31.冒険者になって
わたしのギルドカードは、もう出来上がっていた。
が、わたしはまだ、カード代銀貨3枚を稼いでいない。
本当は今日、残り2枚分の獲物を仕留めるつもりだったのだが、襲撃犯のせいで狩りをすることができなかったのだ。
……かえすがえすも恨めしい。あのロリコンサディスト王子め。
あいつが余計なことしやがったせいで、わたしのギルドカードが!
歯噛みするわたしに気づき、ナーシルが不思議そうに言った。
「エリカ様? どうかされましたか?」
「あ、いえ何でも。……ナーシル様、報告は無事、お済みになりましたの?」
「ええ」
ナーシルは優しく笑い、それから重そうな革袋をわたしに差し出した。
「エリカ様、これをどうぞ」
「これは……?」
「あの魔術師は、どうやらお尋ね者だったようです。南方で詐欺や傷害事件を起こし、行方をくらましていた為、ギルドに賞金をかけられていました」
と、言うことは。
「これは、その賞金……?」
「はい」
「ちなみに金額は……」
「金貨20枚です」
金貨20枚!?
わたしは驚き、手渡された革袋を見た。
え、えと、銀貨10枚で金貨1枚分になるから、ギルドカード66枚作ってもおつりが来る!
いやギルドカードは1枚でいいんだけど!
やった! ……と喜んだすぐ後、何とも言えない気持ちになった。
これ、人間一人を殺した金額なんだな……。
立場を変えて考えてみると、もしナーシルが殺されてたら、あの魔術師達が、ジグモンド王子から報酬をもらっていただろう。
わたしと魔術師は、立ち位置が違うだけで、やってる事は一緒なんだ。
大義や信条なんて、関係ない。
力や頭がより優れた方が、生き残る。冒険者になるとは、そういう事なんだ。
まあ、冒険者にも、賞金首専門、採取系、護衛といろいろあるから、一概には言えないだろうけど。
とりあえず、
「じゃあ、このお金は、半分いただきますわ」
わたしは、にっこり笑って言った。
「だってわたし達、二人で殺したんですもの!」
「エリカ様」
ナーシルは目をみはり、そして苦笑した。
いや、お金の問題は、夫婦でもきちんとしとかないとね。
きゃー、夫婦だって! やだもー!
照れるわたしの後ろで、兄が「え、二人で殺した!?」と驚いているが、見なかったことにして受付へ直行。
「ギルドカードをください!」
意気揚々と金貨を出し、おつりと共にギルドカードを受け取る。
わたしは念のため、残りの金貨もすべて、ギルドに預けることにした。
えーと、そこそこ設備の整った宿に一泊するには、たしか銀貨5枚程度が必要なはず。
ということは、この残りの金貨9枚あれば、半月以上、宿に泊まれる計算になる。
おお、予想より、ずっとわたしの冒険者生活、順調そう!
ロリコンサディスト逆恨み王子なんて、その存在に何の意味が?と思ってたけど、いやいや、とんでもない!
王子の逆恨みは、めぐりめぐって、わたしの新生活応援資金へと変化した。
なんだって王子が賞金首なんかと繋がってたのかって疑問は残るけど、おかげで一気に懐が温かくなったわけだし、気にしない!
喜ぶわたしの横で、レオンが満足そうに頷いていた。
「やはり、リリー殿は冒険者に向いている。きっとすぐ、その名を大陸中に轟かせることになるだろう」
えー、そうかな、そうかな?
今回、賞金をもらえたのは、ナーシルが助けてくれたおかげ9割、実力1割って感じなんだけど。
まあ、これからだよね! わたしは今日、ギルドカードをもらったばかりの、冒険者なりたて状態なわけだし! がんばるぞ、うん!
気合を入れるわたしの後ろで、兄が複雑そうな表情でつぶやいた。
「エリカが、冒険者に……」
あー、ごめん、兄上。
妹が平民に身分を落とし、しかも冒険者になるなんて、想像もしてなかっただろうな。
父上は、冒険者としてのわたしに投資してくれたし、何がしかの利用価値を見出しているんだろうけど、兄はそうではなさそうだ。
わたしは、慰めるように兄の肩をぽんぽん叩いて言った。
「兄上。わたし、きっと将来、兄上の政敵を暗殺できるほど、優れた冒険者になってみせます!」
「ならんでいい!」
兄がぎょっとしたように言った。
はは、冗談、冗談ですよ。
まあ、本気で兄が悩むほどの政敵なら……、うん、要相談ということで。




