48.ニコレッタ、また絡まれる。
控室まで戻ると軽く食事を頂いた。
エレオノーレはやることがあると出ていったので、夕方に行われる夜会まで時間もあるなと思った私は、適度なサイズに戻ってもらったフェルに抱かれながらしばし夕寝で夢の中へと飛び込んだ。
そして私は、メイド服の侍女達により揺り起こされた。
時間だと言うのですぐに身なりを整え会場へと移動する。
すでに会場では料理片手に歓談が行われていた。
私たちは目立たないようにこっそり会場に入り料理がならんだテーブルに向かうが、たどり着く前に呼び止められた。
「聖女様、聖女様お待ちを、少しお話を良いでしょうか?」
「良くないくてよ」
咄嗟に出た言葉に顔が引きつりそうになる。
目の前の男、帝国の公爵のどっちかが、私の返答に少し笑った気がした。
「私、何かと忙しいので」
そう言ってテーブルの方へ急ごうと体の向きを変え歩きだす。
「ちょっとお待ちを……」
「ニコにさわるな!」
その男とフェルの声に振り返ると、こちらの方へ向けて伸ばしたであろう男の手を、フェルががっちりと掴んで睨みつけていた。
「は、放せ獣風情が!」
「フェル、大丈夫よ」
暴れる男に冷たい視線を送りながら冷静を装ってフェルに声をかけた。
「これはこれは、連れの者が失礼を」
手を放してもらえた男はすぐ近くにいた帝国の群れへと戻り、代わりに皇帝がこちらにやってきた。横には皇太子もいる。やはり2人の笑顔は気持ち悪かった。
「あの者には後で罰っしておきますが、良ければしばしお話でもいかがですか?」
「遠慮します」
皇帝に短く返答する。
「良いではないですか!年も近いですし少しお話しましょう!」
私の言葉は無視され、今度は皇太子が少し距離をつめ話しかけてきた。
見た目は良いんだろうけど……
「別に話したいことなどないわ?もういいかしら?」
「何を生意気な!」
さっき絡んできた公爵のどっちかがそう怒鳴るが、その男を皇帝が睨む。
「まあまあ。私はね、聖女様をこの子の、シャルルの婚約者にしてやっても良いと思っているんです。どうでしょう?帝国では聖女様を丁重に持て成し、森などとは言わず国を全部差し上げることもできますよ?」
「は?」
思わず出てしまった言葉だが、今更聞かなかったことにはできないだろう。
私の言葉に一瞬戸惑う皇帝と皇太子。
「わ、我が帝国に嫁げば、聖女様は自由に過ごしてよいのですよ?好きなものを食べ、好きなことを楽しみ、なんなら見目の良い男も何人でもあてがいましょう。ただ一つ、我が子シャルルと子を生せば良い。それだけで一生楽しく過ごせるのです。どうでしょうか?」
流石に2度は気を抜かなかった私は、丁重に「いらないわ」と伝え、再びテーブルの方へと歩きだす。
やっとたどり着いたテーブルの上には、料理長渾身の料理が並んでいる。
夜会用に小さくまとまった料理の数々に「おお」と声が出た。
「これは、どういう料理なんだい?王国では良く食べられているのかい?」
すぐ隣から料理を指差し声がかけられ、その声に反応し横を見ると、皇太子がまたあの笑っていない目をこちらに向けていた。少し寒気がした。
「それは、給仕の者にでも聞いてくださる?」
そう言ってラーメンっぽい物の入った器と、ローストビーフのようなものが数枚入った皿を手に取り、立食できる小さなテーブルまで移動した。
さて、頂こうかな!そう思った次の瞬間、テーブルの反対側に陣取った皇太子が「おいしそうだね」と手を伸ばしてきた。
私はその手を反射的に叩き落とす。
いや手が勝手に……そんな言い訳を脳内でつぶやくが反省はしていない。
こんな小さな器に入った料理を横取りしようとする初対面の男なんて論外だよね?頭おかしいとしか思えない。
「これは聖女様、いくらなんでも我が国を継ぐ者に対し、さすがに失礼ではありませんか?」
またも近づいてきた皇帝が少し語尾を強めてそう言うが、失礼なのはそっちだろ?とストレスが募る。
「失礼なのは」
私が口を開き反論しかけた時、フェルが私と皇帝の間に立った。
「ニコは食事中だ。これ以上邪魔をするなら排除する」
流石にフェルもイライラしてるのか少し顔が怖い。
そんなフェルの迫力に少し後ずさりする皇帝と、こっそり距離を取る皇太子。
「これは、何の騒ぎかな?」
その声の先を見ると、そこには陛下が立っていた。
もちろん周りには王妃様や王太子、護衛の騎士もいる。
王太子ローランドは私の方へとやってくると背伸びして私の頭を撫で、「大丈夫?」と声をかけてくる。
ほんわりと暖かくなった感覚に、相変わらずこの子は策士だわ。と思ったがが、その後にすぐディーゴに抱き着き「今日は特に綺麗です!」と言っているのを見て、所詮は子供か、と心が冷たくなった。
「これは国王陛下、他の方々もまあお揃いで」
「何を騒いでいるのだ?と聞いているのだが?」
互いに睨み合っている2人を見て、やっぱり仲が悪いのだなと実感した。
「いえね、聖女様にはぜひ我が国へとお誘いしていたのですよ」
「それで、断られて取り乱してると?」
国王陛下の煽りに歯噛みする皇帝陛下。
「いえいえ。聖女様には帝国の素晴らしさを教えていたところですよ。失礼ながら王国では聖女様に良い待遇を与えるにも限界があるでしょうし……その点、我が国は思う限りの贅沢が許されますからな!」
「何を言う!我が国でも、聖女様へはどんな支援も惜しまぬつもりだ!」
「なにを!貧乏国が生意気な!」
「は?どうせ聖女様に相手にもされんかったのだろ?」
遂に「何を?」「やんのか?」と腕まくりをして罵り合いを始めた2人を見て、ちょっと面白いなと思って見ていた。
「面白そうですね」
横にいた王国の宰相シモーネにそう声を掛けられ、私は口をぎゅっと結んだ。
「あの、私を娶りたいなら、せめて私より強くないと……体の虚弱な方では困ってしまいますわ?」
いい加減飽きたので声を掛けてみる。
国王はそれを聞いてギョッとした後、「そう、ですね」と言って大人しくなった。
皇帝は首を傾げている。
会場は謎の静寂に包まれた。
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