58.ニコレッタ、フェルのいない夜を過ごす。
フェルを残して森へと出発した私達。
私の個人的な感情で留守番を命じてしまった為、少しだけ罪悪感があるがたまに離れるのも良いだろう。念話も緊急時以外は使用禁止にしてるから連絡がくることは無いだろうし……
それから2時間ほど、森の中心にあると言う巨大な墓場へと到着した。
降りる際には多数のゴーレムやゾンビ、スケルトンなどが一斉にその場を離れ綺麗な円ができていた。
墓場に到着した私たちの周りにリッチが3体、ヘルスケルトンが4体、私達を向かい入れるように膝をついていた。鑑定により5000を少し超える程度の魔力の為、私の敵では無いなと思い安心するが、マルティナは顔が引きつっていた。
そのマルティナにはカーリーが「大丈夫ですよ」と優しく声を掛けているので大丈夫だろう。
『お待ちしておりました』
一体のリッチが声を掛けてきたので、カーリーが「下がってて良いよ?」と伝えると一礼してすぐに輪になっているゴーストなどの群れの中に消えていった。
周りを見渡すと、多数の墓石が無造作に地面に刺さっているような感じであった。
そして、至る所に白い花が……
「これが白夜草?」
「間違いないわ。凄いわね、本当に彼方此方に生えている」
マルティナが周りをキョロキョロしながらそう言った。
王国内で確認されている他の生息地では、年に1~2本見つかれば良い方だという白夜草。その珍しさから貴族から高値で取引されている。上手に育てれば数か月は毎夜光り続けるその花の美しさを自慢するのだとか……
そんなレアな白夜草が見渡すかぎりにある光景にため息をつく。
「カーリーが言ってた通りだね」
「ええ。この花ならここではいくらでも自生している雑草のようなものですから」
そう言いながらニッコリ笑うカーリー。
その後、周囲を念入りに浄化して食事の準備を始めたカーリー。漂っていた不快感な雰囲気が一掃され、少し緊張していたマルティナもリラックスできたようだ。すぐに焼き台などをバッグから取り出すと、墓場で焼肉パーティという滑稽な状況に戸惑いながらの夕食となった。
「そう言えば今まではカーリーはここで何をして過ごしてたの?」
「何をと言われても、ただここでたたずみ時が流れてゆくのを感じてましたが?」
お肉を堪能しながらカーリーの話を聞く。
カーリーの話では遥か遠い昔には、この森にも極稀に冒険者達が入ってきたようだ。だがここ100年ほどは誰一人としてやって来ることは無く、ひたすら心を無にして過ごしていたそうだ。
暇つぶしと言えば、極稀に森を出ようとする魔物を消し去るぐらいだと言う。だから「今は毎日がとても充実していて幸せなのですよ」と言われ嬉しくなってしまう。
さらに聞き忘れていたカーリーの昔話を聞く。
私の予想は帝国の皇帝が何かがあってここに流れ着いた的な想像をしていたが、神獣とはそう言うものでは無いと言う。
この世界を神が作った時、どうしてもいくつかの時空の歪みとなる場所が出来てしまうので、そこに魔物と呼ばれる存在が生まれてしまうのだと。それを抑える役割を与えられたのが神獣なのだと言う。
そんな話を聞きながら食事を終え、遂には日も落ち薄暗くなってきた。
気付けば月明かりの中でキラキラと光を放つ白夜草。
時間が経つごとに周りの花の輝きが広がってゆく。
その幻想的な光景に、確かにこれでは寝れないなと思った。
「じゃあこの状態で摘み取れば良いんだよね?」
事前にマルティナから聞いていた採取方法を再確認。
「ええ。根は要らないから土の上から摘んじゃって構わないわ」
「では吾輩が……」
その言葉の後、久しぶりに本来の黒々とした死者の王の姿となったカーリーの体から、黒い影のような手を何本も伸びてゆく。その手は次々に花を摘み取って集めていた。
数秒後には私の前に白夜草の山ができた。
「そんなに根こそぎ採ったら無くならない?」
『抜いても抜いても生えてきてうっとおしいのですよ?』
本当に雑草みたいだ。
だが貴重な薬になると言うので遠慮なく回収しておこう。
こうして目的は達成した。
夜も更け、今夜はここにお泊りすることにした。
さすがに闇夜に飛ぶのは本気で怖い。
「そう言えば、今更だけどティナさんはお泊りとかしても良かったの?」
「ええ。出る時に行き先さえ言っておけば大丈夫なのよ。昔では考えられなかったけどね。これもニコレッタちゃんのお陰よ!」
そんな言葉にホッとする。
私はバッグから大きなベッドを出すと、その周りを土壁で作ったパーテーションで囲み、浄化で体を清め布団に潜り込むと、同じくカーリーに清めてもらったマルティナとディーゴに挟まれる。
2人に挟まれ幸せな気分になった私。
久しぶりにフェルの居ない夜だった。
『主様は、いずれフェル殿に気持ちを打ち明けたりはしないのですかな?』
空に浮かびながらそう言うカーリーの言葉に戸惑った。
「そうだぞ?犬っころはバカだから言わなきゃ気付かない!ニコが言い辛いなら俺が言ってやろうか?」
「待って?無理、ダメ!まだ言うタイミングじゃないんだよ!」
「じゃあ、いつならいいんだ?」
ディーゴの言葉にうまく返すことができず唸る。
『ディーゴ殿、主様のタイミングもありますゆえ、無理強いは良くはありませんよ?ですが主様、何があっても吾輩は主様の傍におります。常に味方でおりますゆえ、主様の好きに生きて良いと思ってますよ?』
「そうよ。人生は意外と短いの。私も気付けばもうおばあちゃんよ。後悔をしないように、時には冒険も必要な事も覚えておいてね?」
2人の言葉に唸りながらも葛藤する。
私は、暖かさの中であまり働かない頭で考えつつ、気付けば眠りについていた。
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