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オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
《RISE》激戦編――最強こそが試される

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第71話 プロゲーマー見習い VS MAO最強の男:瞳の輝きⅡ


『ケージ選手っ! 今大会初! ラウンドを落としましたああああっ!! MAO最強のプレイヤーに土をつけたのは、やはりと言いますか、優勝候補の一角、ジンケ選手です!! ……おや? コノメタさん、難しそうな顔をしてらっしゃいますね』


『難しくもなるさ。見てみなよ、ジンケ選手のMPを』


『MP? ……あっ!』


『先ほどの疑似《ブロークングングニル》による大コンボで、ジンケ選手はMPを使いきってしまった。ラウンドを取ったのはいいけど……ここから先、一体どうする気だ?』




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「ジンケさん……」


 観客席で、プラムが心配そうに闘技場のジンケを見下ろしていた。


「あたしの……あたしのせい? あたしが負けて泣いたりしたから、ジンケさんは……」


 仇を討ってくれようとしてくれているのではないか。

 そのためにあんな無理な攻めをしたのではないか。

 結果、第1ラウンドで力を使い果たした。

 プラムにはそう思えてならなかった……。


「ナメないで」


 しかし、隣に座るリリィが、力強くプラムの呟きを否定した。


「ジンケは、そんなに馬鹿じゃない」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 そして観客席の中には、心配そうな様子の少女がもう一人存在した。

 ケージの相棒にしてブレインであるチェリーである。

 彼女ははらはらした表情で闘技場の少年を見下ろしていた。


「ああ、先輩……余計なことしないでしょうね……! ときどきすごい馬鹿になるんですから……!」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「ふう―――……」


 長く息をついて思考をリセットする。

 大丈夫だ。

 焦ってなんかいない。

 頭も身体も極めてクールだ。


 第1ラウンドでMPを使い果たしてしまうのは織り込み済み。

 元より第2ラウンドは捨ててMP回復に努め、第3ラウンドで雌雄を決するプランである。


 そのためには、この第2ラウンドでどれだけケージにMPを使わせられるかが鍵になる。

 堅実に守ってじれさせるのだ。

 槍という武器は、時間切れ狙いの《TODランサー》なんてスタイルがあるくらい、防御に向いている。

 速さに惑わされず、リーチを最大に活かして戦えば、必ず攻めを急いでMPを浪費してくれるはずだ!


 ラウンド開始のカウントダウンが始まり、オレは槍を構える。

 正面に立つケージは、ろくに構えもしていなかった。

 右手にだらんと剣を持って――輝く瞳で、オレを見据えている。


 第2ラウンド開始。


 ケージが動いた。

 予備動作をほとんど捉えさせない圧倒的初速……!

 どこから来る!?

 オレは神経を張り詰めさせる。


 しかしそれは、完全な無駄に終わった。


 消えるように動いたケージは、オレに近づいてはこなかった。

 むしろ遠ざかった。

 限界まで遠ざかって、壁際で足を止めていた。


 そしてオレのほうに振り向き――

 くいくい、と、指で手招いてみせるのだ。


「……は?」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 ざわめくアリーナの中、星空るるの実況が響く。


『ケージ選手! 開幕から壁際まで後退しますっ! こ、これは一体どういう意図でしょうか!? 先ほどのラウンドで、壁際に追いつめられて敗北したばかりですよね!?』


『まあ、表情から察するに―――』


 コノメタが呆れたように苦笑して言った。


『―――「さっきの面白かったからもう一回やれ」、だろうね』




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 ――なんだ、こいつは!?


 わけがわからなかった。

 壁際に追いつめられたら超不利なのは、さっきのラウンドでわかったはずだ。

 なのになんで自分から不利になる?

 まさか舐めプレイ?

 そんな馬鹿な。

 この大舞台の、しかも追いつめられた状況で、そんな余裕がどこから……!?


 無数のシミュレーションによって確かに像を結んでいたケージのイメージが、頭の中から雲散霧消した。

 壁際でオレを誘っているその男が、急に不気味な怪物のように見えてくる。

 夜の人類圏外で遭遇した《月の影獣(ルナ・スペクター)》よりも、今のケージのほうが、オレにとっては恐怖だった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




『ジンケ選手、攻める攻める攻める―――っ!! 自ら壁を背にしたケージ選手を、情け容赦なく攻め立てていきます!! ケージ選手、当然ながら防戦一方!!』


『このポジショニングでは最大の武器であるAGIをまったく活かせない。リーチで勝る槍のほうが絶対的に有利だ。ケージ選手もうまく捌いているけど……』


 捌ききれない攻撃が幾度となくケージにヒットし、じりじりとHP差が開いていく。


『一刻も早く壁際から抜け出さなければ、このまま決まってしまいます! いいのでしょうか、それで!?』


『どうなんだろう。解説として最悪な発言だと思うけど、わかんないよこんなの。何を考えてるんだ、あの子……』


 コノメタの言葉は、アリーナに集った全員の気持ちを代弁していた。

 ケージは一体何を考えているのか?

 それが万人の知るところとなったのは、《魔力回収》スキルによってじわじわと回復したジンケのMPが、必要十分と言えるほどにまで達した頃のことだった。


 ジンケの槍が稲光を放つ。


『《雷翔戟》ィィィ――――ッ!!!』


『まただっ!!』


 壁を利用した疑似《ブロークングングニル》。

 稲光を纏った槍に貫かれたケージは、したたかに壁に叩きつけられる―――


 直前に、くるりと体勢を入れ替えた。


 まるで猫のようだった。

 身体を捻ったケージは、背中から壁に叩きつけられるのではなく、足から壁に着地する(・・・・)

《雷翔戟》によって生まれた慣性が、彼を一時、壁に貼り付かせた。

 まるでトカゲのように――


 ジンケが愕然とそれを見上げる。

 手元に残った槍を彼が握り直した頃には、ケージは壁を蹴っていた。

 頭を下にしながらジンケの頭上まで飛び上がり――

 ――剣に紅蓮の炎を纏わせる。


『ぎゃ――』


『――逆《焔昇斬》!?』


 剣を下から上へと斬り上げ、傷口に炎を走らせる体技魔法《焔昇斬》。

 通常、対空技もしくは浮かし技として使用されるこれを、頭を下にした状態で発動する。


 するとそれは、そのときだけ、対空技から対地技へと変貌するのだ。


 天から地へ。

 鋭く斬り下げられた刃が、ジンケを脳天から斬り裂いた。

 その傷口に紅蓮の炎が走り、ダメージエフェクトの光芒が散る。

 クリティカル・ダメージ。

 ジンケのHPが一気に減る。

 ――だけでは終わらなかった。


 再びくるりと体勢を入れ替えたケージが、ジンケの背後に着地する。


『ああっ!? めっ、「めくり」成功ぉおおっ!!』


『ポジション逆転―――あっ!?』


 解説のコノメタが腰を浮かせた。

 ジンケの背後に着地したケージが、すかさず剣に風を纏わせたのだ。


 風属性、刺突系体技魔法《風鳴撃》。


『こっ、これはっ―――!?』


 次の瞬間より始まる展開を、アリーナの誰もが予想できた。

 なぜならそれは、前のラウンドで見たばかりのものと、極めてよく似た光景だったからだ。


 風と共に鋭く繰り出された刺突が――ジンケを壁に叩きつける。


()()()()()()ぞ―――!!』




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「かはっ―――!!」


 したたかに壁に叩きつけられながら、オレはケージの顔を見ていた。

 どうだ、と顔が言っていた。

 面白いだろ、と瞳が告げていた。


 どうしてだ、とオレは思う。


 勝ち負けを競うこの場で。

 少なくない賞金がかかったこの場で。


 あんたはどうして、そんなにもまっすぐな目ができるんだ?


 この大会の誰よりも、こいつはゲームを楽しんでいる。

 誰もが真剣に闘う中で、ただ一人こいつだけが! この大舞台を遊び場(・・・)にしている!


 オレには、どうしてそれができるのかわからない。

 勝ちたいと思わないのか。

 負けたくないと思わないのか。


 どうしてそんなに()()()()なまま、そんなに強くなれるんだ!


 かつて、ゲームセンターで重ねた記憶が、血を吐くように叫んでいた……―――


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