第3話 カフェレストラン&テラモンバー浮橋亭
ハネさんとのリンクをしたが、まだ仕事中である。
普段通りに営業を続け、夜8時に釣り堀を閉めた。
ハネさんの要望はテラモンアリーナとミッションデビュー。
それに対応できる場所が近所にある。
カフェレストラン&テラモンバー浮橋亭。
朝はカフェ、昼から夜はレストランとして営業。
夜7時からはナイトマッチと呼ばれる社会人向けテラモンマッチイベントを実施している特殊な飲食店だ。
企業や個人、官公庁からのテラモンリーダーへの業務依頼を仲介、斡旋するミッションブローカーもやっている。
社会人テラモンリーダー御用達の店である。
オレは主にモーニングとランチの客なので夜の顔には詳しくないが、良く出入りしている店ではあった。
1階がレストラン、カフェ。
地下にはバーカウンターと小型のテラモンアリーナがある。
2階がオフィス。
屋上には中型のテラモンアリーナがある。
フロアのあちこちにはスポーツバーのようなディスプレイが用意され、アリーナの様子をライブ中継している。
ちなみにアリーナ、というのはテラモンマッチを行う競技場、および競技リーグのことを指す。
今夜のフロア係は花園ルカという赤いサンゴのような髪色の女性と、砂糖菓子でできた蝶のような姿をしたシュガリィというテラモン。
さらにイカリオン、イカバリエ、タコリオン、タコバリエという髪の代わりに頭からイカ、タコ系の触手を生やした人型テラモンたちがウェイター、フロア係として働いている。
シュガリィは花園ルカのリンクテラモンだが、イカタコテラモンは浮橋亭オーナーのリンクテラモンだ。
「いらっしゃいませ。あ、伊勢さん! こんばんは! お一人ですか?」
「シュガ」
シュガリィと一緒に声をかけてきた花園ルカは国立大学に通う20歳の学生アルバイト。
夜にフロアに出ていることが多いが、志望はパティシエだそうで、昼間のメニューには時々彼女のスイーツが入っている。
「ひとりとテラモン1匹で」
カフェレストラン&テラモンバーなので当然テラモンOKである。
他の利用客たちもそれぞれのリンクテラモンと一緒に入店して飲食したり、アリーナでバトルを繰り広げたりしている。
「テラモンとリンクをなさったんですか?」
興味津々といった様子のルカに「あとで紹介するよ。テラモンミッションとアリーナへの参加を検討しているんだけど、どうすればいいのかな」と訊ねた。
「それでしたらお席のほうでご説明しますね。どこかご希望はございますか?」
「ちょっと目立つテラモンなんだ。人目に付かない個室って空いてるかな」
「かしこまりました。タコリオン、ご案内を」
「タァコ」
なんとなく『メスガキ』という単語を連想する口調で応じた触手髪の少女型テラモン、タコリオンの案内で地下バーカウンター・アリーナフロアに入る。
バーカウンターではオーナーの桐生晃一がシェイカーを振りつつアリーナの実況とレフェリングをし、その奥のテラモンマッチステージではネズミ型テラモンのメラメラット、フナ型テラモンのフナリィが対戦中だった。
前世の感覚だと魚型のテラモンを地上に出しても戦えなさそうなものだが、この世界ではボトルの効果で地上1メートルの範囲なら水中同様に動き回ることができる。
この効果で地上30センチの高度を泳ぎ、メラメラットの〈ファイアパチンコ〉の火球をかわしたフナリィは〈プチスプラッシュ〉の水弾で反撃。
メラメラットの尻尾の炎を消してダウンに追い込んだ。
試合形式は1対1ではなく、3対3の勝ち抜き戦。
メラメラットをボトルに戻したテラモンリーダーは静電気攻撃を得意とする毛糸玉テラモン、ウルボールを繰り出していく。
加熱するバトルを横目にドア付きの個室に入る。
要望通り、人目に付く心配はなさそうな部屋だ。
ハネさんをボトルからリリースする。
“面白そうなところやな。前世にはこんなもんなかったわ”
シート上の上に浮いたハネさんが周囲を見回す。
「なにか食べたいものは?」
“ほな、モダン焼きでも貰おか、ドリンクはなんでもええわ”
ゲーム世界の便利さで、普通に人間とテラモン両用のメニューが存在する。
タブレットを操作してモダン焼きとトマトジュースをオーダーすると、間もなく個室のドアがノックされた。
「ドリンクお持ちしましたー」
「どうぞー」
ドアが開いてルカが顔を出す。
「お待たせしました。ドリ……んんんっ?」
ドリンク、のところでハネさん、つまり金色のレアテラモンに気づいたようだ。
ルカは目を丸くした。
大きな声で「金色のハネコイっ!」と叫んだりするほど不用意ではないが、絶句した様子でドリンクをテーブルに置くと、個室のドアを慎重に締めた。
「その子が伊勢さんのリンクテラモン、なんですか?」
「うん、見ての通りの金色のハネコイでね。今日うちの生け簀に迷い込んできてリンクした。育ててみたいんだけれど、アリーナとか、ミッションに参加することはできるかな」
「登録は可能ですが……他にリンクテラモンはお持ちでしょうか?」
「いないね。リンクレベルも1だからレベリング用のテラモンも持てない」
聞かれそうなところを自己申告すると、ルカは少しむずかしい表情を見せた。
「シングルマッチであれば参加は可能です。ただ、伊勢さんもご存じとは思いますが、ハネコイは最弱のテラモンと言われています。初位アリーナから上に勝ち進むのは難しいかと思います。ミッションでもハネコイ一匹に依頼できることというと川の掃除とか水中のスマホやイヤホン拾いくらいで……そういう仕事でも凶暴なテラモンや動物に襲われたら大変ですし、ひと目につくようなところで金ハネコイを泳がせたりするとテラモン誘拐に遭う可能性も……最近だとハネコイを襲う凶暴な水テラモンの噂もありますし」
“ウチのことやな”
レベリングのために同族狩りをしていたらしい。
弱エレの代名詞だけあって一人前のテラモンとして扱ってもらえないようだ。
金ハネコイという希少性も、ミッションに出すにはマイナス材料となってしまう。
「わかった。ミッションのことは一旦置いておいて、アリーナにだけ参加させてもらっていいかな。ただ、ハネさんこれでレベル15あるから、レベル1のフナリィとかにはぶつけないほうがいいと思う」
スマホのテラモン管理アプリを見せる。ボトルにセットした管理キャップとリンクしてテラモンの属性、レベルと所持スキルを確認できる。
ゲームだと攻撃力などの数値、常時発動している天性スキルなどもチェックできたが、そこまでは表示されなかった。
表示項目は
――――――――――――――
ハネコイ
水属性
レベル15
スキル 〈ぴちぴち〉
〈びったん〉
〈きゅうよのさく〉
――――――――――――――
「あ、〈びったん〉があるんですね」
種族格差があるので、レベル15でも決して強力というわけでもないが、一応の攻撃スキルがあるということで、ルカはほっとしたような表情を見せた。
「わかりました。テイトー地方テラモンアリーナへのエントリー手続きを進めさせていただきます」
「よろしくお願いします」
浮橋亭は飲食店であると同時に、テラモン協会の公認店舗でもある。
テラモンマッチの地方・全国リーグであるテラモンアリーナのマッチメイク、テラモンミッションの斡旋業務をはじめ、テラモン関係の大半の手続きを店内で完結できる。
店内のタブレットでアリーナへのエントリー申請、ついでにテイトー都庁へのハネコイの登録を済ませる。
名前についてはプライバシー保護の為にアリーナ用のリングネームを使用できる。
自虐ネームになるが「ハネコイしか使えない」ということで『一本槍』としておいた。
「以上で手続きは終了です。マッチングのできる相手がいたらタブレットでご案内します」
「よろしくお願いします」
ルカがそう告げたあたりで「イカイカー」と声がして、イカリオンがモダン焼きの材料を持ってやってきた。
手続きが終わるタイミングを待っていたのだろう。




