6話 クラスメイト
本日、2話目の投稿になります。
宜しくお願いします。
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──孝太郎の記事はクラスメイト達の学校生活を一変させた。これまで平穏だった彼等は、周囲に疎まれながら生きて行く事になる。
そして、サッカー部のエースを務める中村誠之も、今までとは違う周囲の反応に驚きを隠せなかった。
「──中村……試合はどうだった?」
「全然組んで貰えないよ」
「そうだよな……どうしようか」
俺達はかなり困惑している。これまで週一で試合を組んでいた高校から一方的に関係を絶たれ、新しい練習試合相手も見つからない。
もちろん理由は分かっている……あの記事が原因だ。アレの所為でこれまでの学校生活は最悪な方に変わってしまった。毎日楽しかったのに、今は制服を着て外を出歩くのがすげぇ嫌だ。
学生証を見せる勇気がないから映画館も一般料金を支払っている。クラスの連れも他校の彼女に振られたと心底嘆いていた。テレビで冤罪の話題が出る度に視線を逸らしてしまうし、精神病という言葉を聞くと思わず耳を塞ぐ。
地獄のような毎日を過ごしている。
だけどあの記事は誇張しすぎだと思う。
確かに皆で無視はしていたけど、別にアレは虐めてた訳じゃない。
だって殴ったりはしてないし、コッチから怒鳴ったりもしていない。
一度だけ教室から出て行けと押した事はあるけど、それも怪我をさせた訳じゃない。それなのに悪意のある記事の所為で俺達は窮地に立たされている。
「そういえば……桐島は学校を辞めたんだってな」
「はぁ?マジかよ!?」
アイツは誰がどう見ても亮介にゾッコンだった。だから亮介を率先して傷付け始めた時はマジで驚いた……てっきり何がなんでも助けると思っていたのによ。
「罪悪感で辞めちまったのか?」
「……さぁ?──でも、今は他人を心配している場合じゃないよなぁ〜……同じバイトの可愛い子、俺とシフトが被る度に嫌な顔すんだよ……傷付くわマジで」
「……そうなのか」
最近は担任の先生も辞めちまうし、周囲がいろいろと変わり過ぎて不安になって来るぜ。
──俺は亮介について考えてみた。
亮介はとても面白くて良い奴だった。
アレくらいの男前は、だいたいスカしてる奴らが多いんだけど、亮介は全く鼻にかける事はなかった。
クラスの皆には気さくに話し掛けるし、独りの奴が居ればウザがられない程度に仲良くする。
そのくせ男女の線引きはしっかりしていて、女子相手だと適度な距離感を維持する。
女性を誑し込んだりしないから同性の好感度が高く、本当にクラスのムードメーカー的な存在だ。
何より亮介は相手の感情を読むのが得意な奴。
少しでも嫌そうにすれば話題を変えるし、面倒そうにしてれば無理に話し掛けたりもしない。
とにかく人の感情、場の空気を読む能力が誰よりもずば抜けて上手い男だった。
そんな奴だから暴行事件の時にガッカリする気持ちが大きかったんだろうな。
今は酷い事をしてしまったと反省している……だけど亮介はちっとも許してくれない。
……もう転校しちまったから……許されるのは難しいだろうな。
──────────
「──もう関わって来ないでね!」
「あ、おい!」
今日、近所で仲の良かった女子に絶縁された。
理由は俺と仲良くしているところを誰かに見られたくないとの事だった。
キッカケは間違いなく例の記事だろう。
俺はいろいろ誤解を解きたかったのに、此方の言い分を全く信じてくれなかった。少しくらいは俺の事を信じてくれても良いのによ。
それでも俺はまだ全然良い方だ。
先輩の中には記事の影響で推薦を取り消された人も居るらしい。とんだ災難だ……俺も来年が怖い。
「亮介のやつ……ここまでする事ないのにな」
「……おいやめろって」
クラスメイトの誰かがそんな事を言い出した。
賛同する者も居たけど、殆どが俺みたいに注意する。
だけど気持ちは解るよ。
亮介を守る為に一生懸命みんなで話し合いをして来たのに、それを仇で返されたと思っているんだろうよ。
本当に皆んな反省していたんだ。
だけど最後まで話を聞いて貰えなかったのは辛すぎる。今まで傷付けてしまった分これからは仲良くしたかったよ。
──その日の夕方、俺は気晴らしに、幼馴染の男友達の家へ遊びに向かった。
「……おい、もう会いに来んな!」
「……え?」
今度は幼馴染から縁を切られてしまった。
小学校からの付き合いなのに、家に行くなり人でなし呼ばわりされて扉を閉められる。
「な、なぁ!話だけでも聞いてくれ!」
……………
返事はなかった。
話さえも聞いてくれない。
話くらい聞いてくれても良いのにな。
だけど他の連中も同じ目に遭ってるらしい。
他校の生徒、友人、彼女との付き合いが絶たれてしまっている連中がほとんど。
それだけじゃない。
皆は学校と家を出るのが怖くて、外出しても高校がバレないように必死に隠している。
最近までは誇りに思っていた偏差値の高い学校も、今では知られるだけで蔑まれる重い十字架だ。
亮介の記事は、全く無関係の人間からすると信じられないレベルで胸糞の悪い話らしく、当事者の俺達に対する風当たりは猛烈だった。
「……はぁ」
俺は肩を落としながら自宅へと向かう。
──俺は次の日、朝練をサボって教室に居た。
何もする気が起きなかったんだ……自分の席に座って外の景色を眺めている。
仲の良かった近所の女の子と、幼馴染で親友だった奴に縁を切られたんだから……落ち込んでしまうよ。
「……ん?」
一人の女子が綺麗な布巾で亮介の机を拭いている。
あの子は確か弓川旭。凄く大人しい女の子だ。
俺は懸命に机を拭いている弓川に声を掛けた。
「なんでそんな事してんの?」
「あ、な、中村くん……」
男子が苦手なのか、凄くキョドっている。
そういえば弓川は亮介にクッキーを渡してたよな?
って事は好きだったんだろうな亮介が。
「いつも綺麗にされていると思っていたら、弓川が毎日拭いていたんだな」
「うん……いつ帰って来ても良いように……」
「そうか……」
もう亮介は転校している。
俺達になんて会いたくないだろうし、二度と帰ってくる事はない筈だ。それでもまた会いたいと思っているんだろうな……もちろん俺そうだけどさ。
「私ね……凄く酷いこと言っちゃったの」
「……俺もだ」
「亮介くんが好きだったから、女の子に暴行したのが許せなくて……」
「……そうだな」
「どうして信じなかったんだろう」
「…………」
「なんで話を聞かなかったんだろう」
「………ッ!?」
俺は弓川の言葉を聞いて、ここ数日の出来事を鮮明に思い出した。
『もう関わって来ないでね!』
信じて欲しいと思った。
『……おい、もう会いに来んな!』
話くらい聞いて欲しいと思った。
だから一方的に拒絶した二人を恨んでいた。
だけど……
これって……
俺達が亮介にして来た事と同じだよな……?
俺は無視されて、話を聞いて貰えなくてショックなのに、今まで亮介に対して同じ事をして来たのか?
クラスの全員で、しかもアイツの大切にしていた中里も一緒に蔑ろにして……
……ああ、これマジで最悪だわ。
「弓川、亮介の居場所わかるか?」
「ううん、分からないよ」
「……そっか」
………あー、もう一度亮介に謝りてぇな。
こんな状況にならないと気付かない馬鹿な俺だけど、機会があれば是非謝らせてくれよ。
今度は心の底から謝れる気がするんだ。
もう一度だけ……チャンスをくれよ……頼む。
──俺は亮介と仲良くなった日を思い出した。
『中村ッ!お前サッカー上手いんだって?』
『……まぁそうだけど?』
『Jリーグとか目指してる?』
『うん……まぁ……』
『中村って公園で練習とかしてるだろ?しかも結構遅い時間にさ』
『え?見てたのか?』
『おう!──そんだけ頑張ってんだから絶対にプロになれるよ。プロになったら焼肉奢ってよ!』
『急にたかるなっ!──まぁプロになったらな?』
『オーケー!!じゃあ焼肉の為に頑張ってくれ!マジで応援してるからな?』
『しつけーな!!──ははははっ!』
『はははッ──俺は山本亮介って言うんだ……これからも宜しくな』
数日ほど投稿を休みますが、次回の投稿開始からは完結まで毎日投稿して行きたいと思います。
無理に長引かせるつもりのない作品なので、1話1話を出来るだけ濃くして行きたいと思っております。
生徒会長やクラスメイトにも出番はありますが、これからは家族と桐島がメインとなりますので、是非、楽しみにして貰えると嬉しいです。
──そしてなんとッ!総合ポイントが40000を超えましたっ!!1ヶ月も経ってないのに……いや本当にビックリしております……ッ!
マニアックな小説なのでそこまで読まれない覚悟をしてましたが、前編のエピローグ以降は暖かい感想が次第に多くなり、ポイントも毎日たくさん貰えるようになりました。
ここまで応援してくれてありがとうございます!
出来るだけ早く完結まで書き切りますので、最後までお付き合い頂けると嬉しいです!




