19.ニコレッタ、妹の気持ちを知る
手紙を握り締め談話室に移動する。
お弁当のカツ丼を取り出すが、まずは気になる手紙を開封して目を通す。
思えば妹のファビオラについては名前しか知らない。1才に満たない時期に何度かチラ見した程度であった。少し緊張しつつも読み始める。
―― お姉ちゃんへ
その書き出しを見て少し泣きそうになった。
思えば私がいなければ何ごともなく男爵令嬢として育つことができたのに……思い出したようにまた考えてしまう。
妹は来週には遠い場所で男爵家の養子になって兄と一緒に暮らし始めるらしい。その前に一度会いたいと言う内容であった。
ファビオラも今回のことで自分にもお姉ちゃんがいて、でも捨てられて苦労を重ねて生きたのだと知らされ、それを思うと何も知らなかった自分の胸が苦しくなると書いてあり、何も悪くないファビオラの気持ちを考え、胸がキュっと苦しくなった。
もし嫌じゃなければ3日後の水曜日、食事の用意をして待っているのでこの場所にお昼前に来て欲しいと書いてあった。最後の方に取ってつけたようなお兄ちゃんも一応謝りたいって言ってるから、良ければ聞いてあげてねとも書いてあった。
あんな親だったのに、ファビオラは優しい性格に育ったんだね。手紙を読んでそう感じた。兄はまあ、子供だったからね。
エレナは私の手紙を覗き見して声を殺して号泣していた。
手紙を置くと、無言で弁当にかじりつく。
少し塩っぱかった。
「エレナさん、妹は、ファビオラは何も悪い事してないのにね……」
「そうね。でもほら、人生って理不尽なことばっかりでしょ。同じ男爵家の養子になるなら、まだそれなりの人生だって、思ってもいいんじゃない?私なんて清く正しく生きてるのにいつまでたっても平民だし?」
涙を拭きながら笑顔のエレナにそう言われて考える。
「たしかにあの親よりはましか?と考えれば……」
そう口にしてみたところで涙腺がキュっと閉じた。
水曜日かー。食堂だって言うし何も持ってかない方が良いかな?でもシロップなんかをお土産に渡しても良いかも!そう思って心が軽くなり、お弁当も美味しく食べることができる気がした。
すでに弁当を食べ終わっているフェルは、暇そうに私の背中をふわふわとしたしっぽで撫でていた。
そして約束の日。
「ここかな?」
私は指定されていた二階建ての古びた見た目の食堂の前にフェルと共にやってきた。
食堂の入り口の両脇に兵士が立っておりフェルを見て少し腰をひきながらも身構えていた。
フェルに大人しくしていてと伝え兵士たちの元へ歩く。
「ニコレッタです。妹のファビオラ・クレメンティに呼ばれて来たんですけど、お兄さんたちは護衛の人達で合ってます?」
妹も今は監視付きと言っていたので多分そうだと思って声を掛けた。
「そうです。我々は元クレメンティ家の御二方の護衛を任されております。どうぞ中へ……」
「ああ、大変申し訳けありませんが、フェル様はこちらでお待ちを頂ければと……食堂ですのでご配慮を頂けたら助かります!」
兵士は丁寧に頭を下げ、お店の隣に設置されている物凄く綺麗に改造されたであろう馬房のような場所を指し示し、フェルの入場お断りを告げていた。
確かに食堂に犬、もとい狼はね。普通に考えればNGだったことに今気が付いた。ふわふわの藁が敷いてある場所の前にたっぷりの焼肉の入ったどんぶりを出し、フェルには「待っててね」と伝えると、『仕方ないな』と渋々ながらも了承してくれた。
隣に大盛りの味噌ラーメンを出すと一瞬ご機嫌になるが、すぐに顔を真顔に戻して『早くいってこい』としっぽをふりふりしていた。
「では中へ」
兵士に誘導され中へ入ると、なんとなく面影が残る兄と初めて見る栗毛の可愛い女の子と対面する。2人とも戸惑いの表情をしており、しばしの沈黙が続いた。
「ニコレッタお姉さま、で良いのですよね!」
ファビオラと思われる女の子からそう言われうなずく私。
「初めましてって言った方が良いよね。ファビオラです。今日は来ていただきありがとうございます。とても嬉しいです」
そう言ってピンクのドレスをちょんと摘まみカーテシーをする妹を見て、お嬢様として育てられたんだなと思う気持ちと、純粋に可愛いなという気持ちが少し混ざってしまった。
「ニ、ニコレッタは覚えてないと思うが一応謝っておく。兄のマルコだ。反応が面白くてついついほっぺたをつまんだりしていた……すまなかった」
そう言って頭を下げる兄。
大丈夫。私はちゃんと覚えてるから……でもまあ子供の悪戯に今更目くじら立てる気は無い。
「ニコレッタです。お久しぶりですマルコ様、そして初めまして、ファビオラ様」
そう言ってファビオラに習ってスカートを摘まむ動作をしてフフフと笑って見せる。残念私は今日もズボンだったよ?
マルコは黙って見ていたが、ファビオラは小さく吹き出すように笑っていたので、どうやら掴みは成功したようだ。
それから用意された食堂の料理を果汁のジュースで乾杯してから食べ始める。
今日は王家からの配慮で貸し切りにしてもらったようで、食堂のおじさんが腕に縒りを掛けた料理を提供してくれているようだ。ファビオラは一生懸命私に料理を取り分けようとしてくれているが、手つきが覚束ないように見えた。
そうだよね。お嬢様だもんね。それでもその気持ちが嬉しくて心の中で応援しながらそれを見ていた。
ファビオラのリクエストにより私の苦労話を聞きながら、時折涙ぐみそうな顔で相槌を打つ妹に、ついつい食事もすすみお腹も満たされ眠気がきてしまう。
「ファビオラ様、もうお腹いっぱいだよ。マルコ様はあまり食べてないね。もっと食べよう?」
そう言いつつも欠伸が出そうで口元を押さえる。
本当に何だか眠たくなってきた。
そう思った時、胸元のペンダントがうっすらと光出すのを確認しつつ、朦朧としていた私の意識は消えて行った。
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