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オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
混沌の新環境編――神逆のメタ・ゲーム

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第92話 プロゲーマーは天啓を得る


「デジタル・アナログに関わらず、TCG界隈で専ら話題になるのは、『環境のバランス』」


 アリーナの対戦室。

 現在進行形で行われているランクマッチを分割画面で表示した大モニターを背後にして、EPSデジタルカードゲーム部門所属、シル先輩のメタゲーム講義が始まった。


 ソファーに座ったオレ、プラム、ニゲラに向けて、シル先輩は静かな声で滔々と語る。


「特出して強い戦術があるかどうか。他の戦術でその戦術に対抗できるかどうか。カードゲーマーは大体、年中そういう話をして、そして大体、強すぎるデッキとかカードとかに文句を言っている、どうしようもないクレーマー集団」


「おう、いきなり広範囲に喧嘩を売ったなシル先輩」


「というか、それ、あたしたちも似たようなものですし……」


「どこのゲームも多かれ少なかれそんな感じよね。今のアタシたちがまさにそうだし」


《五闘神》の一人、ドクター・ソルによって大流行したスタイル、《トート・ウィザード》。

 中級攻撃魔法の嵐によって相手のHPを消し飛ばすこのスタイルを根絶やしにしてくれようと、今、オレたちは話し合っているのだ。


「TCGというジャンルは、ゲームの中でもとりわけ、『対戦環境』という概念に多くのノウハウを持っている」


 シル先輩は表情を変えずに続けた。


「『メタ・ゲーム』という言葉も、そもそも『マジック:ザ・ギャザリング』から生まれたものだし……」


「MtGか。TCGの始祖だっけ?」


「うん。……それで、これはMtGのデザイナーがどこかで言っていたことなんだけど……『バランスのいい対戦環境』って、具体的にどんな状態を指すと、思う?」


「えーっと……たくさんのスタイルが使える状態、ですかね?」


 プラムが小首を傾げながら言った。

 オレは考えつつ、


「ちょっと言葉が足りねーな。例えば《セルフバフ》系統のスタイルが環境に4種類くらいあったとしても、それは良環境だとは言えねーだろ」


「そうね。要するに多様性があるかどうかなのだわ。戦術の多様性。コンセプトの多様性。近接戦で相手を圧倒するスタイルも、魔法でHPをゴリゴリ削るスタイルも、罠やデバフなんかの間接手段で有利を取るスタイルも――プレイヤーのやりたいことが平等にできる状態」


「うん。そういう、特定の戦術じゃない、大きな枠組みでの戦略、コンセプトのことを、TCGでは『アーキタイプ』って呼ぶ――そして、『バランスのいい対戦環境』っていうのは、3種類または4種類のアーキタイプが環境に存在して、3すくみあるいは4すくみになってる状態のこと」


「グー、チョキ、パーみたいに?」


「それ。実際、多くのプレイヤーが『神環境』って呼ぶ対戦環境は、ほとんどジャンケンと似たような感じになったりする……最強戦術がたくさんあると、どれかひとつに絞って対策できなくなるから」


 なるほど。言われてみればそうだ。

 むしろ今のMAOみたいな一強環境のほうが、対策も簡単で勝ちを重ねやすい。

 一方、いくつもの戦術が群雄割拠するいわゆる『神環境』では、まさにジャンケンのように、戦術選択で有利が取れるかどうかは運否天賦になる。

 難しいもんだなあ。


「TCG――MtG型のTCGにおけるグー、チョキ、パーは、場合にもよるけど、大きく分けて4種類あるってことになってる」


「4種類?」


「アグロ、ミッドレンジ、コンボまたはランプ、そしてコントロールの4つ。それぞれの詳しい説明は割愛するけど……」


 そこでシル先輩は背中を向け、ランクマッチがランダム再生された大モニターを見上げた。


「この《トート・ウィザード》っていうのは、話を聞いてる感じ、アグロ――速攻戦術に該当する……と思う。……合ってる?」


 ちらりと確認を取るような一瞥が来たので、オレたちは揃ってうなずいた。


「アグロ戦術は、4すくみの関係上で言うと、一応、ミッドレンジ――中速戦術に弱いっていうことになってる」


「中速戦術……って、要は普通に戦って普通に勝つ戦術ってことだよな?」


「うん」


「速攻戦術には普通に戦えば勝てるってことですか?」


「そう。アグロは数と速さで圧倒する戦術。だから行動ひとつひとつの強さは平均以下で、息切れもしやすい。普通に一つずつ落ち着いて対処していけば、自然と勝てる。持ち駒の強さでそもそも勝ってるから――将棋で例えると、最初から香車を10枚くらい持ってたら、速攻で敵陣に攻め込めるけど、それを凌ぎきられたら、飛車も角も持ってないから負けちゃう、みたいな」


「まあ将棋は詳しくねーけど、言わんとすることはわかる」


 ……数と速さ。

 まさに《トート・ウィザード》はそういうスタイルだ。

 下手な鉄砲数打ちゃ当たるとばかりに魔法を連打してきて、そのままごり押しで勝つ。


「もちろん、これはあくまでTCGの話だし、アグロ側が飛び抜けて速いと、対処しきれなくなっちゃうけど……」


 と、シル先輩は言い添えた。

 ふむ。オレは頭の中で今の話を整理する。


「つまり、《トート・ウィザード》を倒すには、息切れ――MP切れを狙うべきってことか?」


「MPというか、もっと総体的な……『リソース』とかって、わたしたちは言うけど。勝利条件に近付くために使える、すべての要素。アグロはそれが、他の戦術に比べて少ない。ギリギリしかない。だから……」


 シル先輩は言葉を選ぶように間を取って、それから告げた。


「……アグロ側のリソースを、直接勝利には結びつかない、別の場所に使わせる。それがアグロ潰しの、基本」


「……無駄遣いをさせる?」


「そう、そう」


 オレの言葉に、シル先輩は我が意を得たりとばかりにうなずいた。


「MAOの魔法は、対戦相手にしか撃たない……。それだと、究極、互いに魔法で相手を撃ち合って、先にHPを削りきったほうが勝ちってことになる。スピード勝負。アグロが強くて当たり前、だと思う」


「うーん? でも、RPGってそういうもんだしな……」


「そういうものじゃなくすればいい。ゲームの要素を、もっと増やせばいい。対戦者本人以外の要素を、ゲーム上に用意することができれば、《トート・ウィザード》も好き放題していられなくなる……はず。

 ……これ以上は、たぶん、みんなのほうが詳しい」


 シル先輩はそう言って、ソファーの隅っこに戻った。

 オレとプラム、ニゲラは顔を見合わせて、難しい顔をする。


 ゲームの要素を、増やす。


 ……《トート・ウィザード》は、MPという資源(リソース)を最速で、最大効率で対戦相手へのダメージに変換することで勝つスタイルだ。

 であれば、それを対戦相手のHP以外の場所に無駄遣いさせることができれば、自然と勝てるはず……。


「……理屈はわかるな」


「今の状態だと《トート・ウィザード》のMP切れを狙うのはかなり厳しいけれど、何か囮、あるいは盾になるものがあればいいってことよね? それこそ鎧を着込んで防御を固めるとか?」


「その程度じゃ受けきれないよなあ……」


 シル先輩が言っていることは、もっと高度なことなんじゃないかって気がする。

 考え方を抜本的に変えるような――MAOのゲーム性そのものを変えちまうような。

 ゲームの要素を増やす、ねえ。

 そんなもん、いちプレイヤーにできることなのか?

 もしそんなことができたら、MAOの対人戦全体に革新が起こるんじゃ――


「……あ……」


 頭の中が煮詰まったとき、プラムが小さく声を漏らした。


「あ……でも……え、できるのかな、これ……?」


 視線があてどもなく彷徨う。

 自分の中に生まれたものを見定めようとするように。


「……プラム、どうした? 何か思いついたのか?」


 控えめに尋ねると、プラムは慌てたように手を振って、あはは、と誤魔化し笑いをした。


「えっと、その……妄想っていうか、馬鹿馬鹿しい思いつきなんで……」


「言ってみなさい」


 ぴしゃりと、ニゲラの声がプラムを打つ。

 オレたちが驚くと、ニゲラは真剣な顔で細い腕を組んだ。


「遠慮は不要よ。アンタはもう、アタシたちと同じプロゲーマーなんだからね――プラム選手?」


「……は、はいっ……!」


 プラムはぐっと顔を引き締めて、ソファーから立ち上がる。

 たたたっと慌てたような足取りで、さっきまでシル先輩が立っていた大モニター前に移動した。


「えと、あの……《トート・ウィザード》がなんでこんなに強いのか……というか、攻撃魔法がなんでこんなに強いのか、考えてみたんです……」


 たどたどしい口振りで説明しながら、プラムは《トート・ウィザード》だらけのランダム観戦を見上げる。


「あたし、PvEも結構するんですけど、そのときは、攻撃魔法をこれほど強いって感じたことがないんですよね。それがちょっと不思議で……。考えてるうちに、気付いたというか、再確認して……」


「何にだ?」


「攻撃魔法は、基本、まっすぐにしか飛ばないんです」


 画面のひとつで、《トート・ウィザード》が《ファラミラ》を放った。

 紅蓮の火球が火の粉を散らしながら――一直線に飛翔する。

 ()()()()()()()()()()()


「《トート・ウィザード》がこんなに強い理由って――対人戦の舞台が真っ平らだからじゃないですか?」


 何を当たり前なことを。

 オレもニゲラも一瞬だけ目をひそめ――直後、天啓に打たれて硬直した。


 対人戦の舞台は真っ平ら。

 だから隠れる場所がなく。

 だから攻撃魔法を凌げない。


 だったら(・・・・)


「だったら」


 オレたちの思考を形にするように、プラムは真剣な表情で告げた。


「《トート・ウィザード》にとって不利な地形を、自分で作ってしまえばいい――っていう、思いつきなんですけど……どう、思いますか?」


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