50.ニコレッタ、晩餐会を堪能する。
自らの相棒を出現させたクラリス。
向かいあっていたジェロームも腰についている鎧の一部からズズズと出した大剣を握る。
大柄の体形には良く似合うゴツイ大剣を上段に構えるジェロームは、気合の雄叫びと共にクラリスへと勢いよく大剣を振り下ろした。
そしてバキンと言う音が響く。
私は大剣の前に結界を張って受け止める。大きな音に耳を塞ぎたくなるが、間髪入れず大剣の側面に触れると魔力を流す。さらさらと触れていた部分が砂へと変わり、二つに分断され自由となった剣先は、結界の上をすべるようにして地面へと落ちた。
「は?へ?えー!」
その可笑しな悲鳴を上げたジェロームは、放心状態で剣の柄を握った腕をだらりと下げた。
「お、お、俺の!剣ちゃんがー!」
ジェロームは慌てて剣先を拾い上げ、縋り付く様にして頬に摺り寄せている。
「剣ちゃーん、剣ちゃぁーん!」
よっぽど大事にしていたのだろう。名前を付けるぐらいだし?
私は仕方なく傍まで行くと、「貸しなさい!」と言って反応が遅れたジェロームから柄と剣先を奪う。
そして、少し間隔を開けて揃えるようにして持つと、魔力を籠めて砂となってしまっていたその空間を埋めるように土魔法を発動させた。
消失した部分が眩しく光り輝いている。
その光が収まった後、何事も無かったかのようにそこには元の姿を取り戻した大剣が出現していた。
多少の配合比率に違いがあるだろうが、元ある部分とほぼ同じように再現されたミスリルと鋼を合わせ鋳造された大剣だ。鍛造ではないので切れ味は無いがそもそもこの大剣は押しつぶすために使っているようなのでこれで十分だろう。
呆気にとられながらもジェロームは無くなっていたはずの部分をコンコン叩き、大きく振りかぶって地面へ大剣を打ち付ける。折れないことを確認したジェロームは「こ、今回だけは勘弁してやる!」そう言い残して帝国の面々の元へ歩き出した。
「おじさんのツンデレは不要なんだよね」
そうつぶやきながら戻ってゆくジェロームを眺めるが、待ち受けている皆の目は冷たかったので、まあ頑張れよと心の中で適当なエールを送っておいた。
「まだ、やりますか?というか、まだ始まってすらいないのですが?」
その言葉に皆の顔から笑顔が消えた。
悔しそうに歯噛みしてこちらを見る皇帝。
そしてその矛先はクラリスへと向かう。
「お前らのような腑抜けはいらん!もう戻ってくるな!」
見目の良い騎士はそう言うと皇帝の後を追って訓練場を後にした。
その後ろをジェロームが追って行くが、クラリスはそれを見るだけで動けないようだった。皇帝も何も言わないので多分だがクラリスは騎士としての立場を失ったのかもしれない。
「クラリスさん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。大丈夫なんだ……」
俯くクラリスは自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。
暫くの沈黙の後、どうしたら良いのか誰も分からず動けなかった。
訓練場内をざわざわとした声だけが聞こえていた。私もクラリスの扱いを見て帝国に怒りを感じるが、彼女もきっと帝国に家族が、大切な人がいるだろう。どうしたら良いのか、私に何ができないかを考えていた。
少し経ち、陛下の元に何やら連絡が入ってきたようで一掃騒がしくなってきた。
「えー、これにて式典は終了となります。各国の代表者は予定通り順次お帰り下さい。なおお帰りの際はささやかながら ― ―」
宰相シモーネから、各国の代表に連絡事項が伝えられてゆく。
私も帰ろっかな?あ、でも晩餐会があったんだった。
そう思っていたら、陛下がこちらにやってきた。
「ニコ殿、此度は誠にありがとうございます」
「えーっと、この後は、晩餐会?」
「もちろん致しますよ。ですが目障りな帝国はおりませんので、我々との楽しい時を過ごせそうですな」
「帝国の人達、いないの?」
「ええ。急遽お帰りにになりましたよ!ハーッハッハッ!」
ご機嫌に笑う陛下の話に、私はチラリとクラリスの方を見る。
彼女は膝をつき俯いたままなので表情が見えない。
そんな彼女に気付き、陛下が「うむ」と何かを思いついたように近づいてゆく。
「ルシュール殿。でしたかな?」
「あ、こ、これは国王陛下様……クラリス・ルシュールと申します」
そう言って陛下の方に体の向きを変え跪く。
「帝国に戻る手はずは何とかしよう。良ければそれまでは城にとどまると良いが、いかがかな?」
「国王陛下様……ありがとう、ございます」
再び頭を下げるクラリス。
私はそれを見て陛下やるじゃん!と思った。
その後、陛下の指示で城の侍女たちに連れられその場を後にしたクラリスを見送り、私達は一度控室へ戻ると普段着に着替えた。晩餐会に帝国の人間が出ないのであればもう着飾る必要はない。
グレーのノースリーブに深い青の短パンというラフな格好で、晩餐会の場となる食堂のひとつへやってきた。
侍女に陛下達のすぐ近くの席へ案内されえる。
帝国の者達が座る予定であったと思われる席には、すでに知らない顔の男たちが3名座っており、私に深く頭を下げていた。
食堂に遅れて入ってきた陛下は、「今日は帝国の鼻っ柱を折ることができて気分が良いな」と嬉しそうに話していた。その流れで知らない顔の男たちが新たな公爵になる予定の侯爵家の各当主だという事も説明された。
こちらから関わることも無いだろう。そう思った私は、ニコニコと自己紹介する当主三人に適当に相槌を打ちながら、目の前の料理に集中した。
まずテーブルに出てきたのは透明なグラスに入れられたドリンクだ。
口に含むと飲むと独特のシュワシュアが口の中で踊っている。
その久しぶりの感覚にすぐそばにやってきた料理長にサムズアップで敬意を示す。
少し厳つい表情の料理長はミケランジェ・ロンカッリと言う。男爵家の次男で、幼少期からシェフになりたくて屋敷の調理場に立っていたそうだ。最近は数か月に1度のペースで新たな料理のアイデア作りに会いに行っていた。
「風魔法の得意な者にニコ様から聞いた"炭酸"、というものを何度も説明してやっと完成に至りました!」
「うん!ベリー風味に強い炭酸がマッチして美味しい!凄いよミケさん!」
2人で盛り上がって「イエーイ」とハイタッチする。
その後もオリーブオイルでカリカリに焼いたパンに魚卵のような粒々が入ったペースト状のビリ辛なものが乗ったものや、魚介のうま味たっぷりのスープ、ベーコンと葉物とトマトにマヨネーズベースのソースがかかったサラダ、ラーメンに使うような麺を使った冷麺パスタのような料理が出てきた。
最後には焦がしニンニクが香るステーキとライスでお腹を膨らませ、〆にはバニラアイスにフルーツソースがゼリー状になって混ざっているデザートだった。
どれも単品では何度か出ていると陛下も言っていたが、今日の料理には大満足だったようだ。当然フェル達も気に入ったようで、新しい公爵家当主たちも目を輝かせ料理に食らいついていた。
今後もミケランジェとは仲良くやっていこうと思った。
晩餐会が終わると、夜も更けてきたし泊って行けばよいと言う陛下に断りを入れ、森へとのんびりと帰る私たちだった。
※女騎士クラリスにドレスを着せて帝国の面々の代わりに晩餐会に出席させ、恥ずかしさに悶えるクラシスとワキャワキャさせる話を書いてみましたが、見直してボツとなりました。伝えたいことをうまく伝える文章を書くのって難しいですね。
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