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オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
《RISE》激戦編――最強こそが試される

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第80話 プロゲーマーは闘い始める


 その夜は、今まで会ったことのなかった他のEPSメンバーまで集まってのドンチャン騒ぎになった。

 MAOとはさっぱり関係のない部門の人たちまでやってきては、メシを食うついでにオレたちの入団を祝ってくれた。


 オレたちの、というのは、遅れてやってきたプラムのストリーマー部門への入団祝いも兼ねているからだ。

 オレたちは二人して、いい歳した大人たちに、いいように遊ばれまくった……。つ、疲れる……。


 そして、今回の祝勝会には、ついに社長が姿を現した。

 そう、プロゲーミングチーム《ExPlayerS》を運営する総代表である。


 コノメタがしきりに社長社長と言っていたものの、姿を見たことがなかったから、もしかして実在しねーんじゃねーかと若干疑っていたのだが、普通に40代くらいのおじさんだった。

 VRゲームがまだこの世に存在しなかった頃からプロチームを運営している、割とすごい人らしい。

 だが、ノリは他の大人たちとあまり変わらなかった。


「コぉーノメタぁーっ!! 酒はどこだぁーっ!!」


「全年齢ゲームにアルコールなんてあるわけないだろう!! ポーションでも飲んどけ!!」


「がはははは!! 社長の状態異常をデトックスだ!!」


 そして社長の扱いがかなり雑だった。

 大丈夫か、このチーム。


 空前の騒がしさに包まれたハウスだったが、やがて多くが騒ぎ疲れて寝落ちし始める。

 死屍累々と雑魚寝する大人たちを眺めながら、オレそろそろログアウトしていいのかなあ、などと考えていると、後ろからこそっと話しかけられた。


「(ジンケ君、ジンケ君。ちょっと外まで来てくれる?)」


 コノメタだった。

 なんだろう。

 なんで声を潜めてるんだ?


「……告白だったらお断りするが」


「違うよ。年上の女性を雑にフるな」


 ちょっとガチめに怒られたので、素直にソファーから立ち上がる。

 雑魚寝するプロゲーマーたちを跨いでいき、玄関から外へ。


 夜のアグナポットは、早朝に近い時間にでもならないと、ひと気も明かりもなくならない。

 ネットゲーマーのゴールデンタイムは11時くらいから始まるのだ。

 先を歩くコノメタは、ひと気の少ないほうへと歩いていき、狭い路地の中間にある小さな広場で足を止めた。


 ささやかな噴水が、静かに水音を奏でている。

 それを何とはなしに見ていると、コノメタがそっと口火を切った。


「……きみなら、きっとわたしたちの仲間になれると思っていた。ジンケ君――」


 いや、と言葉を継ぎながら、コノメタは振り返る。



「――《JINK》」



 コノメタが口にしたのは、かつてのオレの名前。

 そして、ゲーマーたちの口と、ネット上のみに存在する、とある伝説の名前だった。


 オレは……あまり、驚かない。

 心のどこかで思っていたからだ――コノメタは、オレの正体を知っているのではないか、と。


「……どうして知ってたんだ、コノメタ?」


 だからオレは、平静に質問をぶつける。


「オレが《JINK》だってことは、誰にも話したこと、ねーのに――」


「そんなの、決まってるさ」


 コノメタは自嘲するように笑っていた。


「闘ったことがあるからだよ。きみと――《JINK》とね」


 なんだって……?

《JINK》だったオレと、闘ったことがある?

 オレたちは、そんなに前から顔見知りだったのか?


「わたしはね――あの伝説の夜、きみに敗れた138人目の挑戦者だよ」


 今度こそ、驚愕がオレを貫いた。

 あの夜、285回続いた連勝劇。

 その138回目の相手が――コノメタだった?


「お前も……ゲーセン出身、だったのか……」


「まあね。あまり表だって語ってはいないけど。EPSに入ってスカウトの真似事を任されるようになったのは、その頃のツテがあるからなんだ」


「……あれ? でも、オレが昔のゲーセンの話するとき、いつも初耳みたいな顔してたよな?」


「演技に決まってるじゃん?」


「……………………」


 だから信用ならないんだ、こいつは。


「あ、そうか。《名古屋のホコノ》と知り合いっぽいのもそこからか?」


「そいつの名前を出すな」


 だからどういう関係なんだよ。

 と思うも、オレが聞き返す前に、コノメタは勝手に話を進めた。


「きみの噂をネットで見てね、詳しく話を聞いてみたら、もしかして、と思ったんだ。それでカマをかけてみたら確信に変わった。間違いなく《JINK》だ、ってね」


「あの辻斬りか……」


 いま思い返してみても、あんなスカウト方法はありえない。

 そういう経緯があったのか。


 コノメタは小さな噴水のほうに歩いていきながら、頭上に広がる星空を仰いだ。


「わたしにはね、ジンケ君――EPSのスカウトを任されるようになったそのときから、どうしてもスカウトしてみたいプレイヤーが、二人、いたんだ」


「二人――その一人がオレか?」


「そう。今や伝説となったゲーマー・《JINK》――」


 オレのほうを振り返り、コノメタは珍しく真面目な顔を作る。


「直接闘ったことのあるわたしにしてみれば、現在のプロシーンに彼がいないことは明白だった。だからこそ、思ったんだ。彼こそプロになるべきだ。彼が在野に眠っていることは、プロゲーミング界の大いなる損失だ、ってね」


「……そこまで立派な奴じゃねーよ」


「わたしの個人的な見解だよ」


 どいつもこいつも、神聖視しすぎなんだ、あの夜のオレを。

 あんなもんは、一人のクソガキがガキらしく、イキッてただけだっていうのに――


「……そして」


 コノメタは噴水のそばに立ち、水面に映る月を見下ろす。

 MAOの世界には、現実と違い、月が二つあった。

 大きな《母月》と、小さな《子月》――


「もう一人のほうに関しても……わたしは同じように感じているんだよ。あのプレイヤーがプロにいないなんて、そんなことはありえない――あってはならない、って」


「もう一人……?」


 一人歩きした伝説ではあるが、ゲーマー界隈でも1、2を争う知名度を誇る《JINK》。

 それと同等の価値を持つプレイヤーが――まだ、表舞台に立っていない?


「誰なんだ、それ……?」


「きみにも心当たりがあるはずだよ」


 コノメタは水面に映る双月からオレのほうに視線を戻した。


「何せきみは、彼、ないしは彼女と闘ったことがある。あの伝説の夜――その締めくくりにね」


 285連勝を達成した夜。

 その締めくくり。

 ……ラストに……?


「……おい、まさか……!」


 あった。

 心当たりが、あった。

 確かに、《あいつ》なら……。

《JINK》と同等――いや、それ以上の価値をコノメタに認められても、おかしくはない!


「285連勝、570ラウンド無敗――その伝説の幕切れは広く知られている。閉店時間になってゲームセンターの電源が落とされたことによる強制終了だ。

 ……なのに、ネット上の伝説ではほとんど語られていない。強制終了により勝敗のつかなかった、()()()()()()()について―――」


 覚えている。

 あの夜、オレが積み上げた勝利数は285。

 だが、そのどれよりも覚えている。

 積み上げた無数の勝利ではなく、勝利にはならなかったその1戦をこそ、最も強く記憶している――


「285連勝、そして570ラウンド無敗」


 コノメタはもう一度、伝説の内容を繰り返した。


「なぜ、わざわざラウンド数まで数えられるのか――その理由が、実はその286戦目にこそあるということを、あの夜、あの場にいた人間だけが知っている。

 ――そう。()()()、《()()()()()()()()()()()()

 286戦目の第1ラウンドで、まさかの敗北を喫したんだ。その後の第2ラウンドを取り返し、1対1の最終ラウンドで雌雄を決しようとしたところで、ゲームセンターの明かりが落ちた――あのときの落胆を、わたしはよく覚えているよ」


 オレだって同じだ。

 よく覚えている。

 あのとき――筐体の電源が不意に落ちたその瞬間。

 オレは、こう思ったのだ。


 ――助かった、と。


「《JINK》が筐体から姿を見せなかったのと同様に、《そいつ》もまた、筐体から出てこなかった。そいつが筐体に入るところも誰も覚えていない――男だったのか女だったのか、子供だったのか大人だったのか、それすらもまるでわからない。何せ、その場の全員の視線が、挑戦者ではなくきみのほうに注がれていたからね」


 コノメタの口調は、どこか夢見るような響きを帯びていた。

 あるいは、オレのことを――《JINK》のことを語るときよりも明確に、言葉が熱を纏っていた。


「最後にして最強、幻の286人目の挑戦者―――わたしはね、そいつをずっと探しているんだよ」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 翌日は普通に学校だった。

 プロゲーマーになったって言ったって、別に学校に行かなくていいわけじゃない。

 コノメタ含む先輩からも、『学校は絶対辞めるんじゃねえぞ』と口すっぱくして言われたものだ。

 そんなこと、元より考えもしてなかったんだけどな。


 変わったことといえば、試合のために公休を取れるようになったってくらいだ。

 まあ、プロライセンスに関する手続きはまだこれからなんだが、今後はそういう機会も増えていくだろう。


 というわけで、ごく普通に登校してごく普通に教室に入ったオレだったが、その瞬間、クラスメイトに取り囲まれた。

 え、なんだなんだ?

 目を白黒させているうちに、だんだんと状況が掴めてくる。

 どうやら、《RISE》の配信を見ていた奴がいたらしい。

 そしてオレがプロゲーマーになったことが、昨夜のうちにSNSを通じて広まったのだ。


「マジでプロゲーマーになったの!?」

「やべーっ!! ジンケやべーっ!!」

「賞金でなんか奢れよお前ーっ!!」


 うるせー誰が奢るか。

 お前らに奢る前に、オレには恩を返さなきゃいけない奴がいる――今までずっと待ってもらってたんだ、これ以上待たせることはできない。


 人の輪の外から、森果がオレのほうを見ていた。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 放課後。

 オレは森果を連れて自宅に帰ってくる。

 手には道中買い集めてきたお菓子や飲み物があった。

 かねてよりの約束だった、二人きりでの祝勝会のためだ。


 ……やべえ、ドキドキしてきた。

 オレは内心緊張していた。

 プロになったということは、例の約束を果たすということだ。

 そしてそのチャンスは、この祝勝会を覗いて他にはない――


 なんて言えばいいんだろう?

 ……好きです? 付き合ってください? 愛してる? 君の瞳に乾杯?

 うがあーっ……!! どっかで聞いたような台詞しか思いつかねえ!!

 もっと前から考えておけばよかった……。


「は、入ってくれ」


「うん」


 森果を部屋に入れる。

 今日、両親は帰りが遅いらしい。

 だから夜までは誰にも邪魔されないはずだ。

 日和って後回しにしたら無限に先延ばしにしちまいそうだし、言うなら早めに言ったほうが……。


 菓子類や飲み物をテーブルの上に広げながら、めいっぱい時間を稼ぐ。

 それでも気の利いた台詞はさっぱり思いつかなかった。

 このポンコツ頭、床に叩きつけてやりたい。


「……ジンケ」


 と。

 正座で床に座った森果が、何やら鞄から小さめの箱を取り出した。

 そして、口を隠すようにしてそれを掲げ持ち、オレに見せてくる。


「ぶッおあ!?」


 今まで縁のない代物だったが、一目でわかった。

 ……避妊具だった。

 男女が致すときにしか使わない箱の上から、森果がじっとオレの顔を見つめている。


「必要だから。今日。買っておいた」


「まっ、いや、お前なあ……! ダメだろ、それ!」


「ジンケ……気持ちは嬉しいけど、さすがに避妊はしないといろいろ差し障りがあると思う」


「そういう意味じゃねーよ!」


 森果は無表情のまま、きょとんと小首を傾げた。


「今日、正式に彼女にしてくれるんじゃ?」


「……オレが約束したのは、確かキスと告白の返事だったと思うんだがな」


「ジンケ、どうせ我慢できない」


「心外だな!!」


 そうしていつものやりとりをしているうちに、肩に入っていた力が抜けていく。

 ……これが森果だよな。

 変な奴だけど一直線で……オレはここまで、こいつに引っ張ってきてもらったようなものだ。

 オレにはこいつに、返しきれない恩がある。

 そして、それ以上に――


 感謝と一緒に溢れてきたのは、なんだろう、大切さ……とでも言えばいいのか。

 あるいは――そうか、これを『愛おしさ』と呼べばいいのかもしれない。

 だったら――

 この気持ちを、そのまま素直に、口から外に出してしまえばよかった。


「……森果」


 オレは居住まいを正して、森果と向かい合う。

 そして――

 ついに、その言葉を口にした。


「好きだ。オレの彼女になってくれ」


「うん」


 ムードもへったくれもない平坦な即答。

 まさに森果って感じで、オレには最高の返事だった。


 森果はそっと目を閉じる。

 何を待っているかなんて、わざわざ言葉にされなくても伝わっていた。

 にじり寄って、膝を突き合わせ、両手で肩を掴んで。

 ゆっくり、ゆっくりと、顔を近付ける。


 恋人の顔をずっと間近から眺めていたかったが、結局、最後はオレも目を閉じた。

 唇に柔らかで甘い感触を感じて、それから再び、瞼を上げる。

 森果もまた睫毛を上げて、オレの瞳を覗き込んだ。


「ジンケ……好き」


「ああ」


「ジンケがいないと、生きていけない。わたしを……生きさせて」


 もう一度――今度は、力一杯抱き締めながら唇を交わした。

 森果の腕もオレの首に回って、決して放すまいと力を込めた。


 どちらが導いたのかはわからない。

 いつしか、ぼふりと、オレたちは同じベッドに倒れ込む。


 森果の体温、森果の柔らかさ、森果の息遣い、森果の匂い。

 何もかもが、オレの身体の芯を痺れさせていた。

 ……ああ、もう、まったく、よくわかってやがる。

 我慢できなかったよ、お前の言う通り。


「ええ、と。……いい、か?」


 いったん唇を離して、囁くような声で訊くと、森果はオレの唾液で少し濡れた唇を開く。


「ひとつだけ、条件」


 オレの頬を、森果の細い指がそっと撫でた。


「呼び方。森果じゃなくて……莉々」


 オレは唾を飲み、申し訳程度に喉の調子を整えてから、彼女の名前を呼ぶ。


「……莉々」


「うん」


「莉々」


「うん」


 オレが名前を呼ぶたびに、森果――莉々は嬉しそうにうなずいて、ほのかに口元を緩ませた。


 ――ああ。

 オレは、この微笑みを見るために、これまで闘ってきたのかもしれない。


 莉々はオレの瞳をじっと見て、オレの頬に両手を添えて、甘い甘い声で幸福へと誘った。


「強いジンケを、いっぱい見せてね」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「――ハッ!?」


 気付くと、暗い天井があった。

 ……夢オチか!?

 と思ったものの、脳に強烈に焼きついた幸福な時間は、これっぽっちも薄れていかない。

 夢ではなく、夢みたいな現実だった。


「……さむっ……」


 どうやら、寒さで目を覚ましたらしい。

 もう10月だからな……。

 ……あれ?


「……莉々?」


 すぐそばにいたはずの莉々が、どこにもいなかった。

 オレは一人で、ベッドの上に起き上がる。

 ……とりあえず服着るか。


 ベッドから床の上に足を着けると、ぐしゃっと何かを踏み潰す。

 なんだこれ?

 拾ってみると、それは莉々が持ち込んだ小箱だった。

 中身はすっからかんだ。


「……ははは……」


 思わず乾いた笑いが漏れる。

 森果莉々……案の定、凄まじいモンスターだった……。

 ゴミ箱の中身、どうしよっかな……。


 テーブルには、菓子類ジュース類が結局手つかずのまま残されている。

 その中に埋もれたオレの携帯が、何やらぴかぴかと光っていた。

 メッセージが来ているらしい。

 莉々からか?

 外はもう暗いみたいだし、先に目を覚まして帰ったのかもしれない。


 そう思って手に取るが、送り主は莉々ではなくコノメタだった。

 なんだ? 早速、何か仕事に関係する連絡か?

 メッセージを表示させた。

 そこにはこうあった。



〈リリィちゃんがEPSのバイト辞めるって言ってきたんだけど、何かあったの?〉



 …………は?




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 森果莉々は、久しぶりに道場に礼をした。

 この道場に足を踏み入れるのは、いったい何年ぶりのことだろうか。

 ろくな管理もなく放置されていたのだろう。畳はささくれ立ち、床の間には厚く埃が張っている。

 捨て置かれた数年の間に醸成された冷たい空気が、身体の奥に満ちていた幸せな火照りを冷却した。


 かつて教え込まれた通りに畳に正座をして、莉々は在りし過去に投げかけるようにして声を紡ぐ。


「――お父さん」


 この道場は、森果莉々のすべてを定義した、いわばキャラクターメイキングの場であった。

 牢獄にして理想郷。

 逃げることは叶わず、しかして、理想を求道することにかけてはこの場所以上のものはない。

 そう思っていた――あの頃は。


 森果莉々は、この道場で人の殴り方を学んだ。

 過酷で理不尽な世界を生き抜く方法を学んだ。

 だから、ここならば再確認できると思ったのだ。


 正座をしたまま瞑想する。

 思索を巡らせるまでもなく、まるで天啓のように、答えは一瞬で出た。


 ミナハは問うた――『最強とは何か?』と。

 莉々は答えた――『誰にも負けないこと』と。


 今ならばわかる。

 あれは間違いだった。

 だからといって、ミナハの言うことが正解というわけではない――結論は極めて似ているが、過程がまるで違う。


 最強とは何か?

 今の答えはこうだ。



 最強とは、ジンケである。


 強さとは、ジンケである。



 その真理を――森果莉々は、証明しなければならない。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 ちょうど1日ほど前。

 夜のアグナポットで、オレはコノメタに乞われて、《286人目》について知る限りのことを話した。


 まず、オレも姿を見てはいない。

 あれがどこの誰だったのか、オレにもまったくわからない。

 だが、ひとつだけはっきりしていることがあった。


 あれは、素人ではない。

 プロゲーマーだとかそういうことではなく、もっと根本的に――



 闘い方が、明らかに独学で身につけたものではなかった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 そうしたリアルでの技術をゲームの世界に持ち込む者を、MAOでは俗にこう呼ぶらしい。


 ――《リアルチーター》。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 ――かつて、とあるゲーマーが言った。

 プロゲーマーの世界で重要なのは、勝つことではなく勝ち続けることだと。


 ゆえに、プロとなったジンケの試練は、勝利した後にこそ――達成した後にこそ訪れる。


 これより先は、最強たることが当たり前の世界。

 強いことが前提条件となる世界。

 その上で、どうすれば勝ち続けることができるのか?


 最強と最強。

 しかして、闘えばどちらかが負ける。

 その矛盾の先にこそ、あらゆるゲーマーが辿り着くべき答えがあるのだ。


 ―――すべてが今、ようやくスタートラインに立つ。


第一部『プロゲーマー入門編』――完


第二部『全日本選手権乱闘編』――続

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