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オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
《RISE》激戦編――最強こそが試される

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第38話 プロ見習いは気合いを入れる


「じゃ、ここで」


 対戦室の前まで来て、オレはリリィに言った。


「やっぱりわたしも入っちゃダメ?」


「ダメ。さすがに集中したいんだ」


「わたしがいると集中乱れる?」


「乱れる」


「どうして?」


「…………言わせんなよ」


 ふいっと顔を背けると、リリィは少しだけ嬉しそうな声で、


「わかった。頑張って、ジンケ」


 そう言って、オレを対戦室へと送り出してくれた。


 ひとり対戦室に入ったオレは、大モニターの前に置かれたソファーに腰掛け、息をつく。


「……ふう」


 静かだ。

 対戦室には誰かしらと一緒に入ることが多かったから、余計にそう感じる。


 コノメタやニゲラは、チームメイトとして練習に付き合ってくれた。

 リリィもマネージャーとして、仲間として、……そして恋人として、オレを支えてくれた。


 しかし今。

 ここにいるのはオレ一人。


 ここからは、たった一人での闘いになるのだ。


 ホロ端末を操作して、正面の大モニターを点ける。

 と、そこに映ったのは、《RISE》の中継配信だった。

 見覚えのある女性キャスターと、初めて見る男プレイヤーとが並んでいる。


『配信をご覧の皆さん、こんにちは! こちらからは《RISE》マギックエイジ・オンライン部門オンライン予選、DAY1の模様をお送りします!

 実況はわたくし、eスポーツキャスター星空るる! 解説は――』


『――《Geneus(ジーニアス)Legion(レギオン)》所属、プロゲーマーの《ホコノ》だ。見知り置こう』


 渋い声で名乗ったのは、これまた渋い着流しを着た男だった。

 固そうな黒い髪を雑に頭の上で結っている。


「サムライだ……」


 それ以外の印象が湧いてこなかった。

 ジャパニーズ・サムライ……。


『《RISE》はご存じの通り、賞金総額3000万円を超える、国内最大級のeスポーツイベントです! マギックエイジ・オンライン部門では、優勝者には100万円、準優勝者には50万円の賞金が与えられます! これは魅力的ですねえ、ホコノさん!』


『金に目の眩んだ者に真理は見通せぬ。本質は刃を打ち合わせる刹那にこそ見える』


『そうですね! 賞金ばかりに囚われず、選手たちには楽しんでプレイしていただきたいです!』


 すげえ。

 あの女性キャスター、当たり前のように翻訳した。

 っていうか、あのサムライが解説で大丈夫なのか、本当に。


『現在、予選の準備が進んでおります。試合が始まり次第、こちらでランダムに試合を選び、実況解説を致します。残念ながらすべての試合を配信することはできませんが、ぜひ最後までご覧いただければと思います!

 というところで、ホコノさん。本大会にはプロも何人か出場していらっしゃいますが、ホコノさんはなぜ出場を見送られたのでしょうか?』


『知れたこと。あの女が出ていない』


『あの女? って、皆さんご存じだと思いますけど(笑)』


『我が刀はあの女――コノメタの血を求めている』


 コノメタ?

 って……あのコノメタ?


『コノメタよ。もし見ているのならば、首を洗っておくがいい。《選手権》にて、貴様を我が刀の錆としてくれよう』


『コノメタ選手ーっ! 見てますかーっ!? いい加減ラブコールに応えてあげてくださーいっ!!』


 なんだこれ。

 コノメタの奴、あのサムライに付きまとわれてんの?


「なんて名前だっけ。ホコノ? ホコノねえ……。―――ん?」


 ホコノ。

 なんだ?

 その名前、聞き覚えが……。

 確かどっかで―――


「あっ」


 思い出した。

 ホコノって、そうか。

 あいつ……!


「《名古屋のホコノ》……! 《第六天魔王》!」


 懐かしい異名を、オレは口にする。

 遡ること3年ほど前。

 オフラインVR格闘ゲーム全盛期に、日本中を馳せた名前の一つだ。


 当時、決してメジャーとは言えなかった刀使いのキャラを使って、名古屋のゲームセンターで頭角を現し、全国大会でも華々しく活躍してみせたプレイヤー。

 名古屋という立地と、刀使いというキャラクターから《第六天魔王》の異名を取った猛者!


《名古屋のホコノ》。

 ゲームセンターから生まれた現代の侍。

 ニゲラ風に言えば、ワンダリング・ビーストの一人……!


 そうか……プロゲーマーになってたのか。

 そっち方面の情報は意図的に遮断してたから、全然知らなかった……。


 ちなみに、第六天魔王ってのは織田信長の自称で、織田信長は今で言う名古屋城で生まれたらしい。


「コノメタの奴……ホコノとどういう関係なんだ?」


 口に出してみると、コノ(・・)メタとホコノ(・・)で名前もなんとなく似てるし。

 ますます謎だな、あいつ……。


 と、首を捻っていたところで、メッセージの着信があった。

 大モニターに映した配信で、キャスターの星空るるも言う。


『では、お約束の流れも終わったところで、間もなく1回戦が開始される模様です!』


 着信したメッセージは、1回戦の対戦相手の名前とIDを報せるものだった。


「やるか……!」


 オレはソファーから立ち上がり、奥の扉に向かう。

 いつも入るランクマッチ・ルームではなく、右にあるプライベートマッチ・ルームへ。


 予選リーグは全7回戦。

 その中でより勝利した16人が、本戦への切符を手にする。


 128人中の16人だ、さほど狭き門ってほどでもない。

 1度や2度の敗北は許容されるだろう。

 しかし、当然ながら。

 負けるつもりで闘いに臨む奴が、プロゲーマーなんて名乗れるはずもない。


 勝った奴は勝った奴と、負けた奴は負けた奴と組み合わされるのが、このリーグ戦だ。

 勝ち続けている奴は勝ち続けている奴と当たる。

 そしてそのたびに片方が負けて、全勝ではなくなってしまう。

 1回戦終わるたびに、全勝者は半分になり――

 ――7回戦が終わった時には、たった一人になっているのだ。


 たった一人の全勝者。

 無傷の予選1位。


 目指すさ、当然。

 285回勝つのに比べれば、7連勝なんて楽勝だろ?




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 EPSのVRゲーミングハウス。

 ニゲラがそのリビングのソファーに座り、モニターに映したRISE配信を眺めていると、銀髪のメイドが帰ってきた。


「あら。おかえり、メイド。アイツを送ってきたのかしら?」


 リリィはこくりとうなずいて、リビングを見回した。


「コノメタさんは?」


「逃げちゃったのだわ。見たくないものが画面に映ったとかで」


 にやにや笑いながら、ニゲラは配信に映ったサムライ風の男を見る。

 いつも飄々としてつかみ所のないコノメタにも、弱点はあるということだ。


「シルも今日が予選だし、今いるのはアタシだけ。座る?」


「その前にお茶淹れる」


「ありがと。気が利くわね」


 ジンケへの入れ込みぶりを除けばリリィの仕事ぶりは大したものだ。

 見た目通りのメイド仕事だけではなく、ジンケやニゲラなど一部選手のスケジューリングまで担当している。


「ホンット、人目はばからずイチャつくのだけどうにかなればねえ……」


「何か言った?」


「なーんにもー?」


 リリィが紅茶と茶菓子を持ってきて、ニゲラの隣に座る。

 紅茶の本場たる英国育ちのニゲラには、MAOの紅茶はかなり物足りない。

 大抵が、MAOの公式スポンサーになっている企業の商品を再現したもの――つまり出来合いのものばかりだからだ。

 だが、どんなトリックを使ったのやら、リリィが淹れた紅茶だけは彼女の口にも合うのだった。


「こういうのって、アナタ、どこかで経験があるの?」


 紅茶で唇を濡らしてから、ニゲラは隣のリリィに訊いた。

 リリィは首を横に振る。


「家事は自分でしてるけど。こういうのは、最近覚えた」


「覚えた? 物覚えがいいのね」


「うん。よく言われた」


 自分で用意した茶菓子を、リリィは遠慮なくもぐもぐ食べる。


(よく言われ……た?)


 どうして過去形なのだろう――と一瞬よぎった疑問は、それ以上の興味によって押し流された。


「アナタもやってみたらいいんじゃない、対人戦? 確か、アイツをMAOに誘ったのはアナタなのよね? 案外、アイツより強くなっちゃうかもしれないわよ?」


 けしかけるように言ってみると、リリィは不思議そうに首を傾げる。


「それは、ない」


「……ない?」


「有り得ない」


 断言だった。

 1+1は2だと言うかのような、予断の余地のない断言だった。


「アナタ……」


 何事もなかったかのように再びもぐもぐとやり始めたリリィに、ニゲラは違和感を覚えたが、


「あ、始まった」


 モニターの中で、対戦が始まった。

 リリィの視線が上がり――

 対戦者の名前を確認するなり、すぐにお菓子に目を戻す。


 配信に映ったのは、ジンケの対戦ではなかった。


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