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インフェルノでダンジョンなマスターは、今日もキョウとてセワしない。  作者: 之 貫紀
第2章 始まりの日々

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18/19

DAY 8 飛竜便

「すまん~~!!」


その日、屋台が跳ねて、日が暮れようとしている頃、すでに寿命が一蓮托生の二人に、俺はモンスター召喚の事を話して、土下座していた。


もしも利息が払えなかったら、死んでしまうのは今や自分だけではないのだ。

間違って使ってしまったとはいえ、あまりに軽率だった。


「だいじょーぶだよ、カモさん。今日も一杯売れたから」


シャロンが、パンパンと俺の背中を叩いて言った。


「サンドは12個。耳揚げが634本。ニモカラは275個販売された。なんと12,520RDの売り上げ」


コアが丁度良いとばかりに報告してきた。


「え? じゃあ……」

「36DPが消費されて、688DPが取得された。現在の合計は――」


視界のの左上に、いつもの数値が表示される。

--------

DP:1235 (debt:-10,000) RD:44,420

--------


「おお! すごい!」


「へへーん。どう、感動した?」


マイユが胸を反らせてそう言った。


「したした! もう大感動! 神様、マイユ様、シャロン様~」


俺は、へこへこと頭を下げる。いや、ホント助かったよ。これでなんとかひと安心だ。


稼いだお金は、毎晩、DPからラディールに戻していた。なんだか、ざくざくあるほうが、頑張った実感がわくだろうと、勝手に思っているからだ。


ただまあ、屋台の売り上げだけに、銅貨がものすごい数になっていて、すでに2500枚以上あるようだ。適宜上の通貨にするべきだったのかもしれないが……金貨1枚がぽつんとあるより、銅貨が1000枚ある方が、派手で楽しいよね? 邪魔だけど。


それも、結構貯まってるみたいだし、二人に給料も出せそうじゃないか?



「頼もう!」


そのとき店舗の方から呼びかけの声が聞こえてきた。誰か来たみたいだ。

日が落ちてからの来客というのは、この世界では珍しそうだが……


「はい! 少々お待ち下さい」


俺は、そう答えると、すばやく灯りを用意した。そうして、訝りながら、店頭へと出て行った。


そこには、小柄で筋肉質な男が、灯りを持って立っていた。どうやら魔道具というやつらしい。


「こちら、マイヤー商会で間違いないか?」

「そうですが、こんな時間にどのような御用で?」


そう尋ねると、男は懐から1通の手紙を取り出して言った。


「アネット=マイヤー殿から、ショータ殿宛に飛竜便が届いておる、確認されたし」


飛竜便?


『飛竜を使って、各都市間を結ぶ臨時の宅急便。高い』


おう。そんなものが……


俺はその手紙を受け取って、宛名を確認した。

あの性格からは信じられないくらい、細くて優雅な美しい筆跡で、俺の名前が書かれていた。


「ありがとうございました。受け取りが必要ですか?」

「こちらにサインを」


使者の男が差し出した羊皮紙の、言われた場所にサインした。男はそれを確認すると、すぐに一礼して帰っていった。


「しかし、こんな高額な手段まで使って、一体何を送ってきたんだ?」


裏返して封蝋を確認すると、なんとなく見覚えのある紋だった。


「この間、アネットがマスターに見せた封筒と同じ」

「この間……!!」


コアに言われて気がついた。そうだ、ベルファスト公爵家の封蝋だよ! なんだそりゃ?!

裏書きには、宛名と同じ筆跡で、アネット=マイヤーの署名があった。


「カモさん、どうしたの?」


シャロンが心配そうな顔で、こちらをのぞき込んでいる。


「いや、アネットさんから手紙が届いただけだから、心配しなくても大丈夫」

「こんなに遅く、飛竜便で手紙が届くんだから、そこは心配する所じゃない?」


マイユの言葉に、そりゃそうかと思い直した。

元の世界でも夜中の電話は、大抵が悪い知らせだ。代表的なのは訃報だろう。もっとも本人が署名してるんだから、アネットは無事なんだろうけど。


俺は慌てて封蝋を剥がすと、中の手紙を取り出した。

そこに書かれていた文章は、たった1行だった。


「明朝馬車を用意した。すぐに王都へ来られたし」


「いや、高額な手段まで使って手紙を届けたんだからさ。せめてちゃんと説明しようよ……」


アネットは、その飛びぬけた美貌と冒険者の実力に、ポイントを全振りしたために、残りの全てが残念と呼ばれるようになった女性に違いない。

用件がないから準備するものがあるかどうかも分からない。せめて王都の何処に行くのかくらいは書いておけよと言いたい。最悪、ベルファスト公爵家へお邪魔するしかないか。気は進まないが。


「へー、私たちもついて行って良いのかな?」

「え、お姉ちゃん。私たち王都に行けるの?」


なんだかシャロンが嬉しそうだ。

まあ、二人だけおいていくわけにも行かないし、ミルダスにはTMを1匹残しておけば充分だろう。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


翌朝、マイヤー家の南大通り側に、飾りの少ないシンプルな外見だが、品の良い4頭だての馬車が停車した。その馬車の御者席から降り立ったのは、背が高く目つきの鋭い痩せた男だった。


彼は、旅の準備をすませて店舗まで出てきた俺達に、慇懃な態度で挨拶した。


「このたび、皆様の王都までの御者をさせていただく、マーテルと申します」

「あ、ご丁寧にありがとうございます。三上翔太です。こっちのふたりが、マイユとシャロン。一緒に行っても大丈夫ですよね?」

「マイユ様とシャロン様……」


マーテルはふと何かを思い出すように目を細めたが、すぐに「もちろんですとも。ご一緒されるように伺っております」と答えた。

一緒に行っちゃダメといわれるかもと緊張していたふたりは、その言葉に目に見えて弛緩した。シャロンは嬉しそうに笑った。


ベイリーや、ウォーレンにも一言挨拶をしていきたかったが、時間がなかったので、手紙を届けて貰うようギルドに委託しておいた。

商業ギルドは、ギルド員の手紙を届けるサービスをしている。同じ街の中なら、小銀貨1枚で届けてくれるのだ。


「うわぁ、凄い!」


馬車の中は6人がゆったりと座れる広さがあった。

擬装用の中型の旅行用バッグ(倉庫にあった)をマーテルさんに預けると、俺はコアの入ったショルダーバッグを自分で抱えて、その馬車へと乗り込んだ。


外装の質素さと比べて、不釣り合いなほど座りごこちの良い座席がそこにあった。内部は、居心地の良さを重視して、工夫された空間の使い方が為されていた。

物怖じしないシャロンは単純に喜んでいたが、俺は心の中で顔を引きつらせていた。おそらく公爵家のお忍び用の馬車だろう。


馬車は驚くほど振動少なく走り出した。


TM0がプーンと耳元で音を立てて、馬車の窓から外へと出て行った。彼はこの家周辺を警戒する留守番だ。

TM1~9は、馬車の上に待機している。野良モンスター達がいれば、適宜攻撃(口吻で突き刺すんだろう)して、経験値を稼いで良しと言ってある。

少々遅れたところで、彼(彼女?)達が飛ぶスピードは、もはや最速の鳥ですら追いつきようがないスピードらしい。お互いに位置は認識できるらしいから、問題にならないだろう。


馬車はすぐに、ミルダスの西門を出て、王都への道を軽快に走っていく。

窓の外には、きれいに実った麦の畑が広がっていて、その上を黄金の波を立てながら風が渡っていた。


「きれいだねー」


シャロンがうっとりとしながら言った。マイユは何も言わないが、飽きもせずに窓の外を見ているところをみると、同じ気持ちなのだろう。

しばらく屋台でバタバタしてたし、休暇っぽいのも悪くない。向こうで何が待っているのかはしらないが。


「あしたの返済のメドも立ってるし、ちょっと休暇っぽいのも悪く……まて」


俺はそのとき、ある問題に気がついた。


「どうしたの?」


マイユが突然雰囲気の変わった俺をみて不思議そうに聞いてきた。


「王都だと?」


こいつはインシデントだ。しかも重大な。

王都までは、()()()()()()()だとか言ってなかったか?


「じゅ、11日後の返済って、どうすりゃいいんだっ?!」


DP:1235 (debt:-10,000) RD:44,420

金貨 3, 銀貨 13, 小銀貨 13, 銅貨 12 旅行用に調整した


以上で第2章は終了です。


「第3章 王都への道のり」のスタートは1週間ほど先になる予定です。

お楽しみに。

果たして11日後のDP返済は? お楽しみに。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼの [気になる点] どうなるのかしら(*´д`*)ハァハァ [一言] 「第3章 王都への道のり」のスタートは1週間ほど先になる予定です。 お楽しみに。 果たして11日後のDP返済…
[一言] >「じゅ、11日後の返済って、どうすりゃいいんだっ?!」 ここはマーテルさんとダンジョン版「叩いてかぶってジャンケンポン」でもやるしかないかなあ ルールはダンジョンを創ってその外に線を引…
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