妻の年賀状
すみませんが、先に「母の年賀状(N5028LK)」をお読みください。
猫ちゃんと過ごしたことがないので描写が変だったらすみません。
夜プリンターから何枚もの年賀状が吐き出される。
今どきのプリンターはとても静かなので擬音語で表現すると、シュゥーンぐらいだろうか。
カラーになるともう少し頑張っているような気がする。
年々、年賀状の枚数が減っていく。出社するよりもテレワークの方が多い私は、年賀状の新規追加という項目が増えていない。
妻には「あなたももうすぐ定年なんだから、会社以外の人とか昔の友達とかに連絡して遊んだ方がいいわよ~」と言われることがある。
分かっているが、実に面倒だ。妻が一緒に釣りに行ってくれるだけでいいと思うが
「あ~、私はそういうの無理」と言って一緒に遊んでくれない。
釣り動画を家族で見ている時は「楽しそうね」って言ってるじゃないか。
一人でつまらないことを色々考えているとすぐに印刷が終わった。
今どきのプリンターはモノクロだと本当に早い。電気屋に部品の供給が危ういと言われて少しお高めの物を購入したがかえって良かったと思っている。
妻の年賀状は宛名だけ頼まれているので、声をかけすぐに渡した。
台所で明日の仕込みをしていたらしい。
「真由ちゃん、年賀状できたからここに置いとくよ」
私の声に気付いた妻がパタパタとスリッパの音をたてながらこちらにやってきた。
そして、宛名を確認したあと
「ありがと~。助かりました。」と言いながら机に置いた。
「そっちの裏面もまとめて印刷するけど?」
と確認したが
「いいのよ、自分で書くから。ほら、私って達筆でしょ?」
ウフフと言いながら再び台所へ戻っていった。
まあ、本人が良いなら…。と思い私は自分の年賀状の裏面のデザインを考えて印刷をした。
数日後、自分の年賀状の上に妻の年賀状をまとめるために乗せてトントンと隅を合わせていると
みゃぉ~ん
と猫のチャコちゃんがやってきた。私は時計を見るとちょうどおやつの時間だったのでチャコちゃんのおやつ入れからお気に入りのニュルとでるやつを取ってきた。
チャコちゃんは目ざとくそれを見つけ私の近くまでトテトテとやってくるとシュタッとダイニングテーブルに乗り上げた。
ん~、行儀があまり良くないな
と思いながらもそのおやつを開けてチャコちゃんを自分の膝の上に乗せてから口元に近づけた。チャコちゃんは匂いで確認をした後、ペロペロと舐めだした。
癒されるなぁ~と思いながら、その様子を見ているとすぐにおやつが無くなった。
「チャコちゃ~ん、おやつはなくなりまちたよ~」
私は誰もいないことを確認していたのでつい赤ちゃん言葉で話しかけてしまった。
しかし、チャコちゃんはしつこくそのおやつをペロペロ舐めようとするので
「もうおわりでちゅね~」といいながらゴミ箱にそれを捨てようとした時
チャコちゃんの目がキラリと光り、隙を見て私の手から中身の入っていないおやつの袋を奪われた。
私は少し焦った。その袋の角は少し鋭利になっているのでチャコちゃんのかわいいお口が切れるかもしれないとすぐに確認したが長方形の袋の真ん中をギュッと噛んでいるのでその危険性は無さそうだった。
しかし、奪った時の遠心力で少しだけ残っていたおやつがダイニングテーブルに飛び散ってしまった。これは後で机を拭かないと駄目だなと思いながらチャコちゃんを見ていると
おやつが無いという事をチャコちゃんも理解したらしくすぐに興味を無くしポイっと投げ捨てるとどこかへ行ってしまった。多分日当たりの良いところでお昼寝でもするのだろう。
私は仕方ないなと思いつつダイニングテーブルを拭いていると
「あっ・・・。」
さっき、机の上に置いていた年賀状の一番上のみおやつが飛び散っていたのだった。
おまけにチャコちゃんはそれを踏んだらしく足跡も綺麗に残っていた。
そして、それは私が宛名しか書いていない裏面は妻が書いた年賀状だったのだ。
「どうしよう・・・。」
妻は怒りはしないがもし相手が取引先だったらこの年賀状を送ることができない。
私は一人で悩んでいると娘と息子が二階から降りてきた。
ちょうどいいタイミングなので2人に相談してみようと思う。
ちゃんとチャコちゃんにも責任を取ってもらうためにお昼寝中に申し訳ないが連帯責任として探して抱き上げてからダイニングテーブルの椅子に座った。
しばらくすると妻が買い物にいくらしく、娘が「いってらっしゃーい」と声をかけていた。私も少し罪悪感があったので「ん」とだけ言っておいた。
娘は少し驚いていた。
子ども達に相談すると、気にしなくてよい。とのことだった。
チャコちゃんもそれ見たことかと言いたげに「にゃ~ん」と答えていた。
【追記】
結局取引先ではなさそうだったが息子は呆れていたし娘が少し悲しそうに私を見ていた。
一体何の年賀状だったんだろう。
最後までお読みいただきありがとうございました。




