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オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
混沌の新環境編――神逆のメタ・ゲーム

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第87話 プロゲーマーは調整に備える


 マギックエイジ・オンライン全日本選手権大会。

 年に一度、年末に行われるその大会は、各種公認大会やランクマッチの成績に応じて割り振られるポイントを、より多く取得した上位64名だけが出場できる、正真正銘の最強決定戦だ。


 闘技都市アグナポットに集ううち、本気で対人戦をやりこんでいる、いわゆるガチ勢たちは、誰もがこの大会への出場を目指す。

 この大会に出場できるか否か。

 あるいは、優勝できるか否か。

 それがその年の、ゲーマーとしての活動に与えられる成績表ってわけだ。

 アマチュアでさえそうなのだから、いわんやプロであるオレたちをや。


「さあ、11月だ」


 VRゲーミングハウスのリビングで、コノメタはソファーに座ったオレたちに宣言した。


「選手権ポイントが手に入る最後の月。4月から始まった今シーズンの締めくくり。まだ2回目だけど、やっぱりこの時期は胃が痛くなるよ。はっはっは!」


 フローリング張りのリビングには、オレ、コノメタ、プラム、ニゲラという、MAOをメインゲームに据えているEPSメンバーが勢揃いしていた。

 オマケとして、シル先輩もソファーの端でカードをいじっているが。


「リリィちゃんの件も、まあ一応ひと段落ついたみたいだし、本格的に選手権に向けて準備をしていかないとね。学校には来るようになったんだろう、ジンケ君?」


「ああ。話しかけてもらえねーけどな。おかげでクラスメイトには別れたと思われてる」


「ま、ちょうどよかったんじゃない?」


 ふんっと鼻を鳴らしながら、金髪洋ロリ少女ニゲラが頬杖をつく。


「選手権に出場できるかどうかって大事な時に、できたばっかりの彼女にうつつを抜かすなんて言語道断でしょ。ましてや、正式にプロになったんだからね、アンタは。むしろあの子に感謝すべきなんじゃない? 気を遣ってくれてありがとうってね」


「…………んぐぐ」


 正直、もし莉々が変わらず傍にいたら、果たして自分がどれだけ腑抜けていたかと考えると……。

 ずーんと沈んでいると、取り繕うような声が上がった。


「だ、大丈夫ですよっ!」


 プラムがソファーに手をついて、ずいっと距離を詰めてくる。


「ジンケさんが優勝して日本最強になったら、きっとリリィさんも戻ってきてくれます! それに、ほら、選手権があるの、クリスマスの時期ですし!」


「……そうかなあ……」


「そうです! 最強のプロゲーマーの彼女って称号をクリスマスプレゼントにしちゃいましょう!」


 プラムはぐっとオレの手を掴んで、元気を与えるように力を込めた。

 オレはその力に微笑んで、オレより必死な顔のプラムを見つめ返す。


「ああ……ありがとな、プラム。沈んでても見損なわれるだけだよな」


「いっ……いえいえ、わたしは、何にも……」


「おおーい、そこー。恋愛禁止恋愛禁止。彼女が消えたからって、ここぞとばかりに略奪に走らないように」


「ちっ、違いますよぉ……! わたし、ホントにジンケさんのことはなんっっっとも思ってませんから!!」


「…………(ずーん)」


「あーっ!? ジンケさん!?」


 別にいいんだけどさぁ、面と向かってそう言われると傷つく……。


「それにしても」


 と、ニゲラが話題を変えた。


「あのメイド、選手権に出るって言ったらしいけれど、ポイントは足りるのかしら? もう最終月よね?」


「それなんだけどね、実はそこそこのポイントを別アカウントに貯め込んでたみたいなんだよ。今月のランクマッチの結果次第では出場圏に入れるくらいね」


「……まったく、やってくれるのだわ。今までアタシたちを欺いていたのね」


 ニゲラは気に喰わなそうにもう一度鼻を鳴らす。

 彼女はEPSメンバーの中でもよくハウスに顔を出すほうだ――主にハウスを職場にしていた莉々とも、オレの見ていないところで交流があったのかもしれない。


「よし! それじゃあまずは、みんなのポイントを確認するところから行こうか!」


 コノメタが淀んだ空気を払拭するように言い、指先で何か操作した。

 リビングの天井にウインドウが投影される。

 選手名らしきものと何かの数字が、ずらりとリストになっていた。


「MAO選手権は去年から始まったんだけど、そのときの出場ボーダーは18ポイント。だけど、今年は全体的に上がっている」


「当然ね。大会が増えたもの」

 とニゲラ。

「大会のポイントはその月に取得したうちの最も高いものだけ計上するシステムだけれど、大会そのものが増えれば、全体のポイント数も嵩が増す。ボーダーも上がる計算なのだわ」


「そうだね。そもそも去年はアグナポットすらまだなかったし、プレイヤー数にだいぶ差がある」


「は? アグナポットって今年できたのか?」


「えっ。ジンケさん、知らなかったんですか? ほんの半年くらい前ですよ、この街ができたの」


 半年前? マジで?

 いや、でも、そうか……ユーザーが自分で街を作って統治できるようになったのって、バージョン3からなんだっけ?


「んじゃ、バージョン2までは対人戦ってどうやってたんだ……?」


「運営がアリーナを用意してたんです。それの出来がよくって、話を聞きつけた人たちが集まってじわじわとPvP勢が増えていったんですよ。運営もそれに対応して力を入れ始めて……」


「アタシも元は別のゲームでEPSに入ったのだけど、MAOの対人戦の評判を聞きつけて触るようになったクチよ。VRMMO自体には前から興味があったのだけど……ほら、eスポーツ的にはアレじゃない?」


 ニゲラの言わんとすることはわかった。

 PvEには競技性がないから、ストリーム配信のネタにするのならともかく、プロとして活動の場所にするのには不向きだよな。

 最近じゃあeスポーツとして盛り立てることがネットゲームの成功条件みたいになってる雰囲気もあるようだし、MAOの運営としても、コンテンツの裾野を広げたかったのかもしれない。


「話を戻すよー」


 コノメタが言った。


「大会数の増加によって選手権ポイントの総量が上がっているってことに加えて、もうひとつ、出場ボーダーを上げている要因がある。

 去年の強豪が大会やランクマッチにあんまり出てこなかったんだ。その影響で、それ以外の中堅どころや今年から活躍し出したルーキーが台頭している。ルーキーというのは、ジンケ君にプラムちゃん、まさにキミたちのことだね」


「強豪が出てこなかったってのはどうしてだ? シード枠とか?」


「いいや、シード枠はないよ。でも近いものはある――去年の強豪が全体的に大会出場を減らしたのは、その多くがクラス・チャンピオンになったからだ」


「クラス・チャンピオン――」


「MAOの大会の中でもトップクラスにシビアとされる七大クラス・トーナメント。そのトップに君臨する七人さ。彼らは自分の玉座さえ防衛してしまえば、それだけで大量のポイントが手に入る仕様になっている。実質的なシード枠だ。まったく羨ましい話だよねえ」


「ちょっと! 嫌味とかやめてほしいのだけど!」


 そこにいる金髪ツインテールが、まさに七人のクラス・チャンピオンの一人――《棍棒使い(メイサー)》チャンピオンのニゲラ。人呼んで《黄金車輪》。


 オレが知っているクラス・チャンピオンは、ニゲラの他にもう一人いる。

 オレの幼馴染みにして《五闘神》の一人に数えられる女子高生プロゲーマー――《拳闘士(グラディエイター)》チャンピオンのミナハ。人呼んで《闘神アテナ》。


 彼女たちと同格のプレイヤーが、少なくともあと5人存在し、そしてその全員が選手権に出場するのだ。


「まあそういうわけで、チャンピオンになった強豪は必死になって大会に出まくらなくてもよくなったわけだ。ランクマッチのポイントをちょっと確保するだけで充分出場を確定できる」


「それが一番キツいのだけどね。他のゲームと掛け持ちしている身としては勘弁してほしいのだわ」


 まったくだ、とオレたちは一様にうなずいた。

 9月と10月は《RISE》もあってあまり本腰を入れなかったが、8月のランクマッチは地獄だった。

 しかも、今月はシーズン最終月。

 選手権出場を確定させるため、誰もが死に物狂いになって順位を競い合う――月末は8月以上の地獄になるはずだ。


「とにかく、ニゲラちゃんは玉座防衛のポイントがあるから、今月よほど派手にコケない限りは出場確定だね」


「フリやめてくれる!? 縁起でもない!」


「続いてジンケ君とプラムちゃんだけど、キミたちもかなりいいところにつけている」


 ニゲラの抗議をさらっと無視して、コノメタはオレたちに水を向けた。


「《RISE》での成績はもちろんだけど、8月ランクマのワンツーフィニッシュが効いてるね。ジンケ君は現在25ポイント。プラムちゃんは現在19ポイントだ。二人とも今月50位以内に入れば出場できると思う」


「コノメタ、お前は?」


「わたし? わたしは22ポイントだね」


「解説仕事であちこち飛び回ってるくせに結構あるんだな……」


「ふっふっふ。月末ランクマッチはわたしの狩場だよ」


「変態スタイル使いめ……」


 オレとニゲラは顔をしかめ、プラムは苦笑した。

 コノメタはいつも、環境に影も形もないスタイルを使って勝ち星を荒稼ぎしているのだ。

 たまに当たるとわからん殺しされて非常にムカつく。


「ま、油断は大敵だけどね」


 いなすように肩を竦めつつコノメタは言った。


「特に今月は荒れるよ。シーズン最終月っていうのもあるけど――」


「ああ……バフ・ナーフがあるんだよな」


 バフ・ナーフ。

 すなわち強化と弱体化。

 スキルやクラス、魔法などの対人戦における性能が調整されるのだ。

 場合によっては使えなくなるスタイルすら出て、ランクマッチの環境は激変する。


 プラムが何かを思い出すように、首を傾げながら視線を上向けた。


「もともと10月末――《RISE》が終わった後くらいの予定だったのが、2週間くらい延期しちゃったんですよね」


「そうよ。誰かさんのせいでね!」


 ニゲラがキッとオレを睨みつける。


「は? オレ?」


「アンタが《RISE》で使った《ビースト拳闘士》がランクマで大流行したのよっ! そのせいで調整を見直すことになったんだろうって専らの噂よ!」


「ああ、それな。いやー、マジビビったよなー。《手負いの獣》の入手条件もあっという間に特定されちまって」


 腕を組んで感心するオレ。

 恐るべし集合知。

 プラムが曖昧に笑いながら言う。


「あのスタイル、コンセプトが明確で使いやすくて、しかも爽快感があって面白いですもんね……。そのうえ実績もあるんですから、流行って当然ですよ」


「いやでも、そっちのほうが面白いから《RISE》まで隠しとけって言ったのはコノメタだぞ? ほら、最初はプラムの配信で公開しようとしてただろ」


「……コーノーメぇータぁー? あんたが余計なこと言わなきゃこんな変な時期に調整来なかったかもしれないじゃない!」


「ハハハ。商業的判断ってやつさ。ハハハハハ」


 乾いた笑いだった。

 さしものこいつもまさかこんな事態になるとは思わなかったらしい。


「……でも、そうか。《ビースト拳闘士》が使えなくなるのは覚悟しとかないとな……」


 せっかく作り上げたメインスタイルだったんだが……。


「出てきたばかりのスタイルだし、対策研究もまだ途中だから、あまり強烈な弱体化はされないと思うけどね。本格的に手を入れるには2週間ぽっちじゃ足りないよ」


「コノメタ的には、どういう調整が来ると思ってるんだ?」


「うーん……あんまりこういう話をしても意味はないんだけど……そうだね、わたしの予想を言うと」


 コノメタは壁際に置かれたホワイトボードの前に移動した。


「まず真っ先に《セルフバフ》系統が消されると思う。《RISE》でも《セルフバフ》系を構成に入れてなかったのは、ジンケ君含めほんのわずかだったからね」


「うーん。初心者の人にも勧めやすい、いいスタイルだったんですけど……さすがに暴れすぎですよね」


「採用率90パーセント超えというのは尋常じゃないよ。結構派手に消されるかもね。とすると、スタイルの核となるバフ魔法の弱体化が予想される。強化倍率が下がって、クールタイムもちょっと長くなるとか、そんな感じかな」


 ホワイトボードに『バフ魔法↓』と書き込まれた。

 具体的には筋力強化の《グロウス》、耐久強化の《フォグ》、速度強化の《アジリア》辺りか。

 うーん、とオレは唸る。


「それをやられると《トラップモンク》も巻き添えになるな。トラップコンボがノータッチだとしても、仕込み刀での近接戦が弱くなるとキツい」


「ふふふ! ざまあみろなのだわ! 消え失せろ害悪スタイル!」


「どんだけ嫌いなんだよ……」


 ニゲラは悪役のように高笑いした。

 練習のときにボコられたのをずっと根に持っているらしい。


「ここまではほぼ確定路線と見ていいだろう。次は、《セルフバフ》のナーフによって何が強くなるか?」


「《ブロークングングニル》は戦いやすくなると思います」


「盾持ちの近接型スタイルが消えれば《ダンシングマシンガンウィザード》が暴れるのだわ」


「それに対応する形でAGI寄りのビルドが増えるかもな。下手したら《ミナハ型》の台頭までありうる。《魔力武装》を入れりゃ一応防御もできるし」


「んじゃ、その足を潰してカモにできる《バインドプリースト》がまた上がってくるかな?」


 口々に挙がったスタイル名が、ホワイトボードに書き込まれた。

 コノメタはペンのキャップをきゅっと締める。


「《ブロークングングニル》、《ダンシングマシンガンウィザード》、《ミナハ型最速拳闘士》、《バインドプリースト》――これがティアー1予想だね」


「なんか見慣れた名前ばっかだな……」


「ええ。これだとあまり面白くないと思うのだわ」


「そうですね……。問題は何がバフされるのか」


「考えられるのは、現時点でティアラン下位にあるスタイルだけど……」


 コノメタはリストアップされたスタイルを眺め、うーん、としばらく悩んでいたが……ほんの数秒でぽいっとペンを放り投げた。


「うん。公式の発表を待とう! いま考えても仕方がない!」


「お前が始めたんだろうが」


 そのとき、ソファーの隅にいたシル先輩が突如として、「んんーっ!!」と奇声を上げた。

 チョコ菓子を口に咥えたままバンバンとソファーを叩き始める。

 ゲームで何か起こったらしい。

 コノメタはその様子をしばらく見守って、


「……それじゃあ各自、新環境のカオスに備えて、今のうちにランクを上げておくなりするように。今のシルちゃんの姿が一週間後のわたしたちだ!」


「不吉なのだわ……」




 ――それから数日後。

 バフ・ナーフの内容が公式から発表された。


 不吉な予感は、ものの見事に的中した。




【バフ(強化)】

・魔法

《ファラゾーガ》:上級炎属性魔法(単体)

《エアガロス》:上級風属性魔法(単体)

《ウォルルード》:上級水属性魔法(単体)

《ジクバイト》:上級地属性魔法(単体)

《ギガデンダー》:上級雷属性魔法(単体)

《マギシルド》:魔法障壁展開魔法


・スキル

《魔力回収》:物理ダメージの一部をMPに変換

《魔除けの加護》:デバフ抵抗、MDF上昇補正

《魔力武装》:物理攻撃に魔法判定付加


・クラス

 なし



【ナーフ(弱体化)】

・魔法

《グロウス》:STR強化魔法(単体)

《フォグ》:VIT強化魔法(単体)

《アジリア》:AGI強化魔法(単体)

《バインド》:拘束魔法

《雷翔戟》:投擲系体技魔法

《ファラ》:下級炎属性魔法(単体)

《エアーギ》:下級風属性魔法(単体)

《ウォルタ》:下級水属性魔法(単体)

《ジクス》:下級地属性魔法(単体)

《デンダー》:下級雷属性魔法(単体)

《チョウホウカ》:上級炎属性魔法(範囲)

《エアギオン》:上級風属性魔法(範囲)

《ウォルドーラ》:上級水属性魔法(範囲)

《ジクバーナ》:上級地属性魔法(範囲)

《ギガデダーナ》:上級雷属性魔法(範囲)


・スキル

《虎に翼》:強化系アクティブスキル

《高速詠唱》:魔法クールタイム短縮


・クラス

《ハイ・ウィザード》


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