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オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
混沌の新環境編――神逆のメタ・ゲーム

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第93話 プロゲーマーはゲームを変える


動画タイトル:【プロチーム考案! 新スタイル《地形忍者》で《トート・ウィザード》を狩りまくってみた】


(プラムのアバターが動画の中央に映る)

(背景はマッチング・ルーム)


『――えぁーっと、皆さんこんにちは。プラムと申します。突然ですけど、新環境楽しんでますか? 最強だった《セルフバフ》がいなくなって、ランクマッチにもいろんなスタイルが――いろんな――』


(《ハイ・ウィザード》のアイコンが大きく表示される)


『――はい、こいつですね! こいつばっかりです! 燃費がいいくせに馬鹿げた火力! わけのわからない頻度で決まるACコン! めちゃくちゃ強いくせにめちゃくちゃ使いやすく、現在ランクマッチで大流行しております。メタろうと思っても、結局は《トート・ウィザード》を使って《トート・ウィザード》をメタるのが一番いい、と言われているくらいでして、今は10回潜ったら9回はこいつに当たるという有様です』


(カメラがマッチング・ルーム内のプラムに戻る)


『皆さん……《トート・ウィザード》、倒したいですよね?』


(不敵に笑うプラム)


『《トート・ウィザード》だらけのこの環境、逆に言えば《トート・ウィザード》さえ倒せればボーナスゲームなわけです。Sランク以下の方は簡単にゴッズランクまで行けますし、ゴッズランクの方は一桁順位だって夢ではありません。――というわけで、こちらをご覧ください』


(背後に手を向けるプラム)

(カメラが少し上に向く)

(天井近くのランク表示が映り込む)


『ご覧の通り――現在、あたしのランクはゴッズランク8位です。

 ですが、使用したスタイルは、《トート・ウィザード》ではありません』


(いたずらっぽくくすっと笑うプラム)


『実はあたし、僭越ながら《ExPlayerS》というプロチームに所属させてもらっておりまして、今回は、そのチームメンバーと一緒に開発したスタイルを披露したいと思います――名付けて《地形忍者》です!』


(どろんっと煙幕のエフェクトが起こり、一瞬にしてプラムの姿がくノ一に変わる)


『この順位は、《地形忍者》で3時間ほどランクマッチに潜った結果です――その試合をね、いくつかピックアップしてお見せしたいと思います。詳しいスタイル内容は動画の最後で!』


(ビッ、とプラムがカメラを指差す)


『この動画を見終えたとき、あなたはきっとこう言うでしょう――「汚いなさすが忍者きたない」!』




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「あわわわわわわわ……」


 プラムがヨッシーみたいな慌て方をしていた。

 場所は例によってノース・アリーナの対戦室だ。

 ソファーに座ったプラムが顔面蒼白になって見ているのは、一枚のホロウインドウ。

 動画投稿サイトのアプリだった。


「……ご、ごじゅーまんさいせー……」


「バズったなあ」


「バズったのだわ」


 同じくソファーに腰掛けたオレとニゲラがのんきに言う。

 動画を投稿して、まだ三日目のことだった。

 オレたち開発の新スタイル《地形忍者》のお披露目動画は、超大手Youtuberのそれにも劣らない再生数を記録していた。

 当然ながら、今もまだ伸び続けている。

 このまま行けば100万再生は余裕で超えるだろう。


「なっ、なんでそんなにのんきなんですかあっ! 50万ですよっ!? 50万っ!! 50万回も、あたしのっ……!」


「見られてるな、エロいくノ一コスが」

「見られてるわね、エロいくノ一コスが」


「コスじゃないですよおおーっ!! 二人があの格好しろって言ったんじゃないですかああああっ!!」


 別にくノ一の格好じゃなくても《忍者》クラスは使えるが、わかりやすさというのは大事なことだ。

 動画サムネにデカ文字だけ書くのとくノ一美少女も映っているのとでは集客力が違う。


 プラムは蒼白にしていた顔を今度は真っ赤にして、自らの膝の間に顔を伏せた。


「ううう~っ……! どうするんですかこれぇ……! あたしのアバター、リアル準拠なのにぃぃぃ……!! 学校でバレちゃうぅぅ……っ!!」


「大丈夫だろ。リアル準拠って言っても実際よく見たら結構違うもんだし。バレないバレない」


「ほんとですかぁ……?」


「オレはミナハに一発でバレたけどな」


「ダメじゃないですかあっ!!」


 プラムはがばっと顔を上げた。

 うわあ、涙目だ。


「ま、まあまあ、んな落ち込むことないだろ? 今となっちゃお前もプロなんだから、名が売れるのはいいことじゃねーか」


「そうですけどぉ……でも、あたしなんかが……」


「自信持てよ。可愛いんだから」


「かわっ……!? えっ、誰がですか!?」


「は? いや、お前が」


「……あ、あはは。さすが彼女持ち。お世辞がうま――」


「いや、プラムは可愛いほうだろ。なあニゲラ?」


「ちょっと。アタシをアンタの浮気に巻き込まないでくれるかしら?」


「かわっ。かわいっ。かわわわわわわ…………」


 またヨッシーみたいになるプラム。

 配信であれだけアイドル扱いされてるくせに、まだ自己評価低かったのか、こいつ。


 ニゲラが「ふん」と高飛車に鼻を鳴らして、動画サイトのウインドウを開く。


「まあ、このスケコマシの評価はともかくとして」


「誰がスケコマシだ。こんな一途な男を捕まえて」


「ともかくとして、客観的にも好評よ? アンタのくノ一姿。コメント見たら一目瞭然」


「えっ?」


「『かわいい』『萌える』『尊い』――」


「えっ、えっ。そんな……」


「――チッ。ネット回線介したらセクハラが免除されるとでも思ってるのかしらこいつら」


「ちょっと待ってくださいいきなり怖くなりました!!」


 ……ああ……。

『ネットでアイドルみたいなことやってる女にはセクハラ発言してもいい』って思ってそうな言動の奴、いるよな……。


「まあいいじゃない。アンタがピッチピチの全身タイツみたいな格好をしてくれたおかげで、思った以上の効果が上がったんだから。アタシなら舌噛んで死ぬけど」


「よくないじゃないですかぁ!! うわあーん! もうお嫁に行けないぃーっ!!」


 いつものようにソファーの端でカードを触っていたシル先輩に泣きついて、よしよしと頭を撫でられるプラム。

 そんな彼女――いろんな意味で今回最大の功労者をよそに、オレとニゲラは正面の大モニターを見た。


 16分割された画面に、ランクマッチの試合がランダム再生されている。

 3日前と比べて、その内容は様変わりしていた。

 9割ほどを占めていた《トート・ウィザード》は、今や往時の半分にまで減っている。

 代わりに増えているのが、小太刀を携えた軽装の戦士――《忍者》クラスだ。


《忍者》。

 MAOの戦闘職は基本的に、《ウォーリア系》《ウィザード系》《プリースト系》の三つに大別されるのだが、《忍者》はそのうち《ウィザード寄りのウォーリア系》に属する。

《剣士》とか《槍兵》みたいな純正ウォーリア系に比べると魔法を使うのがちょっと得意、という立ち位置のクラスである。


 クラスの特徴としては、まず忍者らしくAGIとDEXに大きい補正が入る。

 代わりにVIT、MDFといった耐久面が下がり、STRとMATの攻撃面が微上昇。

 その他、《クナイ》や《手裏剣》等の『所持数無限の投擲武器』が使用できたり、クラス専用の魔法を覚えられたりする。


 このうち、オレたちが《トート・ウィザード》対策としてこのクラスに白羽の矢を立てた理由は、AGI補正と専用魔法にあった。


「さてと。……そんじゃ、オレも順位上げてくるか」


 オレはソファーから立ち上がる。

 プラムと共に、オレも一時は一桁近くまで順位を上げたんだが、動画を見て《トート・ウィザード》狩りをした連中に追い抜かれたせいで、今や100位近くまで下がってしまっている。

 今月の目標は50位以内。

 まだしも《トート・ウィザード》が生き残っている今のうちに、もう少し上げておかないとな。


「あ、気をつけてくださいね、ジンケさん! 今はもう《地形忍者》ミラーがかなり増えてますから!」


「望むところだろ」


 オレはマッチング・ルームに足を向ける。


「――これからのMAOは、この戦法がベースになるんだからな」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 マッチングが終わり、闘技場へと転送される。

 真っ平らな土の地面が広がる円形のステージに、一人の対戦相手が佇んでいる。

 手に杖があった。

《トート・ウィザード》だ。


 対戦相手の男が、オレの姿を見て顔をしかめた。

 オレは腰に《クナイ》と《小太刀》を提げている。

 それは《地形忍者》に特有の装備だった。


 第1ラウンドのカウントダウンが始まる。

 だがオレは、メインウエポンである《小太刀》をまだ抜かない。

 武器を抜く前にやるべきことがあるからだ。

 3、2、1――空中に大きく表示される炎の数字がカウントを刻み、


【FIGHT!】


 の文字が燃え上がった瞬間、オレは素早く両手を組んだ。

 手話のように特定の形を高速で作っていく。

 これは《印》。

《忍者》クラスの専用魔法――すなわち《忍法》を使用するのに必要な、専用ジェスチャー・ショートカットである。


 対戦相手が杖をこっちに向けるのと、オレが印を結び終えるのとは、ほぼ同時だった。

 対戦相手が叫ぶ。


 ――《ファラミラ》!


 ランクマッチの仕様上、声は聞こえないが、口の動きと杖から迸った火球とが正体を証明した。

 火傷では済まない威力を秘めた火の玉が、猛然とオレに迫る。

 その前に、オレの忍法が発動した。


 ――《忍法・土遁の術》。


 足元の地面に、バキッと亀裂が走る。

 かと思うと、地面が波のように盛り上がって、あっという間に小山になった。


《忍法・土遁の術》は、《ジクバーナ》という魔法が《忍者》クラスになったことで変化したもので、本来は地面の隆起によって相手にダメージを与える魔法である。

 しかし、《地形忍者》はこの忍術を攻撃目的に使用しない。

 その役割は、壁だ。

 敵の魔法攻撃を防ぎ、視線を断ち切って身を忍ばせる――

《忍者》にとって有利な環境を、地形の改造によって形成するのだ。


 ほとんどの魔法は直線にしか飛ばない。

 その弱点は、いかに強力な火力を持っていたとしても変わることがない。

 ウィザードは、敵との間に遮蔽物があった場合、狙える位置に移動しなければならないのだ。


 しかし、《ハイ・ウィザード》のAGIは知れたものだった。

 のたのたと、しかも位置のわからない相手を探してむやみに移動しなければならない。

 それは自殺行為に等しい。

《忍者》側はその間に死角から距離を詰めて、優秀なDEXによる一撃必殺のクリティカルをぶち込めばいいからだ。

 結果として、《トート・ウィザード》側の選択肢は絞られる。


 ヴァチャッ、と大きな水音がした。

 小山の向こうで、勢いよく間欠泉が迸る。

 それは上空で巨大な水の球になったかと思うと、花火のように弾けて野放図に撒き散った。

 水属性範囲攻撃魔法《ウォルドーラ》。

 暴力的な波濤が、オレの作った小山を飲み込むような形で迫ってくる。


 しかし、この時点でこっちの思う壺だ。

 燃費のいい中級魔法をメインとするからこそ、《トート・ウィザード》の速攻戦術は強力だった。

 なのに、姿を消したオレをいぶり出すために、ただそれだけのために、燃費の悪い上級魔法の使用を余儀なくされてしまった。


 これはまだ第1ラウンドだ。

 すなわち、最大MPの半分しかMPを持っていない状態。

 いくらか追加でMPをもらえている第2ラウンド以降ならいざ知らず、初っ端からこんな大技を、しかも相手の居場所を探すためだけに使っていたら――


 ――当然、相手のHPより先に自分のMPが尽きる。


 MPを枯らした《トート・ウィザード》なんて、ただの貧弱なもやし野郎だった。

 物陰から一気に距離を詰めて小太刀で首を裂き、オレは危なげなくその試合を勝利で飾った。


 ――地形を変化させ、自分に有利な状況を作り、勝利が勝手に転がり込んでくるよう試合を支配する。

 これが《トート・ウィザード》に対抗するため、オレたちがMAOというゲームに追加した新しい考え方。


 有利な地形を作ったほうが勝つ。

 名付けて、《地形アドバンテージ理論》である。


 これをいの一番に発表した形となったプラムは、MAOの歴史に名を残すことになるだろう。

 これより、MAOというゲームは、《地形忍者》以前とはまったくの別ゲーと化す。


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