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THE LEGEND 届かなかった末脚

 2020年、なろうデスゲーム。


 「もしも」が禁句とされるデスゲームの世界で、それでも「もしも」の誘惑に駆られる瞬間がある。


 "その作品の完結があと2日早かったら……"


 完結ブーストによる猛追。僅かな差か、絶望の距離か。その作品の名は……


 悪役令嬢は官能作家になって印税でウハウハしたい!!〜『ペンは剣より強し』ならエロは世界を救えるはず!〜


 そのペン先は、確かに頂点に届いていた。

・幻のデスゲーム覇者


 完結ブーストという言葉を見事に体現して見せたのは第4位にランクインした清水薬子先生の作品である。当該作品は、最終結果では57965PVを獲得しており、参加者の中でも高いPV数を獲得してフィニッシュしてみせた。だが、最終発表の放送がなされた21日のPV数はなんと1()4()()P()V()にまで膨れ上がっていたのだ!


 さらに当日には【異世界転移・異世界転生】日間ランキング13位にランクインするなど、その勢いはとどまることを知らない。「もしも」があるのであれば、トップの女装男子すら喰ってしまったかもしれない官能作家悪役令嬢。競走馬で例えるならばドゥラメンテ、幻の三冠馬と呼ぶにふさわしい作品だろう。


 これは分析せざるを得ない。作品の謎を解明すべく我々はナーロッパの奥地へと向かった……。


・分析:PV数


 総PV数の推移については以下の通りである。


挿絵(By みてみん)


 やはり完結後の異常ともいえる上昇率に気を取られてしまうが、見てほしいのはブースト前。調査によれば完結直前の18日のブクマ数は90ほど。日間PVも4ケタに届いており、この時点でも十分にポテンシャルを発揮している。そして完結前時点で既に3万PVを達成。完結後に一気にスターダムを駆け上がったとみていいだろう。


・分析:投稿頻度


 ほぼすべての日にちにおいて1日2回投稿を行っている。特徴的なのは、予約投稿を多用しているという点だ。たまに手動で投稿した形跡が見られる程度であり、ある程度のストックをためた上での投稿を行っていると推測できる。


 投稿時間という意味でも、朝、昼、晩の3セクションに分けて投稿を行っているのは明白だ。本エッセイでも述べた毎日投稿、序盤の複数回投稿がPV数の増大に繋がることの証明になったのではないだろうか。


・分析:小説そのもの


①文字数


 1話あたりの平均をとると2500文字であるが、1話の文字数は4000文字程度存在する。途中に挟まれたSS等の兼ね合いもあるが、文字数としては1話に詰め込みすぎているという印象は感じない。


②文章の硬さ


 軽い。口語体で綴られた地の文は小説の重さを相対的に軽くする効果がある。まぁ内容が内容なのでというところもあるが。


 しかし例の如く文体診断ロゴーンに1話を入れてみると、なんと文章が硬いという結果に。これは……ハイブリッドじゃな?


③タグ


 以下の通り。ただし、デスゲーム関連のタグは除外する。


 R15 残酷な描写あり 異世界転生 悪役令嬢 アイリス大賞8 ギャグ 女主人公 近世 下ネタ 逆ハーレムエンド 逆ハーレム 完結 キワモノ令嬢


 悪役令嬢が強いのは当然として、個人的に気になったのは逆ハーレムである。逆ハーレムという需要を求めるのはやはり女性読者ではないだろうか(そもそも悪役令嬢ものが女性読者狙いみたいなところがある)。しっかりとタグで示していることで、ハーレム狙いの男性読者をかわしつつも、女性読者の引き込みに繋がっている。


④タイトルなど


「ところでこのタイトルを見てくれ。こいつをどう思う?」

「すごく……気になります……」


 タイトルに強烈な爆弾が仕掛けられている作品は、スクロールしていても読者の目に確実に留まる。官能作家、エロは世界を救う。先ほど男性読者をかわすと言ったが、こんなタイトルを見せられてはたとえそれが逆ハーレムものだったとしても、ちょっと見てみたいという衝動に駆られるだろう。なんなら最終発表の際、悪役令嬢ものは範囲外であった自分もちょっと読んでみたいと思ってしまった。


 そして中にぶち込まれているものは男性向けの下ネタである。言わずもがな、男とは下ネタが大好きなのだ! 一度入れば確実にその魅力に留まるであろうまさに下ネタホイホイ。そんなものが『完結済み作品』としてなろうのトップページに鎮座することになればどうなるかは某ラノベ作家の裸踊りを見るよりも明らかであろう。


⑤総評


『本当は男性向けなんじゃないの? 正体見たりって感じだな』と誰もが某有名同人作家の薄い本に登場する男のようなセリフを言いたくなる魔性の作品といえる。悪役令嬢×官能作家という切り口は斬新でかつ読者を惹きつけるには十分な潜在能力があり、それを見事に発揮してみせた。


・個人的感想


 この作品から学ぶことがあるとすれば、『タイトルの火力』と『完結ブーストのタイミング』だろう。


①タイトルの火力


 読者の目に留まる、なんだこれはと思わせるようなタイトルの強さは強烈な訴求力をみせる。最近だと大相撲令嬢が有名だろうか。何か大きなジャンルとしての箱があったとして、その箱に入れようとは到底思わないものを入れることで読者の『気になる』という情を引き出すことができる。


 しかしこの手法では当然、中身としての面白さも重要になる。そしてそれは応にしてハチャメチャな展開を望んでいたりするものだ。


②完結ブーストのタイミング


 この作品の完結は19日、デスゲーム最終日である。最終日に終わるというのは気持ちがいいものだが、ブーストの余韻というものを考えるのであればその数日前にするべきだった。ブーストで伸びるということはそれだけ作品に面白さがあることの証左でもある。ブクマ数の増大からもそれは確かだ。


 だからこそ、この作品が幻の覇者となってしまったことが残念でならない。大外からのまくりを仕掛けるタイミングが遅すぎたのだ。

分析した作品はこちら。

https://book1.adouzi.eu.org/n7983gm/


また、今回分析した作品の作者様も同じくエッセイを投稿されています。

https://book1.adouzi.eu.org/n5060go/


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― 新着の感想 ―
[良い点]  どうも、元清水薬子です。まさか自分の作品が分析される日が来るとは思わず、全く気がつかないまま今日まで過ごしてました。申し訳ない。  丁寧な分析に気恥ずかしさを覚えつつ、拝読させていただき…
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