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オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
《RISE》激戦編――最強こそが試される

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第70話 プロゲーマー見習い VS MAO最強の男:瞳の輝きⅠ


「ジンケ選手、入場してください」


 スタッフの人に指示され、オレはステージの袖から出る。

 観戦スペースから注がれてくる無数の視線は気にならなかった。

 オレの意識は、反対側の袖から歩いてくる男だけに向いていた。


 ステージの中央で向かい合い、オレはそいつの顔を見る。

 背丈はオレと同じくらいで、あえて意識しなくたって、自然と目が合った。


「……あ」


 と、ケージは声を漏らす。

 さすがに気付いたか。

 オレが手を差し出すと、ケージは申し訳なさそうな様子で手を握ってくる。


 わかってる。

 オレだって出場選手全員の顔を覚えているわけじゃない――だってのにオレが覚えられてないからって怒るのは筋違いというものだ。


 だから。

 オレは――ケージの手を全力で握り締めた。


「…………っ!?」


 ケージは無言で驚いた顔をする。

 その顔を見据えて、オレは他の誰にも聞こえないように言った。


「――次に握手するとき、あんたはどのくらい力を籠めるんだろうな」


 手を離す。

 緩く握られていたケージの手は、オレが力を緩めただけでするりと解けた。


 1回戦、対戦相手のレバが試合後の握手に籠めた力を、オレは覚えている。

 本気で戦った人間の思いがどんな風に籠もるのか、オレは知っている。


 これはオレのわがままだ。

 それでもあえて、心に決める。


 ――もう一度ここで会ったとき、あんたに絶対言わせてやる。

 勝ちたかった、って――その手の力で。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




『さあ! ジンケ選手VSケージ選手! 注目の一戦です! この二人は双方とも予選を1位で通過しています。優勝候補、と呼んでもいいでしょうか、コノメタさん!?』


『そうだね。この二人は間違いなく優勝候補の一角だろう。どちらかがベスト8で終わってしまう、というのは、実にもったいない話だ』


『その辺りはトーナメント形式のサガですからねー! 決勝戦にも劣らない試合を期待しましょう!

 さて、そろそろスターティング・スタイルが発表されます! コノメタさん、どう予想されますか?』


『そうだね……。ケージ選手のほうは、ここまで来たら今度も《オールラウンダー》だろう。たぶん出す順番を完全に決めてる感じだね』


『一つの手ですよね。惑わされることがなくなりますから』


『対するジンケ選手は……《ブロークングングニル》以外、かな。プラム選手との試合を見れば、ケージ選手の《オールラウンダー》が、《ブロークングングニル》にメタを張っていることは明確だからね』


『つまり《トラップモンク》または脅威の新スキルを引っ提げて登場した《ビースト拳闘士》! 未だ負けなしのケージ選手に対し、果たしてどちらで挑んでくるのか―――!?』


 闘技場に立ったジンケとケージの姿が変わってゆく。

 ケージのほうは、右手に片手剣を握った。

 対してジンケは―――


『……ありゃ』


『おおーっとぉ!?』


 槍だった。

 ジンケは槍を手に取った。


『《ブロークングングニル》だあああっ!! ジンケ選手、メタられているとわかっている《ブロークングングニル》を、あえて投入してきたああああああっ!!!』




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 賢い選択じゃないことはわかっている。

 でも、タネは割れているのだ。

 だったら……オレは逃げられない。

 逃げたくない。

 完膚なきまでに勝利するために、オレは少しだって背を向けない―――!


 頭上でラウンド開始のカウントダウンが始まった。

 正面に対峙するケージは、かすかに口角を上げているように見えた。

 無謀な奴だとでも思っているのか?

 無謀かどうかは、すぐにわかる……!


 ―――ラウンド1、開始。


 ダッと正面のケージが超スピードで動いた。

 対峙してみてさらにわかる、恐ろしい速さ。

 ほとんど予備動作がわからなかった……! スムーズすぎて、一気に視線を振り切られる!


 だが、関係なかった。

 目が追いつかないくらいで、見失いはしない……!


 ――右。


 オレは確認もせずに右に槍を振るう。

 そこにケージがいた。


「うおっと!」


 ケージが焦ったような声を漏らして足を踏ん張り、ギリギリでオレの槍を避ける。

 避けるのか。

 オレの『読み』では当たるはずだったんだけどな……!


 オレが思っているより、向こうがオレの能力を高めに見積もっているのだ。

 だから、オレが反応するのに反応することができた。


 頭の中にある仮想のケージのステータスを上方修正する。

 そして、今一度『読み』を走らせた。


 どれだけのスピードでも、先読みした未来を追い抜くことだけはない……!




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




『反応したああ――――っ!!! ジンケ選手、ケージ選手の超スピードに見事反応しましたあああ――――っ!!!』


 ジンケが見せた超反応に、観客席が湧いていた。

 その中でただ一人、髪をツーサイドアップにしたやたらと可愛らしい少女が、「あれっ」と呟く。


「これって……えーと……」


 バーチャルギア越しに闘技場を――ジンケの動きを見下ろしながら、少女はトントンとこめかみを叩いた。

 それは、彼女が『読み』を入れるときの仕草だった。


 数秒後、彼女はぽつりと呟く。


「……あ、やばい」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 右に回ってきたケージを薙ぎ払いによる牽制で追い払った。

 ケージはあっという間に反対側に回ってきたが、オレはぐるりと身体を旋回させて、やはり薙ぎ払いで牽制。

 槍の穂先が、ケージの残像を斬り裂いた。

 本体は―――


 オレは頭上を見上げる。

 飛び上がったケージが、そこで剣を振り上げていた。

 それも読んでいる。

 槍を両手で跳ね上げ、地面に垂直な半円を描くようにして振るった。

 どれだけAGIがあろうが、足の着かない空中では時速0キロだ。

 槍の柄がケージの横っ腹を叩く。


 ――瞬間だった。

 ケージが、オレの槍を脇で挟むようにした。

 手でがっちり槍を掴み、吹き飛ばされるのを防ぐ……!


 が。


「―――それも読んでるよ」


 それくらいのことはやる奴だって、オレはもう知っている。

 ――バリィッ!!

 ショートカットを発動した。

 ケージが掴まったままの槍が雷に覆われる。


「……っ!?」


 ケージの表情が驚愕に歪んだ。

 オレは思わずにやりと笑い、システムにアバターを委ねる。


「吹き飛べ!」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




『らっ、《雷翔戟》ぃ――――――っ!!!』


 実況の星空るるが、腰を浮かせながら叫んだ。


『ケージ選手がジンケ選手の槍に掴まって攻撃をいなした――と、思った瞬間ッ! すかさずジンケ選手、《雷翔戟》を発動! なっ、なんと、ケージ選手ごと槍を壁に向かって投げ飛ばしましたあああ――――っっ!!!!』


 闘技場の端の壁にケージごと飛翔したジンケの槍は、ケージの身体をしたたかに壁に打ちつけたのち、その足下に転がった。

《ブロークングングニル》の連続投擲条件はまだ整っていない。

 槍を手放すという極大なリスクと引き替えにジンケが手に入れたのは、超スピードを武器とするケージの、大きすぎる隙だった。


『《雷翔戟》による麻痺と壁に激突した衝撃により、ケージ選手、スタン状態に! この隙にジンケ選手が距離を詰める―――っ!!』


 迷いのない足取りで間合いを詰めたジンケは、地面に転がった槍を拾う。

 そして、直後。

 その槍を炎が纏った。


『ああーっ!? 壁際での《炎翔戟》!! こっ、これはっ―――!?』


『疑似《ブロークングングニル》だッ!!!』




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 炎を纏いながら投げ放たれた槍は、ケージを壁に叩きつけて、そこで飛翔をやめる。

 その柄は、まだオレの手の内にあった。


 そうだ。

 壁際で、かつ相手との距離がゼロ距離に近いとき、《ブロークングングニル》の裏技めいた仕様を利用しなくても、槍は手元に残る。

 七面倒くさい準備をしなくても、投擲系魔法を連発できるってことだ―――!!


 槍が紫電を纏い、再びの《雷翔戟》がケージを貫く。

 その麻痺が終わらない間に、二度目の《炎翔戟》が火を噴いた。


 壁際に追いつめられたケージに、回避の手立てはない。

 必殺級の威力を三度も連続で浴びて、ケージのHPは一気に消し飛んだ。


 オレは、この男のHPが尽きるのを、初めて見る。

 勝利の歓喜が全身を包んだその瞬間――

 オレは見た。

 見てしまった。


 ケージの目が、無邪気に輝きながら、オレを見ているのを。


 オレの第1ラウンド勝利が宣言されてからも、オレの網膜には、その瞳の輝きが焼きついていた。


遅れてすいません!

来週はいつもの時間に2話更新のつもりです。

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