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オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
《RISE》激戦編――最強こそが試される

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第33話 プロ見習いは新たな境地を求められる


「《RISE》は総合eスポーツイベントの名の通り、いくつかのジャンルのゲーム大会が同時開催されるイベントでね。そのひとつに、今回はMAOが選ばれているんだ」


 見せられたページをスクロールして、オレはイベントの概要を読んでいく。


「VR、非VR……FPS、MOBA、それに……あ、デジタルTCGもあるのか」


「シルちゃんも出るよ」


「ん」


 コノメタの横に座る裸に青いツナギの(ように見える)シルがVサインした。

 相変わらずチョコスティックをもそもそしながら仮想のカードを握っている彼女は、EPSデジタルカードゲーム部門所属のプロゲーマーである。


「最大の特徴は、国内大会の割に賞金額がデカいこと」


「へー」


「賞金総額は3000万円くらいかな」


「さんぜっ……!?」


 3000万!?


「……こ、高校生の身には余りすぎる額なんだが……?」


「確定申告が必要になっちゃうね」


「そういう問題か!?」


「まあ複数ある部門の優勝と準優勝の賞金を全部足した額だから、3000万がまるっともらえるわけじゃないけど」


「そ、そうだよな……」


「MAO部門の優勝賞金は100万円だね。ギリギリ確定申告いらず!」


「100万……」


 それにしたってバイトすらしたことのない高校生には及びもつかない額だ。

 本当に仕事としてプロゲーマーをやっていくなら、この程度の額でビビってる場合じゃないんだろうが。


「ちなみにデジタルTCG部門の優勝賞金は500万円だよ」


「ん!」


 サムズアップするシル。


「5倍って相当だな。その格差はなんなんだ?」


「まあぶっちゃけ競技人口の差だね。MAOはまだまだ国内の展開が中心だし、アグナポットで対人戦をやり込んでいるのだってプレイヤーのほんの一部だ。

 運営も本格的な海外展開を準備してるとは言ってるんだけどねえ、果たしていつになることやら……」


「そういや外国人ってあんまり見ねーな……」


 ニゲラくらいか?


「今時のオンラインゲームには優秀な翻訳機能が付いてるからね。仮に会ってたとしても気付かないよ」


「もしかしてニゲラ先輩も実は英語喋ってんの?」


「うんや。あの子はもともと親日家で、きっちり日本語を勉強してこっちに来てるんだよ」


 えっ……?

 ってことは、ジャップジャップ言ってる普段のアレは、日本という国そのものに対するツンデレなの……?


「ともあれ、シルちゃんがメインに活動してるデジタルTCGは、全世界でプレイヤーが何千万人といるトンデモゲームだから、賞金も高めなんだよ。ぶっちゃけスポンサーの集まりが全然違う」


「ううむ……。MAOはまだ発展途上なんだな」


「発展途上なのか、ここがピークなのかは、プロゲーマー(わたしたち)にかかっていると言えるだろうね」


 なるほどな……。


「で、だ」


 コノメタは前傾姿勢になった。


「君にはこの大会に出てもらうわけだけど、問題が一つある」


「問題? 出場条件とかか?」


「オープン大会だから条件はないよ。君にとっての問題は、この大会のルールだ」


「ルール……?」


 オレはページを操作して、ルールが書いてある場所を探す。


「えーっと……これか。

 ん? 予選と本戦でルールが違うんだな」


「うん。それに、予選はオンラインだけど、本戦はオフラインだよ。リアルで会場に集まってやる」


「ふうん……。じゃ、予選のルールは……。

 2ラウンド先取を1本として2本先取……」


 まあこれはわかる。

 それと……?


「…………《ラストクラス・スタンディング制》?」


 なんだ、このやけにカッコいい横文字は。


「それだよ。《RISE》は予選から本戦に至るまで《ラストクラス・スタンディング》なんだ」


「だからなんだよ、そのカッコいいのは。ルール名?」


「だろうとは思ったけど、君、びっくりするくらい勉強してないね」


「ランクマで忙しかったんだよ!」


 1位になれとか突然言い出すからだろうが!


「《ラストクラス・スタンディング》はMAO対人戦のルールの一つだよ。

 ちなみに訊くけど、もし今すぐ大会に出場するとしたら、やっぱり君は《ブロークングングニル》を使うの?」


「まあ……今すぐってことだと、そうなるだろうな」


 実戦レベルで使い込んでるスタイルはそれだけだ。


「それじゃあ、もしそのスタイルは使っちゃダメって言われたらどうする?」


「え? ……まさか」


「それが起こりうるルールだってことさ」


 コノメタは右手の指を2本立ててみせた。


「《RISE》では、大会前に2種類のスタイルを事前に登録する。このとき、2種類のスタイルはどちらも異なるクラスでないといけない。

 そして、試合のときは、1本終わるごとに、次の試合で使用するスタイルを登録した2種類から選ぶことができる。

 ただし――」


 2本立てた指のうち、1本を折る。


()()()()()()()()使()()()()()()

 お互いに用意した2種類のスタイルを潰し合い、使えるスタイルがなくなったほうの負け。残っていたほうの勝ちってわけ」


 ……だから《ラストクラス・スタンディング》。

 最後まで立っていた奴が勝つルール。


「この逆で、勝ったスタイルが使えなくなるルールは《コンクエスト》って言うんだけど、そっちと違って、2種類の片方は捨てて、もう片方だけで勝ち続けるっていうことも、できると言えばできる。

 だから《ブロークングングニル》だけで優勝することだって、理論上は可能だよ。

 可能だけど……実際、やる? って話」


 コノメタは苦笑して言った。

 オレも苦笑する。


 もし1ヶ月前のオレだったら、それでもいいと言っていたかもしれない。

 VRゲームの実力に関しては、ブランクがあったとはいえ、やっぱりそこそこ自信があった。


 でも、あの8月。

 数百試合も闘い続け、相当数の敗北も重ね、月末にはほとんど半泣きになっていたあの8月で、オレは嫌というほど知った。


 昔取った杵柄だけで勝てるほど、このゲームは甘くない。


「もうひとつ、作れってことだな。使えるスタイルを」


「その通り」


 コノメタはにやりと笑った。


「私としては、君の《拳闘士》を見てみたいんだけどね?」


「……………………」


 ほんと、どこまでわかって言ってんだろうな、こいつは。


「《拳闘士》じゃ、《ブロークングングニル》と闘い方がちょっと被るだろ。どっちも近接型だ」


「言うほど被らないと思うけどねえ。まあいいや。じゃあウィザード系に手を出すのかい?」


「そうだな……」


 最初に槍を選んだときから、いつかは魔法職に手を出そうとは思っていた。

 接近してものを傷つけることにトラウマがあったからだ。

 今はある程度克服できてるとは思うから、魔法職に拘る必要はないが……。


「……いろいろ試してみる。槍との相性もあるしな」


「だね。スタイルの登録期限にはまだもうちょっとあるから、ゆっくり決めればいいよ。相談があれば私やニゲラが乗るからさ」


「ああ」


「じゃ、私はこれで!」


 コノメタはすたすたとハウスを出ていった。

 慌ただしい奴である。

 一所に留まっているのを見たことがない。


 オレはソファーの背もたれに体重を預けて、天井を仰いだ。

 新しいスタイルか……。

 どうすっかな~……。


「んああああああああああああああああ――――っ!!」


 突然の奇声に驚いて正面を見ると、シルがまたソファーの上をゴロゴロしていた。

 いったい何があったんだ……。


「……ふー……」


 あっという間に落ち着きを取り戻して、粛々と新たなカードを握るツナギ女に、オレはふと話しかけてみる。


「なあ」


「んー?」


 シルはカードから目を離さないまま応じてくれた。


「シル……は、大会とか、いっぱい出たことあるのか?」


「んー」


 こくり。

 うなずく。


「じゃあ、いろいろ教えてくれよ。大会に向けてやるべきこととか、気を付けるべきこととか……」


「んー……」


 首を捻った。


「ひひほひはへる」


「え?」


 チョコスティックをくわえたまま喋るな。


「みふぃをしはべる!」


 しかしシルは諦めず、あくまでチョコスティックをくわえたまま言い直した。

 えーと……?


「……道を調べる?」


「ふんふん!」


 こくこく。

 2回うなずいた。


「それは、大会の会場への道をってことか?」


「ふんふん」


「……一応訊くけど、なんで?」


「みゃよう」


 迷う。

 今度はすぐわかった。


「……それはゆゆしき問題だな」


「ふーん……」


 シルは神妙な顔で深く頷く。

 彼女的には、大会出場に当たってとても深刻な問題らしい。


「うん……なんか……ありがとうな」


「ん!」


 サムズアップ。


 ……どうやら訊く相手を間違えたらしい。

 でも、案外馬鹿にならなそうなアドバイスの気もするので、頭の隅にメモしておくことにした。


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