下が私の頭を撫でた。

驚くとともに、少しムッとしてしまう。

だってこれじゃあ、完全に子供扱いだ。



·····でも、ほんの少しだけ嬉しかった。

勘当されてから何が正しいのか自分でも分からないまま突っ走ってきたのに、次は意味もわからないまま変な能力を手に入れて聖女だと言われて。

誰が味方なのかも分からない状況で、素朴な優しさほど心に沁みるものは無かった。

「勘当されてからは平民として生きていたんだろう?」

撫でる手を止めずにそう聞かれたので、私は「はい」と答える。

「良い方が私を食堂で雇ってくださって。幸運でした」

「そうか。慣れない環境でよく頑張ったね」


この人は殿下で、私は変な力を持ってるとはいえ一般市民だ。

だからこんなことを思っては無礼だとは分かってはいるけど、優しい手つきで頭を撫でられて『まるでお父さんみたいだな』なんて思った。実の父から撫でられたことなんて一度もないけれど、何故かそう思った。



私も王弟殿下も何も言わないまま暫く、そうしていた。


「あ、そう言えば王弟殿下は何故ここに?」

資料室に研究資料でも探しに来たのなら邪魔しては悪い、と名残惜しさを感じながらもそう問いかければ、王弟殿下は柔らかく微笑んだ。

「そうだった。私の本来の目的を忘れるところだったよ。私はね、あなたに渡したいものがあったんだ」

予想外の答えに王弟殿下を見れば、彼は「少しここで待っていて」と言い残して奥の方へ行ってしまった。


一人残された私は首を傾げる。

王弟殿下が私に渡したいものってなんだ?


今はこうして一対一で話しているが、実は私と王弟殿下はそんなに交流はない。

社交界でも多少、話すことはあってもこうして二人で話し込んだり、ましてや頭を撫でられることなんて今まで無かった。

だからこそ、王弟殿下が私に何を渡したいのか、想像も出来なかった。


そうして王弟殿下が私に渡したいものをしばらく考えていると、彼が戻ってきた。

その手には一冊の本があった。

見た目はかなり古く、分厚い。


何かの歴史書か?と本の中身を想像していると王弟殿下は「はい」と私にその本を手渡した。

「·····え?」

「私が君に渡したかったものだよ」

戸惑う私に王弟殿下が微笑む。


こんな本、見たことも聞いたこともない。それなのにどうしてこれを私に?


不思議に思いながら本を受け取ると、王弟殿下は少しだけ眉尻をさげて困ったような、悲しんでいるような顔をした。

「これはね、前任の聖女が次の聖女が現れたら渡してくれ、と私たちに託した本なんだ」

「私の前の聖女が·····?」

その言葉に手に持つ本の重みが一気に増した気がした。


「そう。一度、好奇心で本の中身を見ようとしたことがあったんだけど中身は聖女以外は読めないようになっているのか、表紙をめくろうとしてもビクともしなかった」

心底残念そうにため息をつく王弟殿下の姿はまさに知的好奇心の塊という言葉が相応しい。

私はそんな王弟殿下を横目で見ながらもう一度本に目を向けた。


表紙に手をかける。

王弟殿下の言っていたような感覚はなく、普通の本にしか見えない。それに多分私が手を動かせばこのまま表紙を捲れる。

そんな様子を見ていた王弟殿下が「やっぱり」と呟いた。

「聖女にしか読めない仕様になってるんだね」


そういう王弟殿下は興味津々と言った感じで本を見ている。

横から強い視線を感じながら私は怖々と表紙を捲った。





直後。

物凄い勢いで音を立てながら勝手にページが捲られてゆく。

「え、え、なに?!」


ひとりでに動く本に驚いて一歩後ずさった瞬間、あたりが白い光に包まれ始めた。


あ。この感覚、女の子の怪我が治った時と同じだ·····。


そう思うと同時、視界が完全な真白に染まった。


















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