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オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
ランクマッチ攻略編――槍すり合うも多生の縁

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第27話 プロ見習いは少女と槍で語り合う


 ラウンド2。

 武器耐久値、MP残量、共にプラムのほうに分があった。

 だからたとえ、《JINKE》との間に誤魔化しがたい力量差があったとしても、このアドバンテージを丁寧に利用すれば、勝利は揺るぎない。

 そのはず。

 そのはずだ。


(勝てる……勝てる……勝てる……!)


 逸る心を抑えながら、プラムはラウンド2に挑む。

《ブロークングングニル》の発動準備のための体技魔法は、さっきの半分も必要ない。

 今度も《JINKE》より先に、勝利の準備が整う。

 勝てる。

 3ラウンド目はない!


「くっ……!」


 再び《JINKE》と槍を交わし始めたプラムは、すぐに違いに気が付いた。

 強くなってる。

 ……いや……。

 怖くなってる(・・・・・・)


 明確に殺しに来る攻撃が多い。

 さっきまでとは別人のように、積極的に攻め立ててくる。

 それが肌感覚として、プラムに『怖い』と思わせていた。


 動画で見るのと実際に闘うのとでは、こんなにも違うのか。

 まるで猛獣と対峙しているかのようだった。

 ギラギラとした牙を見せつけられているかのような、本能的な恐怖があった。


「う、ぐっ……!」


 耐えろ。

 いま有利なのは自分だ。

 勝てるのは自分だ!


(見せてやる……!)


 プラムは槍を操りながら強く念じた。


(見せてやる、見せてやる、見せてやる! あたしの強さを……!!)


 準備が終わる。

 しかし、同じ轍は踏まない。

 最後の体技魔法を牽制に使い、後退に合わせて深く踏み込まれるのを回避した。


《JINKE》の槍のリーチ外へ。

《JINKE》のほうは、まだ《ブロークングングニル》の準備を終えていない。


 これで。

 勝ちだ!


 プラムの手から《雷翔戟》が放たれる。

 轟音と稲光を帯びて飛翔する槍が、《JINKE》の胸へと吸い込まれていき――


「――え?」


 止まった。

 飛翔した《雷翔戟》の穂先が――

 ――《JINKE》の槍の柄に、防がれていた。


「うそっ……!?」


(あんなに細い槍で、《雷翔戟》の着弾点を、正確に……!!)


 有り得ない動体視力。

 何より度胸。

 逃げたくなるだろう、普通なら……!!


「――ッ落ち着け……!!」


 あんなのは曲芸に過ぎない。

 二度も三度もできるものじゃない。

 できたとしても、槍のほうが耐えられな――


「あ」


 手元に戻ってきた槍を掴んだそのとき、プラムは《JINKE》の真の狙いに気付いた。


《JINKE》が、槍を投擲する体勢に入っている―――!!


 先ほどの行動は、苦し紛れに《雷翔戟》を防御しただけじゃない。

 自分の槍の耐久値を削るのに利用したのだ。

 それによって、本来耐久値調整に使われるはずだったMPが温存された。


 1ラウンド目で稼いだはずのアドバンテージが――

 ――今この瞬間、完全にひっくり返ったのだ。


(そっ、それでもっ……!!)


 こっちも再び《雷翔戟》を撃てばいい。

 ここで勝てばそのまま勝ちなのだから……!!


 プラムはショートカット・ワードを唱えた。

 アバターをシステム操作に委ねようとして、


「――あ」


 わずか、コンマ数秒のことだった。

 しかし、このゲームにおいて、それは永遠にも等しい長さだった。


《雷翔戟》のクールタイムが、まだ終わっていない。


「しまっ――」


《JINKE》の手から《雷翔戟》が放たれる。

 今更回避するような余裕は、プラムには存在しなかった。



【ROUND 2:YOU LOSE】




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 1ラウンド目の時点で、プラムのショートカット構成はすべて知れた。


 5枠のショートカットのうち、3つは《プラム式》で使う初級体技魔法。

 1つは《反治の呪》。

 そして最後が《雷翔戟》。


 ここから何が読み取れるか?

 初級体技魔法を3つも用意したのは、クールタイムでコンボが途切れるのを嫌ったからだ。

 でなければ、大して威力もない初級体技で3つも枠を使う理由はない。


 その心は。

 体技魔法を連鎖させて、何が何でも《ブロークングングニル》の発動まで持っていきたい。

 とにかく最速で《ブロークングングニル》をぶっ放してしまいたい。


 その気持ちは、槍を交わしている間にも強く伝わってきた。

 プラムは、ほとんど体技魔法の回数を稼ぐことしか考えていなかった。

 その思考が透けて見えたから、後退のタイミングに前ステップを合わせるのも容易だったのだ。


 換言しよう。

 プラムは、自分のしたいことを相手に押しつけるタイプのプレイヤーなのだ。


 とにかく自分の戦術ありきで、それを遂行することを重要視する。

 相手のことばかり見て闘うオレとは、真逆のタイプと言えるだろう。


 コノメタの言う通り、ストリーマー向きではあるんだろうな。

 大人しそうな外見の中に封じた、溢れんばかりの自己顕示欲が、彼女にそういうプレイをさせるんだろうから。


 でも、それだけで勝てるほど甘くない。

 ゲーマー(オレたち)は甘くない。


 さあ、プラム。

 そろそろ本気を見せてくれよ。


 そっち(・・・)にばかり構ってないでさ―――




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 子供の頃から、ゲームが友達だった。

 液晶画面を覗き込んで、CGで作られたキャラクターたちと戯れることが、何よりの楽しみだった。


『良識のある大人』なら、苦言を呈するのかもしれない。

『社交的な優等生』なら、眉をひそめるのかもしれない。


 けれどプラムは、今をもって、そういう子供だった自分が、それほど間違っているとは思っていなかった。


 だって。

 苦言を呈する大人も。

 眉をひそめる優等生も。

 何もしてはくれなかった。


 ただただ否定してくるばかりで、ゲームみたいに、何かを与えてくれることはなかった―――


 ……ああ、甘えた我がままだとわかっている。

 本当に何かが欲しいなら、自分から動き出さなければならないのだ。

 誰かに与えてもらうことを待っていたって、得られるものなんて何もないのだ。


 だから、憧れた。

 ゲームで、たくさんの人に認められている人たちを。

 苦言を呈され、眉をひそめられるばかりのものだと思っていたゲームで、それでも多くの人たちを楽しませている実況者たちを―――


 自分がなるならこれしかない、と。

 そんな風に思ったのも、きっと甘えた考えだったのだろう。

 けれど、何の因果か、憧れた世界に片手が届いた。


 自分のプレイをみんなが褒めてくれる。

 自分のプレイをみんなが認めてくれる。

 誰も苦言を呈さない。

 誰も眉をひそめない。

 そんな世界に、あたしは―――――


〈■■■■■■■■■w〉

〈■■■■■!〉

〈■■■■■〉

〈■■■■■■■■■■■■〉

〈■■■■■■■■■■■■■■■〉


(…………あ、れ…………?)


 目が滑る。

 コメントが読めない。

 ただただ大量の文字が、スクロールして消えていく。


 でも、でも。

 きっと怒られてる。

 だって、あんな無様な負け方。

 せっかく先に準備を整えたのに。

 圧倒的に有利だったのに。

 クールタイムすら把握できてなくて。


(……なんで……なんで……?)


 負けるのなんて今更だ。

 なのになんで今だけ?


 コメント。

 読まなきゃ。

 あんなに欲しいと思ってたんだから。

 読まなきゃ、読まなきゃ、読まなきゃ……―――


 そう思っているうちに。

 ラウンド3が始まった。


(…………勝てばいいんだ)


 勝ちさえすれば、怒られる謂れはない。

 勝てばいい。

 今度こそ失敗せずに。

 無様なプレイを見せずに……!


「……ううっ!」


《JINKE》と槍をぶつけ合う。

 刺突すれば避けられ。

 横薙ぎにすれば弾かれ。

 大振りになった瞬間を咎められる。


(なんでっ……! なんでっ……!)


 やりたいことができない。

 全然うまくいかない。

 イライラが募る。


 どうして?

 フォロワーが増えてからは、こんな感じになったことなかったのに……!


 きっと、今もコメントは増え続けている。

 無様なプレイが嘲笑われている。


 うまくしないと。

 うまくしないと。

 うまくしないと。


 思いが募るごとに――

 ――逆に、動きは精彩を欠いていった。


 ああ、ああ、ああ。

 ダメだ。

 ダメだ、こんなのじゃ。

 せっかく見てくれる人が増えたのに。

 離れる。

 離れていってしまう。


〈〉

〈〉

〈〉

〈〉


 また逆戻りだ。

 数字に向かって喋っていたあのときに。


 ……でも。

 そっちのほうが、気楽でいいのかな?


「うっ……ぁあぁああああッ!!!」


 違う。

 違う、違う、違う!


 あたしが憧れた世界はここだ。

 たくさんコメントが来るこっちなんだ!


 あの憧れが間違いなんだったら。

 あたしは……何になればいいの?

 何になればよかったの?


 間違いなんかじゃない。

 間違いだったら困る!

 あたしの憧れた世界が、憧れに足る場所じゃなかったなんて―――


 ―――そんなの、認められるわけないよ!!


 プラムは我武者羅に槍を振り回した。

 暴れ(・・)

 無軌道な攻撃の一つが、《JINKE》の肩にヒットする。

 完全な偶然。

 プレイとしては無様の一言。


 なのに。

 プラムは見たのだ。


《JINKE》の口元が、楽しそうに笑ったのを。


(――え?)


 そうだ、と。

 それだ、と。

 頷きかけるような笑み。


 距離を取ろうとした《JINKE》を、ほとんど本能的に追いかけたプラムを、今度は《JINKE》のほうが暴れ(・・)て遠ざけた。


(どうして?)


 恐怖が募る内側と、無様さを増していく自分の動きにばかり行っていた意識が、《JINKE》の動きに向いていく。


 演武のように流麗な身体運び。

 三日月を描くように宙に残る槍の軌跡。

 見ているだけで、彼に備わった途方もない力量が伝わってくる。


 勝てるわけがない。

 そう思った。

 だけど。


 身体が動く。

《JINKE》の動きに、自分の動きが噛み合っていく。

 まるでダンスだった。

 手に手を取るように、槍と槍が交錯する。

 そのたびに、彼が主張するのだ。


 オレを見ろ。

 オレを見ろ。

 オレを見ろ。


 オレとお前が遊んでいる、このゲームを見ろ。


(……ああ)


 そうだった。

 すっかり、忘れていた。




(今、あたし、ゲームで遊んでるんだった)




 MP、充分。

 耐久値は―――


 プラムの槍と。

《JINKE》の槍が。


 同時に、魔法の輝きを帯びた。


 体技魔法と体技魔法が激突する。

 威力は相殺され、二人は弾かれ合い。

 しかし――

 最後の準備が、両者共に完了した。


 鏡合わせのように距離を取る。

 互いに槍のリーチ外。

 しかし、今だけは。

 その距離こそが、互いにとっての、必殺の間合いだった。



《雷翔戟》。



 二人の槍が、同時に稲光を帯びる。

 轟音が重なり。

 衝撃が激突した。


 投げ放たれた2本の槍は、正面から衝突して砕け散る。

 稲光の残滓が空気に散って、しかし二人には、欠片も届くことはなかった。


 ゆえに、無論。

 二撃目。


(――ストップ!!)


《JINKE》の手元に戻った槍が炎を帯びたのを見て、プラムはギリギリで自分を押さえる。

 あれは《炎翔戟》。

 2種類目の投擲体技だ。

 クールタイムに煩わされず、間断なく攻撃を連発するための……!


 ほんのわずかな差だ。

 しかし、クールタイムを待たなければならない分、プラムのほうがはっきりと出遅れる。


 やられた。

《ブロークングングニル》の撃ち合いになった時点で、プラムが圧倒的に不利。

《JINKE》は同系スタイルをメタってきている……!!


 プラムは活路を探した。

 ――避ける?

 無意味だ。

 1発目は避けられても、きっと2発目に捉えられる。

 ならば。

 勝ち筋は。


(一つしかない―――!!)


 勝利に至る道行きが、たった一つしか存在しないとき。

 実現性。

 確率。

 それら、本来なら計算に入れられるべき要素は、必然としてすべて無視される。

 そういう瞬間を、デジタルゲームという存在がこの世に生まれ出る遥か以前から、日本語ではこう呼んだ。


 ――勝負に出る(・・・・・)


 紅蓮の炎を棚引かせて撃ち出される《炎翔戟》。

 対してプラムもまた、槍に炎を纏わせた。

 それは、何の変哲もない体技魔法。

 炎と共に槍を大きく旋回させる技《炎旋》。


 初級体技である《炎旋》と、フィニッシュブローたる《炎翔戟》とでは、あまりに威力が違いすぎる。

 正面から激突し合えば、当然のこと、相殺すらも許されない。


 そう。

 正面から激突し合えば(・・・・・・・・・・)


 普段のプラムならば。

 そんなこと、思いつきもしないはずだった。

 自分にそんな曲芸ができる腕があるとは、想像だにしなかった。


 しかし。


 もしできたら、面白い(・・・)

 もしできたら、カッコいい(・・・・・)


 細い細い糸のような道しかないこの状況を―――

 ―――しかしプラムは、()()()()()()


 炎を纏った槍が、飛来する《JINKE》の槍を、横から(・・・)薙ぎ払う。

 ほんの数フレーム。

 火花が散った。

 プラムの手に激甚な衝撃が返り、槍を取り落としそうになったが、システムに制御された身体は、それを完璧に防ぎ切る。


《JINKE》の槍が、砕け散った。


 防げないなら、喰らう前に壊せばいい。

 当たり前といえば当たり前の、それがプラムの、唯一の勝ち筋―――


《フェアリー・メンテナンス》によって復活した槍を手に取って、プラムはすぐに投擲体勢に入る。

《雷翔戟》のクールタイムは終わっていた。

 もし今の曲芸めいたプレイに、《JINKE》が少しでも驚いてくれていたら。

 一瞬ではあるが、プラムが先んじる……!!


《雷翔戟》を始動させながら、プラムは正面にいる《JINKE》を見た。


 いなかった。


「―――え?」


 視線を。

 ほんの少し、下に向ける。


《JINKE》が、懐に飛び込んできていた。

 復活した槍に、稲光を纏わせながら。


 プラムは瞬時に悟る。

《雷翔戟》と《炎翔戟》の違い。

 それは、攻撃属性だけじゃない。


《炎翔戟》のほうが、()()()()()()()()()

 ゆえに、()()()()()()が高い。


《JINKE》の口元が、声もなく動きで語る。


 ――グッド・ゲーム(GG)


 超接近型。

《ブロークングングニル》。


 ただでさえ大威力の《雷翔戟》が、急所である心臓に突き刺さった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 プラムはマッチング・ルームに戻り、幾分かダウンしたランクを呆然と見上げていた。

 遠距離攻撃の手段であるはずの《ブロークングングニル》を、あえて接近して使う?


(そんなの……考えもしなかった……)


 でも、考えてみれば。

《ブロークングングニル》を、単に《クリティカルランサー》のフィニッシュブローとしてのみ捉えるのなら、接近して使おうが離れて使おうが構わない。

 どころか、接近して使うのなら、《クリティカルランサー》の本懐である、急所を狙うことだって可能だ。

 本来なら一撃でHPを吹き飛ばすことまではできない《ブロークングングニル》が、本当の意味での『必殺技(フィニッシュブロー)』に早変わりするのだ。


 けれどプラムは、リーチ外にアプローチする手段が弱い槍という武器の欠点を補うために、《ブロークングングニル》を運用していた。

 その固定観念から脱することができていなかった。

 当然、《炎翔戟》を、接近して必殺技を叩きこむための囮にするなんてことも、頭の端にすら上らせていなかった。


「くっ―――」


 自然と。

 彼女は天井に向けて叫ぶ。


「―――そぉぉおぉおおおおおおおおっ!!!」


 悔しい。

 悔しい。

 悔しい!


 完全に上を行かれた。

 完全に裏を掻かれた。

 いわゆる《プラム式》を編み出したときは、先を行ったと思ったのに。

 理解の深さで、後れを取った……!!


〈めっちゃ惜しかった!!!〉

〈そりゃ叫ぶわ今のはww〉

〈GG!〉


「えっ? あっ!」


 配信中だったことをすっかり忘れていた。

 女の子にあるまじき、口汚い絶叫を、配信に乗せてしまった。


「す、すいません……! 思わず……」


〈いいもん見たわ〉

〈炎旋で雷翔戟をぶっ壊した時、ビビッてリアルに声出たw〉

〈ゼロ距離ブログとか予想できねーよ!〉


(あれ……?)


 いつの間にか、コメントを読めるようになっている。

 あれほど怯えていたはずなのに。

 プラムはコメント欄を上にスクロールして、2ラウンド目で負けたときのコメントを読んでみた。


〈今のはしゃーないわw〉

〈まだ行ける!〉

〈落ち着いて〉

〈言うほど不利じゃないよね〉

〈ぶっ飛ばせええええええええええ〉


(……ああ……)


 やっぱり、憧れは間違いなんかじゃなかった。

 自分が勝手に怯えて、閉じ籠もっていただけで。


(……よし!)


 メニューを開いてフレンド関係のタブに移動する。

 と、『最近一緒に遊んだプレイヤー』として、《JINKE》の名前があった。

 それに指を添えて、リスナーたちに言う。


「フレンド申請送っちゃいますね!」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「ふう……」


 マッチング・ルームの中で、いい試合の余韻に浸っていると、ピロンっと音が鳴った。


【プラムさんからフレンド申請が届きました】


「んおっ!? ファンメか!?」


 ランクマッチで負かした相手からすぐにフレンド申請が来た場合、それは結構な率でファンメール(メッセージ機能で送りつけられる罵倒や負け惜しみを皮肉った通称)のためのものだ。


 いや、でも、さすがに、配信してる奴がファンメとか送らねーよな……?

 若干ビビりながら承認すると、案の定、すぐにメッセージが飛んでくる。


〈次は勝ちます〉


「……ほほう」


 いいファンメじゃねーか。

 せっかくなので、オレも送り返してやることにした。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




〈ファンメw〉

〈ファンメ送ったwww〉

〈ファンメOP〉


 フレンド申請が承認された直後、勢いに任せてメッセージを送ったら、リスナーにとてもウケた。

 もしかしたら《JINKE》には迷惑だったかもしれないけれど……。


「……あっ」


 などと思っていたら、その《JINKE》から返信があった。

 メッセージにはこう書かれている。


〈次()勝ちます〉


「…………ふふふっ」


 思わず笑みが零れる。

 彼と直接会ったのは一度きり。

 少し身体がぶつかっただけの、通りすがりに等しい間柄だ。

 けれど、なぜだか奇妙な絆を感じていた。


(……もしかして)


 これが……『友達』というやつなんだろうか。


〈笑い声かわいい〉

〈録画した〉

〈着信音にした〉

〈待ち受けにした〉


「えっ!? ちょっ、恥ずかしいからやめてくださいっ!!」




 新進気鋭のストリーマー・《プラム》と、いまだ謎多き槍使い《JINKE》との初対決は、こうして決着した。

 この対戦は、名勝負として動画共有サイトにアップされることとなった。


 そして。

 二人の闘いを見て、多くのプレイヤーが同じように思った。


 ――こんな風に闘ってみたい。


 かつてプラムが憧れたように、今、彼女に憧れた者たちが、皆こぞって槍を手に取る。

 ランクマッチの風景が、またこうして、移り変わっていくのだった。




【8月第3週:MAOティアー・ランキング】


●ティアー1

《剣士型セルフバフ》

《タンク型セルフバフ》

《ブロークングングニル》


●ティアー2

《ダンシングマシンガンウィザード》

《バーサークヒーラー》

《コンボツインセイバー》

《ミナハ型最速拳闘士》


●ティアー3

《バインドプリースト》

《TODランサー》

《AoEウィザード》


●ティアー4

《マッシブメイサー》




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 そして。

 8月最後の週がやってくる。


 多くの学生にとっては、夏休みのラストスパート。

 しかし、ゴッズランクのプレイヤーにとっては地獄の開幕。


 これは凄惨な椅子取りゲーム。

 猛者たちがアリーナに集い、互いのランクを奪い合う。


 血で血を洗う月末ランクマッチが幕を開ける―――




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