表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
《RISE》激戦編――最強こそが試される

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/101

第65話 プロ見習いは拳を解き放つ


『予選に続いて、またしてもサタ選手に黒星スタートを喫してしまったジンケ選手! 第2セットはどう巻き返してくるか!? ――っと、両者スタイルが出揃ったようです!』


『サタ選手はまた《バインドプリースト》だね。もしかしたらあのスタイルが、ジンケ選手対策を一手に担っているのかもしれない』


『対するジンケ選手は――おっと!』


 アリーナ中がざわめいていた。

 ジンケの得物が、槍ではなかったからだ。

 どころか、彼はその手に何も持っていない。

 徒手空拳に、薄手の手袋を着けただけの姿――

 これは、すなわち。


『ジンケ選手、クラス《拳闘士》!! ここで第3スタイルを見せてきたああああっ!!』


『ここで出してくるか……』


『おっと、コノメタさん! あのスタイルをご存じなのですか!?』


『私は開発には関わっていないけどね、話には聞いてるよ』


『開発……ということは!?』


『《ミナハ型最速拳闘士》じゃないよ。《ブロークングングニル》《トラップモンク》に続く、彼謹製の新スタイルで―――』


 コノメタは口元に笑みを刻んで続けた。


『―――おそらくは、今後、彼のメインスタイルとなるものだ』




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 会場の隅でグラスモードのバーチャルギアを着け、闘技場を見下ろしていたミナハは、かすかに頬を紅潮させていた。


「……やっと……やっと、見せてくれるのね……!」


 喧嘩別れになったあの夜から、ずっと封印されていた拳。

 それこそが、ミナハを《闘神》へと押し上げた原風景。

 ジンケ――否、《JINK》の面目躍如となるリーサル・ウエポン。


 伝説の夜からおよそ2年。

《JINK》を伝説たらしめた拳が、久方ぶりにヴェールを脱ぐ。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




『《ミナハ型最速拳闘士》だったとしたら、《バインドプリースト》には有利とは言えません。そうですね、コノメタさん?』


『うん。デバフや《バインド》で、頼みの綱の足を潰されてしまうからね。本家本元のミナハちゃんだったら話は変わるだろうけど』


『ジンケ選手のスタイルはまったくの新型ということですが、《拳闘士》というクラスの持ち味がスピードにあることは変わりません! ジンケ選手、果たしてどう戦っていくのか―――!?』


 数千からなる観客たちが見守る中、試合は始まった。

 サタはジンケをデバフ状態、あるいは毒状態にするための詠唱を開始。

 対するジンケは―――


第五ショート(フィフス・)カット発動(ブロウ)!』


 キーワードの詠唱と同時に、ピカッと輝きが放たれる。

 アクティブスキルの発動を意味するエフェクトだ。

 彼の背中に一瞬だけ透けた翼が出現し、すぐに消滅した。

 しかし、彼を鎧のように包み込む光が、後に残されている。


『ジンケ選手、開幕からスキル発動! しかし、今の見慣れないエフェクトは……!?』


『《虎に翼》だね』


『《虎に翼》!?』


『対人でもたまに使われる発動型(アクティブ)スキルさ――効果は自己強化(セルフバフ)。正確には、STR、VIT、AGIといったフィジカル面を強化する』


『セルフバフ、ですか!? それは――』


 サタがすかさずデバフ魔法を発動した。

 ジンケが纏っていた光は相殺されて消えてしまう。


『デバフ手段が豊富な《バインドプリースト》にはセルフバフは通用しません! ジンケ選手、一体どうするのか――!?』


『ふふふ……』


 ジンケは《拳闘士》特有の足の速さを使い、サタとの距離を詰めていった。

 しかしサタは魔法による牽制をうまく使って逃げ回る。

 そうするうちに、試合開始から30秒が経った。

 再び、ジンケの背に翼が瞬く。


『あっ! またです! 再びの《虎に翼》! しかし――!?』


 サタがすぐさまデバフを詠唱。

 ジンケが纏った光が輝きを減じ――


『――あ、あれ? 消えない! バフが相殺されきっていませんっ! これは一体……!?』


『《虎に翼》はただの自己強化スキルじゃない。……使()()()使()()()()()()()()()自己強化スキルなのさ』


『使えば使うほど効果を……!? そ、それでは!』


『《虎に翼》のクールタイムは30秒。30秒ごとに、ジンケ選手のステータスは雪だるま式に膨れ上がっていくというわけだ。つまり、時間をかければかけるほど有利になっていく。……《バインドプリースト》みたいな耐久戦仕様のスタイルへのメタ・スキルなんだよ』


 試合開始から60秒。

 3度目の《虎に翼》が発動され、デバフ魔法の効力は、せいぜいバフを半減させる程度のものでしかなくなった。

 向上したジンケのフィジカルを、サタは完璧には捌ききれない。

 ジンケの拳が当たるようになり始めた。

 そして――


『90秒おおおお!! 4度目の《虎に翼》です!!』


 目映いばかりのバフの光は、もはやどれだけデバフをかかろうと焼け石に水にしかならない。

 制限時間は120秒。

《虎に翼》はこれで最後だが、残りの30秒を耐えきる手立ては、サタには存在しなかった。


『サタ選手ノック・アウト!! 第1ラウンド、勝者はジンケ選手ですっ!!』


『見事にハマったね。《虎に翼》は、受けに入った相手には滅法強いスキルなんだ。最初の1回が弱いし、ランクマッチじゃ制限時間の関係上3回までしか使えない……そのうえ、デメリットで体技魔法以外の魔法が発動できなくなっちゃうから、あんまり使われないんだけどね』


『なるほど! ジンケ選手が考案した新スタイルとは、《虎に翼》によって《拳闘士》が苦手とする耐久型のスタイルを克服したものなのですね!』


『……さて。果たしてそれだけかな?』


 第2ラウンドが始まった。

 先ほどと同様にジンケが《虎に翼》を発動する一方、サタは開幕からアクティブに動く。


『サタ選手、攻めに転じます! プランを変えてきました!』


『《虎に翼》で押しつぶされるのを避けるためには、当然そうするしかない。幸い、新型の《バインドプリースト》は攻撃魔法で殴り勝つこともできるようになっているからね。……でも問題は、その程度のこと、ジンケ選手は最初からわかってるってことだ』


 サタは《バインド》でジンケの足を潰しながら、攻撃魔法で果敢に攻め立てた。

《拳闘士》はフィジカル面が大きく向上する代わりに、MDFを含む魔法面に下降補正が入る。

 サタの攻撃魔法によって、ジンケのHPは急速に削られた。


『ああっ! すごい勢いでHPが減っていくーっ!! やはり《拳闘士》! 魔法攻撃には紙のような耐久力です! このままでは……!!』


『――いいや』


 コノメタは笑っていた。


『ここからが見物だよ』




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




(勝てる! 今度こそ……!!)


 凄まじい勢いで削られるジンケのHPを見ながら、サタは自らを鼓舞するように心で叫んでいた。


(もう一度、同じことをすればいい! それだけで……それだけでっ……!!)


 しかし、彼は気付いていなかった。

 見えた光明にすがりつく、ということ。

 それによって、自分の視野が狭まってしまっていることに。


 ジンケのHPが、4分の1を割った。


(もう少―――)


 サタの思考が潰える。

 目の前で起こったことに、認識が置き去りにされる。


 ジンケの姿が――消失した。


「―――っえ?」


 疑問の声を漏らした、その瞬間。

 彼のこめかみを、硬く握りしめられた拳が襲った。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




『……は……』


 あれだけ闊達な星空るるの舌が、このときばかりは、束の間凍りつく。


『は……速いっ……! ジンケ選手! なんというスピードッ!! 目にも留まらないこの速さ……!! まるで《全振り》でもしているかのような……!!』


『いいや。もしアレがAGIに全振りした結果なら、あんな火力は出るはずもないさ』


 一発、ジンケの拳が入るごとに、サタのHPが抉られたように減少する。

 それもまた、まるでSTRに全振りでもしたかのような威力だった。


 ジンケの全身から、赤い煙のようなものが立ち上っていた。

《虎に翼》の光とも違う、まるで血煙のようなオーラ。

 それと共に、ジンケの瞳もまた、餓えた猛獣めいた輝きを放っていた。


『な……なんでしょうか、あのエフェクトは!? わたくし、見たことがありません!! あんな……まるで、手負いの獣のような……』


『ははは! まさに、だね! ……いやあ、本人たちは、大会前に公開するつもりだったみたいなんだけど、驚かせたほうが面白いかなと思って、私が止めたんだよね。ナイスリアクションありがとう、るるちゃん』


『あ、はい。それはどうも――って! そうじゃなくて! なんなんですかコノメタさん! あのエフェクトは!』


『さっき君が言ったとおり、《手負いの獣》さ』


『……はい?』


『予選から本戦までの間にジンケ君が発見した新スキルだよ』


『…………はいいいい――――――っ!?!?』


 観客たちが今日一番のざわめきを見せる中、ジンケはサタのHPを削りきった。

 それから、さらに2セットに渡って、ジンケはそのスタイル――《ビースト拳闘士》を使用し、サタのスタイルをすべて打ち破る。

 そうして、3回戦へとコマを進めてみせたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同じゲームを舞台とした作品
『灰色のリアルを塗り潰す無人島クラフト・プレイ』
前人未踏の無人島マップを、《クラフト》を駆使して攻略せよ!

『最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ』
小悪魔系の後輩とゲームしたりイチャついたりゲームしながらイチャついたり。

マギックエイジ・オンライン設定資料集
設定資料集。順次加筆予定。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ