65.ニコレッタ、フェルの横顔に胸が高鳴り
あれから暫くは平穏な日々を過ごしている。
王都ではまだ王太子ローランドの婚礼を祝う雰囲気が残っており、婚礼を絡めた各種商品が多く売りに出されていた。
御結婚された奥様のイレーネのふくよかなお胸を模したであろう、"王家に嫁いだふくよか饅頭"はさすがに不敬だと取り締まりを受ける前に、周りからの強い抗議により販売されることは無かったという。
イレーネは大人しそうな顔に似合わぬふくよかなお胸をしているので、お披露目があった時もほとんどの男性がその胸に視線が動いているのは感じ取れた。
そんな私は、フェルへの恋心がさらに強く意識してしまい、今や元の姿のフェルにもドキドキしてしまう有様であった。
あの魔物の攻撃に意識を失う直前、泣きそうな顔で魔物を切り刻んているフェルの顔……ほんの一瞬だけだがあの時見えた光景が、今でも頻繁に頭の中でリピート再生されてしまう。
私が狼形態でも距離をおいていることを、フェルももちろん気付いているのであまり近くには寄っては来ないようになった。気付けば近くでこちらを優しい目で眺めているのを見て、私も目をそらした後に温かい気持ちになったりしていた。
だが、それだけに何とかしなくてはと焦ってはいた。
いくらなんでも失礼すぎる。
一方的にお世話になっておきながら、目を合わせることすらしない私に、フェルがいつか愛想を尽かしどこかへ消えてしまうのではと思って不安を感じてしまう。
ディーゴにそれを相談するが、そんなことは絶対にないから安心しろ、と言いつつもいい加減観念してイチャイチャしたら良いだろう!と怒られた。「俺も心配なんだよ!」と言われちょっと泣いた。
私は、意を決して丸まって寝ているフェルの近くに移動した。
「フェ、フェル?」
『どうした、ニコ』
甘い声で囁いているように聞こえ、グンッ!と顔を横にふって目を反らす。
「最近、フェルに、いやフェルと?あの、ちょっとさ、私がその、照れすぎてあまり、くっつけなかったのはごめん。反省はしてる、んだけどもさ?その、恥ずかしいいというか、ドキドキで死んじゃうとか?あー、つまりは……」
自分でも何を言ってんだとは思う。
そしてチラリとフェルに目を向けるととても優しい表情で見守っているのを感じ、思わずフェルのふわふわな体に飛び込んだ。
久しぶりとなるその柔らかく暖かい体に、心や安らぐ……とは当然ならず、心臓が壊れそうなぐらいバクンバクンと脈打っていた。
「フェ、フェ、フェ……」
だめだ。何も言えない。
スーハーとフェルの匂いを嗅ぎ心を落ち着ける。
考えてみたら変態極まりないなと考えると、不思議と心が落ち着いた。
そうだ、私は恐れ多くも神獣様に恋心を抱いてしまった愚かな変態だ。
そう思うと本当に落ち着いてきたから不思議だ。
「フェル、このまま人型に……いや、無理か、な?あー、うー、よし!人型に!なってみようか?」
どうしたお前と言われそうだがこれが私が発した精一杯の言葉だった。
フェルは無言で姿を変え、一瞬目の前が光り目がチカチカしたが、すぐにふわふらな狼毛?が生えた逞しい胸元に抱かれる形になり、意識が飛んだ気がした。
「ああ、変な夢を見た」
そう口に出しては見たが、やはり私は胸の中。
顔が、いや全身が熱くてしかたない。
いっそ衣服を脱いで完全武装解除をしてみたらどうだろう?頭おかしいと思われるに決まってる。
そして、混乱する私はフェルを突き飛ばし後ずさるように距離を取った。
その姿を見て、フェルは微笑んだ。
その顔を確認し、私は両手で顔を覆って下を向いた。
結局、落ち着くまで10分程度を要した私を、フェルは何も言うことも無く見守っていてくれたようだ。
ディーゴとカーリーはこっそり覗いて見守っていたようだ。
クラリスも見守っていたようだが、私がうずくまったタイミングでなぜか部屋に飛び込もうとして、ディーゴに羽交い締めにされ、口元も覆われ引きずられるように焼き場まで連れ去られたそうだ。
なんでも、ニコ様の一大事!と思ったのだとか、いや、出てこられても困るし。
そんなことを何度か繰り返し、元の姿なら普通に接することもできるようにまで回復した。
人型フェルについても普通に3秒ぐらいは目を合わせられるようになったし、目を合わせなければ抱き着く程度はできるようになっていた。
一歩前進である。
今やディーゴにカーリー、クラリスの三人は私達を優しく見守る親戚のおじさんおばさんの様な顔で、こちらをまったりと眺めることに決めたようで、余計に緊張してしまうというのが最近の悩みでもある。
いっそフェルと2人でどっかに旅行でも行こうかな?
そう思ったが、そう考えただけで心臓が死にかけたのでまだ暫くはこんな関係を続けようと思った。
そして、人間関係も少しだけ広がった私が適度に忙しく過ごしている間に、あっと言う間に時は過ぎ、とうとう18となってしまった。
前世の日本であっても18となれば成人だ。
いよいよ大人の仲間入り。
たとえこの背が低くとも、胸部が育っていなくとも……
これは神様に文句を言った方が良いのでは?
そんなことを考えつつも現状を冷静に考えてみる。
私も"さらに向こうへ!"というヒーロー物の言葉を思い出し、フェルとの関係をもう少しだけ進展させようと真剣に考えてみた。
一応、この世界で私の魔力は規格外らしいから相当長生きするらしい。
そんな今世では人族でも120才まで元気に生きていた人もいると聞く。その人は迷宮深くに潜って帰ってこなかったらしいが……
そして!人類としては最強クラスの魔力を誇る私なら、多分その倍は生きられる!そうエレオノーレに言われたが、私の人生は200才越え?正直生きる目的が見えない。
このまま楽しく暮らせれば幸せなのだが……
考えたら寿命が倍以上あるのだから、それを考えれば私はまだ9才にも満たない子供なのでは?
やめよう……逃げるのはもうやめだ。
私は、隣で草取りをして汗を流している人間臭い神狼にキッと睨む。
「ニコ?私はまた何かやらかしてしまったのか?」
フェルは不安そうに顔を歪める。
そんな顔にすらキュンとして息苦しさを覚え横を向く。
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