63.ニコレッタ、チョコレートの完成に興奮。
暖かい日差しが続いたある日、完成形のチョコが出来上がったと言うので城に取りに行った。
料理長のミケランジェとは何度も話し合って完成に到った。
私の「もうちょっと滑らかで」とか、「苦みとコクが」などという、ふわっとした説明で完成までこぎつけたミケランジェは天才だと思った。
大量の板チョコを受け取り満足に帰った数日後、王都では大々的にチョコレートは売り出された。
『聖女様御用達!チョコレッタ』という名称で……
私は抗議しようと思ったが、渋々ながら放置した。
街中でチョコを買い求める女性客の笑顔に、名前など些細なことだと感じたからというのもある。
そしていつもの冒険者ギルドでチョコ掛けフライドポテトを栗鼠の様に頬張りながら、「チョコレッタちゃん美味しいです!」というエレナに苦笑いした。
その数日後……
「チョコを開発したのはお前か!」
黒ボンテージ姿の破廉恥な幼女が拠点にやって来た。
両手にビッグバイパーとブラックオークを引きずって……
鑑定したら5万とちょっとの魔力を持っていてビビった。
久しぶりに私より強い者との対面に身構えるが、フェル達はのんびりしている。
そりゃ三人共それを遥かに凌駕してるから余裕なんだろうけど、私は緊張からか汗がじんわりと滲んでいる。
クラリスはすでにディーゴの後ろに隠れている。
「あの、何用でしょうか?」
「なあ、お前転生者だろ?」
「へ?」
「絶対そうだ!なんだよそんな三人も神獣従えて!魔力4万越えとか!まだ子供だろ?末恐ろしいわ!」
私は大いに混乱した。
鑑定で人族って出てるんだよこのクルス・ユミ・ペントラストって幼女……まだ子供だろ?という言葉をそっくりそのまま返したい。でも名前から言ってどっかの王族だよね?
この世界の単純なルール、ミドルネーム持ちの人って元々の名前+国名って事なんだよね。分かりやすいよねホント……
『魔界の王が何しに来た?』
フェルの言葉に納得。
「ああ、魔界の王か……えっ?魔王?なんで?」
予想外の言葉に思わずフェルの後ろに隠れる私。
「いかにも!私が魔王、クルス・ユミ・ペントラストだ!チョコレートを求めやってきた!」
そして魔王は両手の魔物を離すと、空間から取り出した板チョコを手に持ち満面の笑みを見せていた。
「空間魔法!」
思わず大きな声で叫んだ私にビクっとする魔王。
「いかにも!数百年鍛え上げた巧みな技術により、何と転移魔法もできるぞ!」
「おお!さすが魔王!……えっ?数百年?」
「お前……いちいちリアクションしてくれるからちょっと気持ちが良いが、そう何度もだと話が進まんな……」
「あ、はい」
私は大人しく聞こうと地面に背筋を伸ばし正座で座る。
「やっぱり転生者、というか日本人だろ?」
「まあ、幾分記憶は薄れましたがそうですね。魔王さんはクルスユミさん、で良いのですよね?」
「ああ。ユミちゃんと呼んでいいぞ。しかし、お前が分かりやすく敬語になってるな……」
「はい。ユミさんは大分年上のようですし、やはりマナーとか大事だと思うんですよ」
私の言葉に小さくため息をついた魔王は、目の前に胡坐をかき、チョコを一口頬張った後、自分の生い立ちを説明した。
魔王は転移者であり、凡そ200年ぐらい前に突然魔界に転移させられたそうだ。
元居た時代も2000年代なので私とあまり変わらないようだ。
時空の歪みか何かなのだろう。
転移する際に、あの神様が『人間には共通の敵が必要だから適度に襲って仲良くさせてくれ』と言われ、代わりに永遠の命を願ったら幼女な見た目になったそうだ。
転移前は30代で、ブラックほどではないがハードワークに疲れ切っている時、夢に神様が出てきたので、現実と思わないまま神様の話を受け入れ、目を覚ますと魔界の草原にいたそうだ。
神様の願いの方も真面目にやっていたのは最初だけで、今は魔界に引きこもって惰眠をむさぼっているという。
こちらに転移した当初は、色々な食べ物を再現したくて色々な人に醤油とか味噌とか、マヨネーズとかチョコも話をしたという。だが食べるのが専門でせいぜいポテチやフライドポテト、ホットケーキの再現が限界だったらしい。
そして、今回チョコレートがこの世界に誕生したことを精霊伝手に聞き、それが聖女が考え出したと聞いて絶対転生者だろ!と鼻息荒くここまでやってきたそうだ。ホント精霊は噂好きだな。私はまだ見たことないけど。
早速王都で大人買いしたチョコは収納に入れてあるという。
ほとんど手ぶらで来たので軍資金が乏しくまだ買い足りない様で、さっき持っていた蛇&豚はきっちり収納していた。ギルドに納品してまたチョコを買うのだろう。
私が「マヨネーズは売りに出してないけどあるよ?」と言ってバッグから瓶詰めのマヨをいくつか取り出すと泣きながら受け取っていた。
たまご、酢、油、塩と教えると、「酢かよー!」とさらに泣いた。卵、油、砂糖で別物が出来てそれで我慢していたようだ。早速瓶を開けて指ですくって舐めていた。見た目が幼女だから可愛く見えてしまう。
その後、前世の話に花を咲かせていた。
カーリーとも魔法について楽しく話をしているので、私もついでにカーリーの闇に消えるあれを教えてもらった。魔王の使う転移と同じものだったらしく、行ったことのあるところに行けるのでとても便利だ。
カーリーに「そう言えば、なんで今まで移動に使ってなかったの?」と聞くと、転移は1人用なのでカーリー自身はちょくちょく使っていたらしい。
私も、転移魔法については周りには内緒にしておこうと思う。
誰かに教えたらきっと面倒事が増えるだろう。
「また遊びにくるからな!」
夜遅く、夕食を終えた魔王はそう言って転移魔法で帰って行った。
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