表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
《RISE》激戦編――最強こそが試される

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/101

第79話 こうして、プロ見習いは辿り着いた


 ステージの真ん中で、オレはケージと握手を交わした。


『素晴らしい試合を見せてくれた二人に、大きな拍手をっ!!』


 観戦スペースから耳が割れそうなくらいの拍手が起こって、オレたちを包み込む。

 ……なんだか、ちょっと照れ臭いな。

 オレはただ自分のために必死にやってただけなのに、それがこうも歓迎されるなんて。


 オレの手を握ったケージの手に、ぎゅっと力が籠もった。

 その感触には覚えがあった。


「……ありがとう」


 拍手に紛れそうな声で呟くと、「え?」とケージが顔を上げる。


「ちゃんと……悔しがってくれただろ?」


 もう負けても大丈夫、なんて言っていたケージが、それでも本気で闘ってくれた。

 何の出し惜しみもせず、精も根も使い尽くして、オレの相手をしてくれた。

 それが、何よりも――あるいは勝ったことよりも、嬉しいことだった。


「……はは」


 ケージは口元だけで淡く笑う。

 それは少しだけ強張っていて、無理やり作ったものであることがすぐにわかった。

 彼は言う。


「…………ちくしょう」


 この日、ケージと顔を合わせたのはこれが最後だった。

 次にこの男と出会うのは、この大会から何ヶ月も後――来年2月の下旬のことになる。

 そしてそれは、オレではなく、この男の物語での出来事だった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「ジンケさんっ!」


 インタビューやらもろもろを終えて、会場の外の廊下に出ると、いきなりプラムが飛びついてきた。


「うおっと! あ、あぶね……。なんだよ、いきなり」


「すごかった……! すごい試合でした、本当にっ!! あ、あたし、もう、なんか、泣けてきちゃって……」


 耳元から聞こえるプラムの声は、本当に涙混じりになっている。

 大袈裟だな。

 オレは苦笑して、彼女の背中をぽんぽんと軽く叩いた。


「……仇は、取ってきたぜ」


 プラムはオレの顔を見て目を見張り……それから、はにかむようにして笑った。


「……はいっ!」


 ――っと。

 プラムの肩越しに、森果の姿が見えた。

 いつまでもこうしてると、またあいつがむくれちまうな。

 そう思って宥める方法を考えていたが、森果はじっとこっちを見ているばかりで、話しかけてこようとしなかった。

 ……心なしか、表情も硬いような……?


「余韻に浸るのはそのくらいにしておきなさい、ツルギ」


 森果に声をかけようとした寸前、昔馴染みの声が言った。

 あれ? 森果の隣に――


「南羽? お前も一緒にいたのか」


「話は後よ。あなた、忘れてない? まだ準決勝と決勝があるのよ?」


「あっ……! そ、そうでした! まだ3回戦じゃないですか!」


 言われてみれば、出し尽くしすぎて、もう決勝終わったみたいな空気になっちまってるな。


「……やっべ。思いっきり集中切れてるわ」


「ほら見なさい! 一刻も早く控え室に戻って休むのよ! 昔のバスケ漫画みたいなオチは許さないから!」


「そうですよ! 行きましょう! ほら!」


「わっ、ちょっ、押すなって……!」


 プラムに背中をぐいぐいと押されて、結局、森果とは話すことなく控え室に戻ることになった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 プラムに背中を押されて廊下の向こうへと消えるジンケを、森果莉々と春浦南羽は黙って見送った。

 二人きりになったあと、沈黙という名の池に一石を投じるように、南羽のほうがぽつりと言う。


「…………恋人の座、あのプラムって子に譲ったら?」


 瞬間だった。

 森果莉々の身体が暴風めいて旋転した。

 腰の捻りから生み出される力を十全以上に乗せた拳が、南羽の腹部に襲いかかる。


 ――と、思われた、が。

 拳は、炸裂する寸前でピタリと止まっていた。

 寸止め。


「…………あなた、今の動き…………」


 唖然と目を見開いて南羽が呟くと、森果莉々が蛇さえ身を竦ませそうな眼光を輝かせる。


「ジンケが、強いの」


 脅すような……あるいは、すがるような。


「ジンケが、一番強いの。それを、わたしが……わたしだけが、わかってる」


 拳を突きつけられた状況で、しかし南羽は臆することなく眉をひそめた。


「……本気で、言ってる?」


「……………………」


「あなたがツルギに押しつけていた理想のイメージと、実際のツルギとが微妙に違っていることに……本当はもう、気付いているんじゃないの?」


「…………っ!」


 無表情の仮面が、わずかに崩れた。

 その奥から、かすかに覗いたのは――


「……わかってる……こんなの、ただの押しつけ……お父さんと同じ……でも……でも、わたしには……」


 ぼやぼやと、ノイズで乱れたゲームのグラフィックのように存在を揺らめかせながら、森果莉々は呟き続ける。


「……わたしには……必要なの。わたしは……《ジンケ》がいないと、生きていけないの……」


 ごくりと、南羽は息を呑んでいた。

 森果莉々の瞳の奥に、何かが焼きついている。

 それは、おそらくはツルギの姿と――

 それ以外の、闇のような、炎のような、どろどろと粘つきながらも、魂さえ焼き尽くす熱を持つ、情熱に似た何かだった。


 あるいは――そう。

 一瞬、森果莉々の瞳に見えたそれを示す言葉を、南羽はたったひとつだけ知っている。


 ――狂気。


「邪魔をしないで。……邪魔だけは、しないで」


 根本的な疑問があった。

 それを抱いたのは、きっとこの瞬間だけにおいては、たったひとり、春浦南羽だけだった。


 ――森果莉々は、どうして竜神ツルギのことが好きなのか?




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 そして、準決勝、決勝が恙なく行われた。

 南羽のおかげでかろうじて集中力を取り戻したオレは、その両方を危なげなく勝利。

 こうして、コノメタに命じられた通り、オレは《RISE》MAO部門本戦を優勝で終えることができたのだった。


「――を讃え、ここに賞します。優勝おめでとう!」


 主催者の人からトロフィーと賞金(の額が書かれたでっかい小切手型のアレ)を受け取り、オレはステージ上で掲げてみせる。

 歓声と拍手を全身に浴びながら、しかし虚脱するどころか、身体の中は気力で充満していた。


 ここは、通過点だ。

 コノメタに――プロゲーミング・チーム《ExPlayerS》に提示された条件は、これで両方クリアした。


 オレは、ついに見習いを卒業する。

 プロゲーマーの称号を手に入れるのだ。


 そして――

 会場の端っこで静かにこちらを見ている南羽に、視線を送った。


 お前に投げつけられた手袋……もうすぐ投げ返してやれそうだな。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「それじゃあ、本当にありがとうございました! またMAOで!」


「んー!」


 大会が終わってすぐにホテルを引き払うと、東京駅でプラムやシル先輩と別れて、森果と二人、地元に凱旋した。

 道中、森果とは普通に会話した。さっき様子が変だったように見えたのは気のせいだったらしい。


「ふう~……帰ってきたぁ……」


 やっと自宅に戻ってきて一息つく。

 両親に賞金で100万円もらったことを報告する必要があるだろうが、慣れない外泊やら大会やらで、気付かないうちにだいぶ疲れが溜まっていた。

 今日はさっさと寝ちまうか?


 そう思った矢先、携帯にメッセージが届く。

 コノメタからの呼び出しだった。

 VRゲーミングハウスに来いとのお達しだ。


〈おいおい、大会直後に何やらせる気だよ〉


〈祝勝会だよ。それに、ちょっとした式典もあるから来てね〉


 祝勝会か……。

 そういえば、森果とも約束してたよな。

 まあ、そっちは明日でいいだろう――オレも心の準備とかあるし。


 そういうわけで、オレはバーチャルギアを被ってMAOにログインし、アグナポットのEPS専用VRゲーミングハウスを訪れた。


「ハッ!」


 玄関扉を開くなり、金髪ツインテールの洋ロリが鼻笑いで出迎えてくれた。


「ずいぶんとギリギリみたいだったじゃない? このアタシが練習に付き合ってあげたっていうのに、なっさけないったらありゃしない! これだからジャップは!」


「その国際的ツンデレも懐かしく感じるぜ、ニゲラ先輩。たかいたかーい」


「きゃあーっ!? 高い高い高いバカバカ!!」


 げしげし顔を蹴られたので先輩を床に着陸させ、リビングまで進むと、シル先輩がソファーでカードをいじっていた。


「うわっ、シル先輩すげえな。大会で死ぬほどやったあとだろ?」


 口にくわえたチョコ菓子を上下に揺らしながら、謎のサムズアップを向けてくるシル先輩。

 頭が下がるな、マジで……。

 デジタルTCG界隈で《ラダーモンスター》と呼ばれているだけはある(ラダーってのはランクマッチのこと)。


「ジンケ君がMAO部門で優勝、シルちゃんも優勝こそ逃したけど準優勝の好成績。プラムちゃんも1回戦突破。EPSとしては大勝利の結果だ。これは祝勝会をやらざるを得ない!」


 と宣言したのは、シル先輩の向かい側にいたコノメタである。

 プラムはまだいない。今頃はようやく新幹線を降りたところだろう。


「社長から予算も降りたし! そのうち普段集まらないメンバーも集まってくるよ! 料理は現在進行形でリリィちゃんが準備中!」


 キッチンのほうを覗くと、リリィが忙しそうに動き回っていた。


「でもその前に――真っ先に済ませておかないといけないことがある」


「うん?」


 コノメタがにやりと笑うと、ニゲラやシルが納得顔になった。


「やるのね、アレを」


「(こくこく)」


「やるさ。恒例だからね。プラムちゃんがいないのは残念だけど、また後日改めてってことで。リリィちゃんが料理を準備してくれてる間に済ませよう」


 アレ? 恒例? ……何のことだ?


「さあ、行くよジンケ君」


 コノメタは玄関に歩き始めた。


「――入団式だ」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 コノメタやニゲラ、シル先輩と一緒に夜のアグナポットを歩いていると、気付いて手を振ったりしてくるプレイヤーがたくさんいた。

 最初は他の面子に振っているのかと思ったが、どうやらその多くがオレに反応しているらしい。


「そろそろ自覚の持ち時だよ、ジンケ君。今の君はかなりの有名人なんだから」


「そうよ。サイン求められたりするわよ。ちゃんと考えておきなさいね」


「……マジで? シル先輩もあるのか、サインとか?」


「(こくこく)」


 シル先輩はストレージから取り出した色紙にさらさらとサインを書いてみせた。

 ……『しる』と普通に平仮名で、しかも略称で。

 二画じゃねーか。


「サインってこういう、小学生の持ち物に書いてあるようなのでいいのか……? もっとこう、カッコいいやつじゃ……」


「この子のは参考にしないように! 恥ずかしがらずにプロにデザインを依頼したほうがいいわよ」


 サインを作るプロ……そういうのもあるのか。

 まさかオレの人生に、大真面目にサインを考えなければならない局面が訪れようとはな……。


「サインの他にも、取材、解説、番組出演、記事の執筆――ただゲームをする以外の仕事も増えていくよ、プロになればね。まあその点、君はわたしたちという先輩がいるから恵まれている。チームの利点だね」


 先を歩くコノメタが言う。

 確かに、一人だったらどうすりゃいいか全然わかんなかっただろうな……。


「それもこれも、プロになって《EPS》のチーム名をその名に背負ってからの話だ。……着いたよ」


 コノメタが立ち止まったのは、セントラル・アリーナの程近くにある、神殿と教会の中間みたいな建物だった。

 商店通りのそばにある割にひと気がない。

 こんな施設あったのか……。


 コノメタたちの後ろに続いて、中に入っていく。

 シンプルなものだった。

 ひんやりと冷えた空間の真ん中に、ぽつんとひとつ、石碑が建っている。それ以外には何もない。


「ここは《受名殿》」


 コノメタの声が空間に反響した。


「キャラネームを変えることのできる施設さ」


「……キャラネーム……」


 思い当たることがあった。

 コノメタ、ニゲラ、シル……彼女たちの頭上にポップアップするキャラネームを見れば、一目瞭然だ。

 コノメタが振り返って、薄く笑った。


「ジンケ君――これから君はプロゲーマーとなり、我らがEPSの名前を背負って闘っていくことになる。そう……文字通り、ね」


「……そういうことか」


 コノメタたちEPSメンバーのキャラネームには、手前に必ず『EPS:』という文字がついている。

 これは、EPSメンバーであることを証明する文字であり、他の人間はシステムに弾かれて絶対に名乗ることができない。


「手続きは済んでいる」


 先輩たちの視線がオレに集中していた。


「さあ、自分の手で付けるんだ。自分の名前に、わたしたちと同じ冠を」


 オレはゆっくりと前に進み出て、石碑の前に立った。

 胸くらいまでの高さを持つそれに、そっと手で触れる。


 ぼうっと、石碑の表面に、光の文字が表示された。

《ジンケ》。

 これが今の、オレの名前だ。


 現れたウインドウを操作した。

 そこにはしっかり、普通は表示されないはずの記号『(コロン)』が姿を見せている。

 オレは間違えないよう慎重に、合計4文字を、名前の手前に付け加えた。


 石碑に浮かび上がった文字が変わる。

 同時に、オレの頭上にポップアップしたネームタグも、新しいものに改められる。

 ――《EPS:ジンケ》。


 ついに、辿り着いたんだ。

 南羽の奴と同じ場所――プロゲーマーというステージに。


 振り返ると、コノメタ、ニゲラ、シル――本当の意味で先輩になった人たちが、オレという新人を見据えていた。

 代表してコノメタが、オレに手を差し伸べる。


 新しい世界へと、オレを連れていくために。


「―――ようこそ、《ExPlayerS》へ!」



後にケージは回想する。

http://book1.adouzi.eu.org/n2143dt/79/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同じゲームを舞台とした作品
『灰色のリアルを塗り潰す無人島クラフト・プレイ』
前人未踏の無人島マップを、《クラフト》を駆使して攻略せよ!

『最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ』
小悪魔系の後輩とゲームしたりイチャついたりゲームしながらイチャついたり。

マギックエイジ・オンライン設定資料集
設定資料集。順次加筆予定。
― 新着の感想 ―
[良い点] ケージの主人公適正高すぎて、  ケージ側の物語めっちゃ読みてえー! って悶々としてたら後書きにurl貼ってあって、どっちも読みたい葛藤が生まれた話でした。  まあどっちも読むんですけどね。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ