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21 花咲き娘、目標を決める


「良い返事をありがとう。ああ、さっそくだけど来週頃に一つ頼みたいことがあるんだ」


憎たらしく笑う国王を見て私の折れかけていた心が少しだけ対抗心を燃やし出す。


このまま大人しく思い通りにさせてたまるか。


「·····国王様、一つだけ条件があります」

なけなしの勇気を振り絞ってだした声に国王は眉をしかめた。

「なんだ?」

「この能力は私自身まだわかっていないことが多く、コントロールもできません。ですから、私にしばしの猶予を。出来れば、聖女についての資料も見られるよう手配してくださると嬉しいです」

この際、もう図々しいと思われても良い。


睨みつけるようにして返事を待っていると国王は「わかった」と頷いた。


「·····しかし、貴女のこれからの生活範囲はこの城内のみだ。くれぐれも逃げようなんて思わないように」


行動も完璧に制限する気らしい。だが、それも予想内だ。

私が了承すると、場の雰囲気が少しだけ緩んだ。


隣にいるアルトさんのことは、見られなかった。





◇◆◇




どうやら、城内に私の部屋はもう用意されているらしく謁見の間から出た後、直ぐに部屋に案内された。

アルトさんとは結局、話すことなく別れた。


「それでは失礼致します」


これからの過ごし方をある程度説明すると、ここまで案内してくれた人は外に行ってしまった。

部屋には私一人になる。


あの人の説明を聞くには、この部屋は歴代の聖女が利用していた部屋らしい。

つまり、この国ではずっと前から聖女を見つけてはこうして保護という名目で国に協力させていたらしい。

今まで知らずに生きていた国の事情をどう自分の中で整理すれば良いのか分からない。



これから、どうしようか。


扉に背を向け、しゃがみこむ。

部屋は綺麗で豪華だ。生活の補助も惜しまないと言っていた。

新しい聖女に関する資料を貰えば私のこの能力の謎もある程度は分かるかもしれない。


·····でも。




一人ぼっちの部屋で、ため息をつく。


ミャーシャさんとミストさんにはなんて伝えられるんだろう。


二人の顔を思い浮かべて、そして、次に一人の男の顔が思い浮かんできた。






·····ああ、私はきっと裏切られたんだろうな。


いつもいつも何を考えているのか分からない笑みを浮かべて私を揶揄うあの男。


ちょっとは、気を許してくれてるんだと思っていた。

最初よりは、近づけてるんだと思ってた。


「でも、全部私の勘違いだったのか」



声に出して改めて今までの出来事が身に迫って理解できた。

そしてプツリ、と突然張りつめていた何かが切れた。



その途端に堰を切ったように涙が零れる。





悔しかった。

結局あの時と何も変われていない自分が。


ショックだった。

あの暖かい時間が嘘だったのかと思うと。



虚しくて、虚しくて、どうしようもなく寂しい。

心に穴がぽっかりと空いたみたい、なんて表現がよくあるけど、本当にその通りで。

じくじくと痛む胸には穴でも空いたかのような喪失感がある。









―――好き、だったのになぁ。



部屋でひとり、泣きじゃくりながら零れた言葉は酷く頼りなさげだった。


初めて明確に言葉にしたことで、ただでさえ苦しい胸がきゅううと締め付けられる。


これが恋なのか、親愛なのか、友情なのか、それは分からないけれど、私は確かにアルトさんのことが好きだった。


最初は本当に苦手だと思っていたし、周りの視線が気になって一緒に出かけるのも気が進まなかった。


でも、私の過去に触れてこないところとか、さり気ない気遣いだとか、ふとした時の優しい目とか、ミャーシャさん達のことを心から大切にしてる所とか。



そんな所を見ていて、好きにならないわけが無い。



「·····っ」


歯を食いしばっても、息が漏れる。


信じてた。

信じたかった。



私も少しはあの場所の一員に近づけたかな、って思ってた。



胸が痛みを増して、苦しい。



それなのに、どうして私はアルトさんを未だに恨めないのだろう。

まだ、好きだという気持ちが変わらないのだろう。

嫌いになれたら、楽なのに。

どうして嘘をついたの、って。

約束したのに、って。


責められたら楽なのに。




どうして、好きだと思ってしまうのだろう。




聞きたいことは沢山あるのに。

分からないことは沢山あるのに。


頭が働かなくて、ただ、ただ苦しくて。


私は泣き続けた。

夜が明けても泣き疲れて眠るまで、ずっと。








◇◆◇




翌朝。

部屋に置かれている鏡を見た。

パンッパンに顔が腫れていた。

すごく、すごくブサイクだった。


二回繰り返した所から大体の私の顔の状態を察して欲しい。


子供のように泣きながら寝たせいで、瞼は腫れ上がっているし、全体的に顔が歪んでいる。

あと、顔にある涙の痕が色々な意味でちょっと痛々しい。


「顔、洗うか」


数秒、鏡の前で絶句した後に一人呟くと、私は洗顔をする。

ひんやりとした水が肌に触れて、まだ少し火照っている顔が冷めてゆく。目も覚めてきて、状況を理解する力も湧いてきた。


散々泣いたからか、昨日よりは頭もすっきりとしている。


·····まず、何を最優先するべきか。


ベッドの上でむくみを取るマッサージをしながら、考える。


呑気だなんて思わないで欲しい。

こんな時こそ、平常心が大切なのだ。

うん。決して顔面のあまりの酷さに愕然として何とかしようとしてるとか、そういう訳じゃない。うん。



·····まあ、とりあえずは聖女に関する資料を見てみるか。

あの人の話だと、城内の資料保管室は自由に見ていいって言う話だったし。



昨日のやり取りを思い出しながら私は今日の行き先を決める。



こんな時、お祖母様だったらきっと頑張れって励ましてくださるはずだ。

だからめげずに頑張って、自分の能力のことをしっかりと理解して、それで·····。




それで勇気が出たら、頑張ってもう一度アルトさんと話してみよう。


何を思っていたのか、何があったのか、どうしたいのか。



もう一度、ちゃんと話そう。




ひとつ、大きな目標を決めた私は自分の頬を勢いよく叩いた。


まずは、資料保管室!!




今度こそ、しっかりと自分で選択できるように。

私にめげてる時間はない。


























お読みいただきありがとうございました!

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